コラム

2022年10月18日更新

職員からの離職申し出に正しく対応する方法

執筆者プロフィール/伊藤 亜記(いとう・あき)
株式会社ねこの手 代表取締役
短大卒業後、大手出版会社へ入社。祖父母二人の介護と看取りの経験を機に、社会人入学にて福祉の勉強を始める。98年、介護福祉士を取得し、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行を務める。
その後、大手介護関連会社の支店長を経て、介護コンサルタント「株式会社ねこの手」を設立。
現在、旅行介助サービスや国内外の介護施設見学ツアーの企画、介護相談、介護冊子制作、介護雑誌の監修や本の執筆、連載、セミナー講師、TVコメンテーター、介護事業所の運営・営業サポートなど、精力的に活躍中。現在、年間200回以上の全国での講演やセミナーをこなす。 特に介護記録の書き方や実地指導対策、介護業界の集客法、介護職のモチベーションアップ、介護職の人材育成、離職防止などの講義で全国的に高い人気を得ている。
2010年4月 子どもゆめ基金開発委員就任。医療・福祉法人の顧問や大手介護会社のコンサルタントも多数務める。
介護福祉士/社会福祉主事/レクリエーションインストラクター/学習療法士1級/シナプソロジーインストラクター

人材不足の続く介護職において、職員の退職は大なり小なり施設に影響を及ぼします。とは言え無理に引き止めるのは双方にとってマイナスになる可能性もあり、適切な対処が求められます。
そこで今回は、離職を申し出られた際に上司としてどのような対応をすればよいのかを紹介していきます。

※本媒体では、介護施設等の入所者は「ご利用者様」、施設職員を「スタッフ様」と表記しておりますが、本記事では「利用者」「職員」としております。

離職率と辞める理由

介護職員の離職率

厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概況」によると、雇用者全体の離職率は14.2%、介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態調査結果 事業所における介護労働実態調査 結果報告書」によると、介護職員の離職率は14.7%となっており、介護職員の方が若干高い程度でした。ただし、高齢化と人手不足が顕著な訪問介護員の離職率は15.6%となっており、雇用者全体から見ると離職率の高さが読み取れます。

介護職員が辞める理由

介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」を見ると、「前職(介護関係の仕事)をやめた理由」の第1位は「結婚・出産・妊娠・育児のため」で25.0%、第2位は「職場の人間関係に問題があったため」で16.6%、第3位は「自分の将来の見込みが立たなかったため」で15.0%でした。

また、同調査では「労働条件・仕事の負担についての悩み、不安、不満等」については、「人手が足りない」が52.0%で最も高く、次いで「仕事内容のわりに賃金が低い」が38.6%となっていました。介護保険サービス系型別でみると、居宅介護支援以外では「人手が足りない」が最も高く、中でも施設系(入所型)においては70.4%を占めています。一方、居宅介護支援は「仕事内容のわりに賃金が低い」が最も高く、38.6%となっています。

なお、悩みや不安、不満で最も多かった「人手が足りない」についてですが、介護事業を運営する基準の一つである「人員配置基準」にのっとって人員配置を適正に行っていても、「職員一人ひとりのスキルの違いがある」ことや「業務分担が適正でない」などの理由で、スキルのある職員にばかり業務負担がかかり、「人手が足りない」と感じることも多いようです。

離職を申し出られたときの対応

時間を取って真剣に話を聞く

介護業界は管理者が相談員やサービス提供責任者等の職種を兼務しているケースが多いです。そのため職員から離職の相談をされた際も、「時間を取って真剣に話を聞く」という心の余裕をなかなか持てない状況です。

しかし、この対応を怠ると、離職を検討している職員は「この上司は私を必要としていない!」と誤解し、離職の検討から決断へと踏み切ってしまいます。職員が離職を申し出る時には、まだ検討段階の場合も多いので、「時間を取って真剣に話を聞く」ことで、「この上司は私を必要としてくれている!」と正しい理解を得ることができます。

また「家庭の事情」を理由に退職を申し出る職員もいますが、「退職意向の真の理由を引き出す」ようにしましょう。波風を立たせないために「家庭の事情」を離職理由にする職員もいますが、「家庭のどのような事情なのか?」と具体的に内容を確認し、他に真の理由があるならば、解決に向けた提案をしましょう。

離職したい真の理由が「家庭の事情」の場合には、「残業なく帰宅することで、解消できるのか?」「日勤帯の業務だけなら、解決できるのか?」「常勤から非常勤に働き方を変え、時短勤務や勤務日数を減らすことで解消できるのか?」などを提案することで、離職を回避できる可能性もあります。

解決策を一緒に考える

別のキャリアを求めているなら道筋を一緒に考える

前述しましたが、今の働き方が問題なら、「常勤から非常勤に働き方を変える」ことも離職回避の一つです。

一方で、保有資格を活かし「介護支援専門員をやりたい!」「生活相談員をやってみたい!」といったキャリアアップを理由に離職を申し出るケースもあります。
タイミング良く、自施設や系列事業所に介護支援専門員の業務を常勤で行えるステージがあれば良いですが、ない場合には「しばらくは今の事業所の業務との兼務で介護支援専門員の業務に慣れてもらい、いずれ介護支援専門員が常勤で行えるようにサポートするから」と提案してみると良いでしょう。同様に「生活相談員をやってみたい!」という希望についても、自施設や系列事業所に常勤で業務が行えるステージがない場合においては、いずれ常勤で行える話をし、慣れてもらいながら兼務を提案することで離職回避につながります。

