2024年10月22日更新
介護保険施設と医療機関の連携。令和6年度改定で特養・老健はどう変わる?
監修者プロフィール/石井 富美(いしい・ふみ)
多摩大学大学院経営情報学研究科客員教授
ヘルスケアビジネス経営人材育成研究所所長
多摩大学医療・介護ソリューション研究所副所長
関西学院大学非常勤講師、大阪公立大学非常勤講師
東京理科大学理学部卒、多摩大学院経営情報学専攻科修了。経営情報学修士(MBA)、医療情報技師、認定医療メディエーター等の資格を持つ。
IT企業でソフトウエア開発に携わっていた経験を病院経営に活かし、病院の新規事業の企画・経営管理・人材育成などに携わってきた。現在はヘルスケア分野に広く携わり、社会人大学院で地域医療経営の講座を持ちつつ、地域包括ケアのまちづくりアドバイザー、医療介護事業の経営サポート、医療経営人材育成活動、企業向け医療ビジネスセミナーなどを行っている。
主な著書:「経営企画部門のマネジメント」「診療データの戦略的活用法」日本医療企画、「複眼で見る医療経済とイノベーション」千倉書房 等
令和6年度(2024年度)の介護報酬改定では、「地域包括ケアシステムの深化・推進」が重要なテーマとして掲げられました。特に介護保険施設と医療機関の連携に関しては「協力医療機関連携加算」が新設されるなど、連携強化のために多くの改定が実施されています。
そこで今回は、介護保険施設として求められる対応について改定内容とあわせて紹介していきます。
介護保険施設と医療機関との連携課題
介護保険法に基づき、厚生労働省では介護保険施設に対し、ご利用者様の病状が急変した場合に相談や診療ができる協力病院を定めることを義務付けています*1。一方で実態を見ると、協力病院を定めてはいるものの、連携が機能していない施設が数多く存在するのが現状です。この課題は、令和6年度の介護報酬改定の論点にもなりました。
具体的には、介護保険施設と協力医療機関との連携内容が施設ごとに異なっていることや、緊急時の対応方法が、電話相談、外来受診、往診など施設によってさまざまであることが問題視されています。また厚生労働省の調査*2によると、「入所者の入院や休日夜間における対応等を主たる協力病院と直近で確認した時期」という問いに対して、介護老人保健施設の52.9%が「施設の設立時」と回答をしており、連携不足が懸念されています。
介護老人保健施設が抱える課題
厚生労働省が行った調査*3によると、介護老人保健施設が提供できる医療機能の割合は、酸素療法(酸素吸入)が約66%、静脈内注射(点滴含む)が約61%、喀痰吸引(1日8回以上)は約50%にとどまります。一部の施設では体調が急変しても十分な医療ケアを受けられないケースがあるようです。
一般的に医師が不在になる夜間や休日には、施設が提供できる医療機能が一層不足してしまうことも問題視されています。これらの課題に対し、介護老人保健施設には、特に夜間・休日における施設内の医療対応能力の向上や、協力医療機関との連携体制の構築が求められています。
特別養護老人ホームが抱える課題
特別養護老人ホームが提供できる医療機能の割合を見ると、酸素療法(酸素吸入)が約54%、静脈内注射(点滴含む)が約32%、喀痰吸引(1日8回以上)が約24%*3となっています。
特別養護老人ホームが抱える課題の一つは、配置医師の制度です。多くの場合、常勤ではなく近隣の医療機関から来る嘱託医が多いため、オンコール対応の際、必ずしも駆けつけられないことがあります。加えて、同じ組織に属していないため、ご利用者様についての情報共有が難しいという課題も考えられます。この現状を踏まえ、特別養護老人ホームは、医療対応が必要な場合にできるだけ施設で対応できる体制を整え、「終の棲家」としての機能をさらに高めていく必要があります。
医療ニーズへの対応を後押しする令和6年度(2024年度)の介護報酬改定の内容
これらの課題を受け、令和6年度(2024年度)の省令改正では介護保険施設と医療機関との連携のために、協力医療機関要件の見直しが行われました。
●要件概要
(ア)以下の要件を満たす協力医療機関(③については病院に限る。)を定めることを義務付ける(複数の医療機関を定めることにより要件を満たすこととしても差し支えないこととする。)。その際、義務付けにかかる期限を3年とし、併せて連携体制に係る実態把握を行うとともに必要な対応について検討する。
①入所者の病状が急変した場合等において、医師又は看護職員が相談対応を行う体制を常時確保していること。 ③入所者の病状の急変が生じた場合等において、当該施設の医師又は協力医療機関その他の医療機関の医師が診療を行い、入院を要すると認められた入所者の入院を原則として受け入れる体制を確保していること。
