2022年12月20日更新
夜勤の負担を軽減しスタッフ様を守るために施設ができることとは?
監修者プロフィール/武谷 美奈子(たけや・みなこ)
学習院大学卒業。(株)インターネットインフィニティー・介護相談アドバイザー、福祉住環境コーディネーター、宅地建物取引士。
これまで高齢者住宅の入居相談アドバイザーとして約20,000件以上の相談を受ける。セミナーの講師をする傍ら、新聞・雑誌などでコメンテーターとしても活躍。
BS日テレ:深層ニュース「失敗しない老後の住まいの選び方」出演。
著書 日経ヘルスケア:「これで失敗しない! 有料老人ホーム賢い選び方」。
ご利用者様を24時間体制で見守る介護施設においては、夜勤業務は欠かせないものです。一方で、慢性的な人手不足もあいまって夜勤業務がスタッフ様の負担となっているケースがよく見られます。
円滑に施設を運営するためには、施設側がスタッフ様の負担軽減に努める必要があります。そこで本記事では、夜勤業務の負担軽減のために施設側が行える取り組みをご紹介します。
介護施設における夜勤の現状
介護施設においては、排泄介助や自力での体動が難しいご利用者様の体位交換介助など、昼夜を問わずに必要なケアがあります。認知症の方は昼夜を判別することが難しい場合もあり、夜間に動かれることがあるため、スタッフ様の対応が必要です。
日本医療労働組合連合会が公表している「2021年 介護施設夜勤実態調査結果概要」によると、16時間前後勤務する2交替夜勤の形態をとっている施設が全体の87.6%あります。過去の調査結果でも2交替夜勤を採用している施設は80%台後半から90%代前半で推移しています。また、同調査では、2交替夜勤・3交替夜勤がある混合型夜勤の施設は2.3%、3交替夜勤は10.1%という結果も公表されていました。このことから介護施設においては、2交替夜勤が一般的な勤務形態となっていることが分かります。
なお、2交替制勤務を実施する施設のうち80.5%が16時間以上の夜勤を実施しています。
労働基準法で定められている介護職の夜勤条件
労働基準法では1日の労働時間は8時間までと定められていますが、2交替制勤務の場合、前述した通り、夜勤時間が16時間以上になる施設も少なくありません。本来であれば認められない勤務時間ですが、介護職においては「変則労働時間制」が適用されているため、8時間を超えての勤務が可能です。
変則労働時間制とは、1週間あたりの労働時間が40時間以内であれば、1日8時間を超えて労働できるという制度です。
さらに、「変則労働時間制の特例」によって、特例措置対象事業場に該当する病院・社会福祉施設は1週間あたりの労働時間が44時間まで緩和されています。
ただし、家庭で育児や介護をされている方に対しては、深夜労働の制限規定があります。「小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者」「要介護状態にある対象家族を介護する労働者」は深夜労働の制限の対象となり、事業主に対して深夜労働の制限を請求できます。
スタッフ様が深夜労働の制限を受けるためには、制限開始の1カ月前までの事前請求が必要です。
施設として対策できること
人手不足の中でも、介護施設において欠かせない夜勤業務を円滑に実施するためには、スタッフ様の負担を軽減する取り組みが必要です。ここからは、負担軽減のために施設側が行える対策をご紹介します。
夜勤の勤務態勢を見直す
夜勤業務の負担を軽減するために、「勤務間インターバル制度」を導入する方法があります。勤務間インターバル制度とは、勤務が終了した時刻から次の勤務を開始する時刻までの間に11時間以上の休息(インターバル時間)を設ける制度のことです。
介護施設の夜勤では、休息時間が足りずにスタッフ様に負担がかかってしまうことがあります。勤務終了後から次の勤務が開始されるまでに11時間以上のインターバル時間を取ることで、休息と生活の時間を十分確保できるようになります。
勤務間インターバル制度を導入した場合、就業時間が後ろに伸びれば次の始業時間もその分後ろ倒しとなる点に注意が必要です。細かな時間設定が難しく、都度始業時間が変更されることを避けたい場合は、ある時刻以降の残業を禁止し、次の始業時刻以前の勤務を認めないことでインターバル時間を確保できます。
