2025年4月22日更新
必ず押さえたい介護施設の法定研修!研修の内容と実施時のポイント
監修者プロフィール/伊藤 亜記(いとう・あき)
株式会社ねこの手 代表取締役
短大卒業後、大手出版会社へ入社。祖父母二人の介護と看取りの経験を機に、社会人入学にて福祉の勉強を始める。98年、介護福祉士を取得し、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行を務める。
その後、大手介護関連会社の支店長を経て、介護コンサルタント「株式会社ねこの手」を設立。
現在、旅行介助サービスや国内外の介護施設見学ツアーの企画、介護相談、介護冊子制作、介護雑誌の監修や本の執筆、連載、セミナー講師、TVコメンテーター、介護事業所の運営・営業サポートなど、精力的に活躍中。現在、年間200回以上の全国での講演やセミナーをこなす。特に介護記録の書き方や実地指導対策、介護業界の集客法、介護職のモチベーションアップ、介護職の人材育成、離職防止などの講義で全国的に高い人気を得ている。
2010年4月、子どもゆめ基金開発委員就任。医療・福祉法人の顧問や大手介護会社のコンサルタントも多数務める。
介護福祉士/社会福祉主事/レクリエーションインストラクター/学習療法士1級/シナプソロジーインストラクター/スマート介護士
介護施設には、ご利用者様へ安心・安全で質の高いサービスを提供するために、介護サービス種別によって法定研修が定められています。介護事業者は従業員に必ず必要な研修を受講させなければなりませんので、自施設に必要な研修を把握し、計画的に実施することが求められます。
そこで今回は、法定研修の概要や必須研修項目と研修内容、実施する際のポイントについて解説します。
介護施設における法定研修とは?
法定研修とは、3年に一度行われる制度改正の際の運営基準などにより定められている研修のことで、受講の義務付けなどは都度、見直しが行われます。高齢者虐待防止や感染症対策、認知症介護に係る研修の受講など、介護職員が現場で直面する課題に対応するための研修などが含まれ、介護サービスの質の向上、安心・安全なサービス提供に欠かせない研修です。
なお、法定研修の実施状況は厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」で開示されており、施設の信頼性にも関わるため非常に重要です。
実施しないと減算の対象になるおそれ
法定研修を実施しないと、介護報酬算定において減算措置を受ける場合もあります。
例えば、虐待防止に関する研修を年1回以上行わなかった場合、高齢者虐待防止措置未実施減算の対象になり、所定単位数の100分の1に相当する単位数が減算されます。また、介護事故防止に関する研修を実施しなかった場合は安全管理体制未実施減算に該当し、入所者全員について1日あたり5単位の減算対象になります。
これらの減算は、施設運営に影響を与えるため、施設運営者や管理者は義務化されている研修を適切に把握し、確実に実施する必要があります。
【介護サービス種別】必須となる法定研修
介護サービスの種別によって必要な法定研修は異なります。以下の表に、介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)、通所介護の場合の必須研修項目と、研修内容をまとめました。
●施設別の必須研修項目
研修
介護老人福祉施設(特養)
介護老人保健施設(老健)
通所
介護
1.認知症、認知症ケアに関する研修
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2.プライバシー保護に関する研修
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3.倫理・法令遵守に関する研修
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4.事故の発生、予防、再発防止に関する研修
◯
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5.緊急時の対応に関する研修
◯
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6.感染症及び食中毒の発生の予防及び蔓延の防止に関する研修
◯
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7.身体拘束の排除の取り組みに関する研修
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8.非常災害時の対応に関する研修
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9.医療に関する研修
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10.ターミナルケア(終末期医療)に関する研修
◯
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11.精神的ケアに関する研修