②診療の求めがあった場合において、診療を行う体制を常時確保していること。
(イ)1年に1回以上、協力医療機関との間で、入所者の病状の急変が生じた場合等の対応を確認するとともに、当該協力医療機関の名称等について、当該事業所の指定を行った自治体に提出しなければならないこととする。
(ウ)入所者が協力医療機関等に入院した後に、病状が軽快し、退院が可能となった場合においては、速やかに再入所させることができるように努めることとする。
3年間の経過措置が取られていますが、現在の協力医療機関が要件を満たしていない場合は連携先を変えるか、複数の医療機関との連携によって要件を満たす必要があります。
この省令改正に伴い、令和6年度(2024年度)の介護報酬改定では加算について細かな見直しが行われました。ここでは介護老人保健施設、特別養護老人ホームに関連するものを紹介します。
配置医師による緊急時対応の強化
医療ニーズの高まりを受けて、「配置医師緊急時対応加算」の見直しが行われました。
これまでは配置医師の緊急対応に対する追加報酬は早朝、夜間、深夜のみに支払われていましたが、日中でも通常の勤務時間外であれば、加算を算定できるようになりました。
▼改定内容の概要
入所者に急変が生じた場合等の対応について、配置医師による日中の駆けつけ対応をより充実させる観点から、現行、早朝・夜間及び深夜にのみ算定可能な配置医師緊急時対応加算について、日中であっても、配置医師が通常の勤務時間外に駆けつけ対応を行った場合を評価する新たな区分を設ける。
▼対象施設と改定内容の詳細
対象
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
変更点
「配置医師緊急時対応加算」に以下が新設。
→325単位/回
算定要件
緊急時の対応方法の定期的な見直し
協力医療機関との連携を強化する観点から、以下の改定が行われました。
施設運営者は配置医師及び医療機関との連携を緊密に保ち、定期的な見直しと改善を行って、緊急時対応を強化することが求められます。
▼改定内容の概要
介護老人福祉施設等における入所者への医療提供体制を確保する観点から、介護老人福祉施設等があらかじめ定める緊急時等における対応方法について、配置医師及び協力医療機関の協力を得て定めることとする。また、1年に1回以上、配置医師及び協力医療機関の協力を得て見直しを行い、必要に応じて緊急時等における対応方法の変更を行わなければならないこととする。
▼対象施設と改定内容の詳細
対象
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
変更点
配置医師及び協力医療機関とは、以下のような規定を定めておく必要があります。
▼緊急時等の対応方法に定める規定の例
協力医療機関との定期的な会議の実施
協力医療機関との連携強化にあたっては、定期的な会議の実施を促進するため、「協力医療機関連携加算」が新設されました。
令和9年3月31日までは経過措置の期間が設けられていますが、厚生労働省は単位数を今年度(令和6年度)だけ上乗せし、現場に早期の対応を促しています。協力医療機関と定期的に情報を共有し、連携体制を強化する取り組みが求められています。
▼改定内容の概要
◯介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、認知症対応型共同生活介護について、協力医療機関との実効性のある連携体制を構築するため、入所者または入居者(以下「入所者等」という。)の現病歴等の情報共有を行う会議を定期的に開催することを評価する新たな加算を創設する。
◯また、特定施設における医療機関連携加算について、定期的な会議において入居者の現病歴等の情報共有を行うよう見直しを行う。
▼対象施設と改定内容の詳細
対象
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、認知症対応型共同生活介護など
変更点
「協力医療機関連携加算」に以下が新設されました。
※介護老人福祉施設、介護老人保健施設の場合を抜粋
(1)協力医療機関が下記の①~③の要件を満たす場合
→100単位/月(令和6年度)、50単位/月(令和7年度~)
(2)それ以外の場合 →5単位/月
協力医療機関の算定要件
①入所者等の病状が急変した場合等において、医師又は看護職員が相談対応を行う体制を常時確保していること
②高齢者施設等からの診療の求めがあった場合において、診療を行う体制を常時確保していること