これに加えて、雇用形態や採用も見直してみましょう。非常勤や派遣・臨時スタッフが多い施設では、コミュニケーション不足によりスタッフ間の連携がうまくとれず、負担が増加する可能性があります。
夜勤の労働環境を見直す
スタッフ様の負担軽減には、夜勤の労働環境の改善に取り組むことも有効です。ここからは、労働負荷を軽減する方法や、人材確保のための対策をご紹介します。
■労働負荷を軽減する取り組みを実施する
近年では、業務負担を軽減できるICTツールや介護ロボットの導入も進んでおり、そうした技術を活用するのも負担軽減につながります。
例えば介護記録をICT化することで、手書きよりも読みやすく、転記ミスなどのない記録表を作成できます。スタッフ間の情報共有が容易になり、ご利用者様の状態を一元管理できるようになるため、多職種間での連携も取りやすくなります。
介護ロボットの活用も効果的です。ご利用者様の移乗介助をアシストしてくれる機器を導入すれば身体的負担を減らせますし、排せつを予測するデバイスや睡眠異常を検知して知らせるセンサーを活用すると夜間巡回の負担を軽減できます。
このような先進技術を活用することにより、夜間の少ない人員でもゆとりをもってケアにあたれるようになります。
おむつ交換業務の見直しも有効です。夜間のおむつ交換は、スタッフ様の負担になるだけでなくご利用者様の睡眠を妨げることもあります。
夜間のおむつ交換をできるだけ避けるためには、ご利用者様の排泄パターンを把握したうえで適切な交換回数の尿とパッドを使用することや、あて方の手技向上も効果的です。
詳しくは「ご利用者様の安眠を確保したい・夜間の排泄ケア業務を見直したい」でご紹介していますので、ぜひご覧ください。
■給与の見直しと人材確保のための施策を講じる
給与については、夜勤手当の支給を検討してみましょう。労働基準法で夜勤の時間帯にあたる22時〜5時の労働に対しては深夜手当(深夜割増賃金)を支払わなければいけませんが、それとは別に夜勤手当を支給する施設もあります。
夜勤手当は労働基準法で定められた義務ではありませんので、手当の有無や金額は施設側の判断で決められますが、スタッフ様のモチベーションを維持するために可能な限りの配慮は必要といえます。そうした配慮は人材募集の際にもアピールできます。
人材の確保においては、夜勤専従スタッフを雇用する方法があります。夜勤手当が付く上に、夜勤明けの翌日も休みになることが多く、自分の時間を長く確保できるため好んで夜勤専従を選択するケースもあります。副業で行う人もいるため、そうした人材を採用できれば正社員の夜勤配置を必要最低限に抑えられます。
これらに加えて、管理者が夜勤の実態を把握し、改善に努めることも重要です。管理者は定期的に夜勤業務に携わり、ご利用者様の状態とスタッフ様の働きをチェックして、夜勤業務の負担軽減を図るための施策を打ち出し、対策を講じましょう。
夜勤明けの過ごし方の指針を示す
夜勤業務によって生活のリズムが崩れると、体調を崩してしまうことがあります。健康的に働けるよう、施設側は夜勤明けの過ごし方の指針を示すことも必要です。
夜勤明けの日中には軽く運動を行うことを推奨しましょう。これにより、リフレッシュ効果を得るだけでなく、適度な疲労を持つことで夜の睡眠の質を高められます。そうした行動指針を示すことで日勤に切り替わる際、身体的な負担の軽減につながります。
また、夜勤明けに仮眠をする際も身体サイクルを崩さないために、睡眠は2時間程度に留めるようにします。仮眠時間を取りすぎると夜に眠れなくなってしまうため、仮眠時間の目安も指針に加えましょう。
夜勤の負担軽減は施設運営においても重要
夜勤業務は介護施設にとってなくてはならないものです。スタッフ様になるべく負担をかけない夜勤体制を構築することは、スタッフ様の健康維持のためだけでなく、ケアの質の維持・向上、離職率を抑えることにおいても重要です。夜勤の体制や労働環境を見直して、円滑かつ安全な施設運営に努めましょう。
参考:
・日本医療労働組合連合会「2021年 介護施設夜勤実態調査結果概要」
・厚生労働省「男女雇用機会均等法育児・介護休業法のあらまし」
・厚生労働省 徳島労働局「1箇月単位の変形労働時間制」
・厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル 高齢者福祉・介護事業種版」
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