新人指導スキルが高ければ研修を任せてみて管理者の道を示す

介護業界のICT化により「PC作業もできないし、ついていけない」と離職を申し出るケースもあります。ただ、PC作業は苦手でも、コミュニケーションスキルがあり、新人職員にも丁寧に教育ができるので、同僚や後輩職員の人望や評価が高い、という職員もいます。そのような職員には「教育担当」を担ってもらう提案を行いましょう。今まで自分で気付かなかったスキルをさらに開花させるきっかけになり「あの時辞めないで良かった」と思うようになれば、ゆくゆくは離職を申し出る職員の面談も担ってもらえます。

ステップアップのビジョンを確認する

採用面接や定期面談の際にヒアリングした将来のビジョンをトークの中に盛り込み、「望むステップアップのビジョンのサポートをしたい」と提案し、離職を回避しましょう。

介護現場の採用面接をしていると「将来どんなお仕事をされたいですか?」という質問に対し、「ケアマネジャーになりたい」と言われることも多いかと思います。ケアマネジャーの受験資格としては以下が挙げられます。

(1)特定の国家資格を保有している人
医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師、准看護師、理学療法士作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、視能訓練士、義肢装具士、歯科衛生士、言語聴覚士、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師、栄養士(管理栄養士含む)、精神保健福祉士のいずれかを保有し、これらの国家資格に基づく業務の実務経験が通算5年以上であり、従事した日数が900日以上であれば受験資格を得られます。

(2)介護施設などで相談援助業務などに従事している人
上記の国家資格を保有していない場合でも、生活相談員、支援相談員、相談支援専門員、主任相談支援員として、受験資格に定められる相談援助業務に通算5年以上の従事期間があり、900日以上の従事日数があれば、受験資格が与えられます。

ケアマネジャーになるには、資質と経験が求められるだけでなく、高齢者の身体と心についての知識や、介護保険に関わる法律や制度に関する知識も問われます。このような、ステップアップに必要なことを具体的に示すとともに、いまの業務が将来のビジョンにつながることを伝えましょう。例えば、サービス提供責任者や生活相談員の業務経験は、のちにケアマネジャーになったときにも活かせることでしょう。

客観的なプラス評価を伝える

職員から離職の申し出があった際には、単に「今まで助けてくれてありがとう」では、職員の心に響きません。頑張って支えてくれたことで、利用者、チーム、施設に得られたメリットを伝えましょう。例えば、利用者アンケートで「〇〇さんにいつも優しく声をかけてもらって嬉しい」という声が寄せられているだとか、職員面談で「〇〇さんはいつも困った時に声をかけてくれて、助けてくれる」という声が上がっていることなどを伝えましょう。

そして本来、このような声は速やかに伝え、感謝の気持ちも伝えなければなりません。このタイミングでの伝達になったことをお詫びし、今後も戦力として支えてもらえないかと提案し、離職を回避するようにしましょう。介護業務で大切なのは「申し訳ございません」「ありがとうございます」が、素直に言えることです。上司自ら心がける必要があります。

離職を防げないケースも視野に入れる

慰留のための提案をしても離職が回避できない場合はあります。その職員が「管理者」「相談員」等を担っており、後任の職員がいない場合には、「採用を急ぐものの、良い人が採用できるか分からないので、後任者が採用できるまでは働いてほしい」と交渉してみましょう。

引き継ぎの際には「コンプライアンス」に基づき、引き継ぎ書の作成依頼を行い、次に業務を担う職員への引き継ぎをきちんと行ってから退職するように話をしましょう。「コンプライアンス」に基づいた引き継ぎが適切に行われていないと、後に行政の運営指導(旧実地指導)に対応する際に、「運営基準に基づいた帳票整備ができていない」ことが発覚し、引き継いだ職員に負担をかけることになります。離職の負の連鎖を招くことになるため、引き継ぎをきちんと終えたうえで退職してもらうようにしましょう。

また、訪問介護のような、限られた職員で利用者のケアに関わっているケースにおいては、利用者に個人的に離職の話をし、次に勤務する訪問介護事業所に利用者を誘導してしまうケースもあります。そのようなことがないように、「機密保持誓約書」に基づき、「退職後も業務上知りえた利用者の情報を流用しないように」と念を押すことは、後の事業所運営において重要です。これはケアマネジャー業務においても同様なので、日頃の「個人情報保護法」に基づく研修においても周知徹底してください。

離職させないための環境づくりも大切

前述したとおり、介護関係の仕事をやめた理由の第1位は「結婚・出産・妊娠・育児のため」で25.0%、第2位は「職場の人間関係に問題があったため」で16.6%でした。