③入所者等の病状が急変した場合等において、入院を要すると認められた入所者等の入院を原則として受け入れる体制を確保していること
事業所の算定要件
厚生労働省は報酬改定の解釈通知において以下のような算定ルールを規定しているため、これらに基づいた対応が求められます。
▼具体的な算定ルール
なお、算定要件を詳細に理解するためには、厚生労働省が公表している介護報酬改定に関するQ&Aも役立ちます。
例えば算定要件に「入所者の現病歴の情報共有や急変時の対応の確認などを図る会議を定期的に開催すること」とあります。これだけでは定期的な会議にどのような人が出席すべきなのかは分かりませんが、Q&Aには出席者について次のように記載されています。
さまざまな資料を活用して情報を収集し、施設として対応すべきことを把握することが重要です。
感染症対応でも医療機関との連携が求められる
2020年以降、新型コロナウイルス感染症のクラスター発生により、多くの介護保険施設が事業継続に困難を極めたことを受け、令和6年度(2024年度)の改定によって感染症対応力の底上げが図られています。「高齢者施設等感染対策向上加算」の新設が行われ、感染症対応についても医療機関との連携が求められています。
▼改定内容の概要
◯高齢者施設等については、施設内で感染者が発生した場合に、感染者の対応を行う医療機関との連携の上で施設内で感染者の療養を行うことや、他の入所者等への感染拡大を防止することが求められることから、以下を評価する新たな加算を設ける。
ア 新興感染症の発生時等に感染者の診療等を実施する医療機関(協定締結医療機関)との連携体制を構築していること。
イ 上記以外の一般的な感染症(※)について、協力医療機関等と感染症発生時における診療等の対応を取り決めるとともに、当該協力医療機関等と連携の上、適切な対応を行っていること。 ウ 感染症対策にかかる一定の要件を満たす医療機関等や地域の医師会が定期的に主催する感染対策に関する研修に参加し、助言や指導を受けること。
※新型コロナウイルス感染症を含む。
◯また、感染対策に係る一定の要件を満たす医療機関から、施設内で感染者が発生した場合の感染制御等の実地指導を受けることを評価する新たな加算を設ける。
▼対象施設と改定内容の詳細
対象
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、認知症対応型共同生活介護など
変更点
「高齢者施設等感染対策向上加算」に以下が新設されました。
算定要件(I)
→感染対策または外来感染対策向上加算の届出を行った医療機関、地域の医師会が定期的に主催する院内感染対策に関するカンファレンスや新興感染症の発生時等を想定した訓練など
算定要件(Ⅱ)
医療機関から受ける実地指導の具体例には、以下のようなものがあります。
▼実地指導の具体例
施設などで机上の研修のみを行う場合は、実地指導とみなされず算定要件を満たせないため、注意が必要です。
医療ニーズへの対応・感染症への対応を強化しよう
連携強化に関しては、介護保険施設だけでなく協力医療機関側にも加算が新設されました。例えば、連携先施設のご利用者様の急変対応受け入れについては「介護保険施設等連携往診加算」が、入院受け入れについては「協力対象施設入所者入院加算」が新設されています。
連携強化は高齢者救急医療を充実させ、早期対応による重症化予防やADL(日常生活動作)の維持、早期退院による生活の場への復帰(QOLの維持)の実現を可能にします。また、感染症予防や感染者発生時の迅速な対応のための体制整備にも寄与します。加算の面でも介護保険施設と医療機関の双方にメリットがあるため、積極的に情報収集を行い、医療機関と協力して体制を整えていきましょう。
参考:
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
厚生労働省「高齢者施設等と医療機関の連携強化(改定の方向性)」
厚生労働省「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第2回)資料 高齢者施設・障害者施設等における医療」
厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)(令和6年3月15日)」
厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要」
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