コロナ禍で異業種からの転職希望も多い中で、離職率は低下の傾向ではありますが、今後アフターコロナにおいて、離職率が上昇する懸念はあります。では、どのようにしたら職員の離職を防ぐ環境をつくれるのか、離職理由を基にご紹介します。

結婚・出産・育児を理由とした離職を防ぐ

令和3年度介護報酬改定では「介護や育児を理由に時短で働く場合においては、週30時間勤務すれば常勤として勤務が可能」になりました。

特に女性の場合は、結婚や出産などのライフスタイルが変化するタイミングで退職する傾向が見られますが、今年度から「男性育休も奨励されている」中で、ワークライフバランス=仕事と家庭との両立の対応は急務です。

家庭の事情に合わせて、「介護休業や育休制度などの積極的な利用を促す」ことは当然ですが、介護保険や保育園の利用等の相談にも対応できるようにすることも、末永く働いてもらう上では重要です。

また前述しましたが、家庭の状況に合わせて、業務内容を見直し、「残業しない他の職員と連携した業務シェアの仕組み作り」や「ライフスタイルに合わせて常勤から非常勤に勤務体系を変える」等も必要になります。

子育ては「自分が来た道」、介護は「自分が行く道」と考え、職員の人生のライフスタイルに合わせてサポートできる仕組み作りを目指していきましょう。

職場の人間関係を理由とした離職を防ぐ

介護職の場合、事故やトラブルを防止するためにも、さまざまな職種が連携して業務を行う必要があり、人間関係や経験・知識の違いが影響を及ぼすこともあります。

例えば「分からない専門用語や略語が申し送りに含まれている」、「分からないことを質問したくても、上司や先輩が忙しそうで質問できない」、「苦手な業務をさせられる」等、周囲とのコミュニケーション不足が原因で仕事がスムーズに進まず、「利用者に対して質の高い介護サービスを提供できない」ということに悩んでいる職員もいます。

未経験の職員の場合は認知症の方の対応で苦労をされるケースも多いものですが、上司や先輩が忙しいからと声をかけずにいると、声が小さく自信のない職員の声が聞こえずに、「先輩職員に声をかけても無視される」等、事故やトラブルが起きた時に、日頃から適切に対応、指導できていないことがハラスメントと受け取られるケースもあります。

介護の経験があって転職してきた職員でも、新たな職場で人間関係をうまく構築できるか不安を感じるものです。また、「経験があるから」という理由から適切にOJTが行われず、現場の流れで覚える研修スタイルに不安を感じる職員もいます。定期的な面談では、そのような小さな不安を聞くことで、後の大きな不満から退職になることを防ぎますので、面談を行う際には、小さなことでも言えるような環境を作り、解決出来るようにしていきましょう。

不安にならないよう入職時のオリエンテーション、OJTは経験・未経験問わずに行う

OJT担当者の指導の違いが、不安を招くことがあります。そのようなことがないように「OJTマニュアル」を整備しておくと良いでしょう。

入職後の面談は、試用期間内は1カ月ごとに行う

入職後の面談の際は、職員本人に「1カ月を振り返り、業務を行ってどうだったか?」「翌月はどのようなことを目標に業務を行いたいか?」「どのようなことが良い点で、どのような点の改善をしてもらいたいのか?」など、互いの改善点含め確認を行い、翌月の目標設定を行います。

このような入職時からの面談を怠ると、試用期間終了前に不安になり、退職に至ってしまうかもしれません。不安や改善点については聞くだけで終えずに、面談時での解決や上司等に確認が必要な場合には確認する旨を伝え、速やかに確認、返答をするようにします。不信につながらない人間関係の構築に努めることが重要です。

初めて築く人間関係には沢山の不安があります。「言ったらすぐに対応してもらえる」という安心感を信頼感に変えるように努めていきましょう。
 
また、職員には1カ月ごとに「振り返りシート」を記入してもらい、面談者は「面談シート」に記入を行い、後々に話のズレが生じないように、面談の終わりに読み上げながら確認しましょう。

「職員に元気がない」「利用者への言葉遣い等に問題がある」等が見られた場合には、他の職員や利用者からの苦情につながる前に、なるべくその日のうちに面談し、職員へ説明し、改善への理解を得るようにしましょう。

まとめ

私は祖父母の介護と看取りを経験し、社会人入学で介護の勉強をし、26年間介護業界でお世話になっています。
離職理由の一つの「介護離職」も経験しましたが、私の介護を経験した時代とは違い、2000年から介護保険制度も始まり、労働基準法も整備をされ、介護や育児を理由に離職をすることがないような社会整備もされています。

また「人手不足」を招いているのは、スキルに合わせた教育や業務内容になっていないことや、職員同士の声がけを始めとするコミュニケーションが不足していることが原因になることも多々あります。私も皆さんも介護業界に始めて入った時に、不安な「初めの一歩」があり、たくさんの支えがあり、今に至っています。上司が部下を、部下は上司を、同僚同士で、先輩は後輩を、後輩は先輩を人としてお互いを、「褒めて」「認めて」「必要とする」「愛する」介護現場になるように、今回ご紹介した内容をご参考にしていただければ幸いです。

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