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12.高齢者虐待防止及び身体拘束廃止、関連法含む虐待防止に関する研修
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●研修内容
研修
研修内容
1.認知症、認知症ケアに関する研修
認知症のご利用者様やそのご家族の立場を尊重し、適切な介護を行うために必要な基礎的な知識・技術・考え方を学びます。
●全ての職員が対象(資格者除く)、新規採用者は採用後一年以内
2.プライバシー保護に関する研修
介護現場での個人情報の適切な取り扱い方法や情報漏えい防止の重要性などについて学びます。
3.倫理・法令遵守に関する研修
ご利用者様に対して適切なサービスを提供するために必要な倫理観や法令遵守の重要性について学びます。無意識の言動が倫理・法令に反し、信頼の損失につながってしまうといった事態を避けるためにも、定期的な研修で意識を高める必要があります。
4.事故の発生、予防、再発防止に関する研修
過去の事故事例やヒヤリハットの共有、事故が起こった際の対応方法など、事故を未然に防ぐ方法や再発防止策を学びます。
●年2回以上及び新規採用時の実施
5.緊急時の対応に関する研修
災害や感染症などの緊急事態に備えるための研修です。緊急時の役割分担や対策、BCP(業務継続計画)について学びます。
●入所系は年2回以上、通所系・訪問系は年1回以上の実施
6.感染症及び食中毒の発生の予防及び蔓延の防止に関する研修
感染症と食中毒対策の基礎的知識や衛生管理の方法、訓練を通して取るべき行動を学びます。
●入所系は年2回以上、通所系・訪問系は年1回以上の実施
7.身体拘束の排除の取り組みに関する研修
身体拘束が発生しやすい状況や、その予防策としてのケアの工夫、やむを得ず身体拘束を行う場合の判断基準や実施方法について学び、不必要な身体拘束を回避するための知識を習得します。
●年2回以上及び新規採用時の実施
8.非常災害時の対応に関する研修
地震や水害、火事などの災害発生時、ご利用者様を安全に避難させるために、避難経路・避難場所の確認、優先順位を決定する方法などを学び、備蓄品や設備の点検も行います。
●年2回以上及び新規採用時の実施
※自然災害BCPに関する訓練と一体的に実施も可能
9.医療に関する研修
高齢者が抱える代表的な疾患や、それに伴う医療ケアの基本を学びます。研修を通して、疾患への適切な対応方法も学びます。
10.ターミナルケア(終末期医療)に関する研修
終末期のケアの基本的な考え方、医療・看護・介護の連携方法、自分らしく最期を迎えるためのサポート方法などを学びます。
11.精神的ケアに関する研修
職員のストレスマネジメントに焦点を当て、職員が精神的に健康で働きやすい環境を整えるために、ストレス原因の特定やその対策、ハラスメントにどのように対処するかなどを学びます。
12.高齢者虐待防止及び身体拘束廃止、関連法含む虐待防止に関する研修
研修を通じて、虐待の種類や発生しやすい場面・原因、身体拘束廃止の理解を促し、虐待防止のためのマニュアルの共有・見直しなども行います。
●年2回以上及び新規採用時の実施
法定研修を実施する際のポイント
年間研修計画を作成する
複数の法定研修を漏れなく円滑に実施するために役立つのが、年間研修計画の作成です。1年を通して無理なく実施できるように、事前に計画を立てておくことで、準備不足や年度末に研修が集中してしまうといった事態を防げます。特に年2回以上の実施が義務づけられている法定研修については、6カ月に一度や問題が起きた場合に適時研修を行うなど、適切に実施できるよう注意しましょう。
年間計画には、研修の実施予定日、研修内容、受講対象者、担当講師を一覧にしてまとめておくと、関係者のスケジュール調整がしやすくなります。なお、研修計画は研修委員会などで作成するケースや、規模の大きな法人であれば本部が管理を担うケースもあります。現場の委員会メンバーがその計画・管理する際は負担が大きくなりやすいため、施設長がサポートに入るなど、施設の現状に応じて負担を少なくする方法も検討しましょう。
最適なタイミングで実施する
研修の効果を最大化するためには、研修の実施時期も重要です。たとえば、食中毒の危険性が高い夏場と感染症が流行しやすい冬場に、衛生管理や感染予防に関する研修を行うことで、受講者は自分ごととして捉えやすくなります。
また、新人職員が入職した直後には、業務で直面する問題に備えるために、認知症、事故や高齢者虐待防止及び身体拘束廃止、ハラスメントなど、リスク管理に関する研修を実施するのも効果的です。
オンライン研修やeラーニングを活用する
研修内容によっては、オンライン研修やeラーニングが活用できる場合があります。これらの研修形態は、場所や時間の制約が少なくなるため、職員が参加しやすくなるメリットがあります。特にeラーニングは、通常業務の合間に自分のペースで柔軟に学習を進められるため、効率的な研修を実施できます。講師や開催場所の調整も不要なため、研修を手配する担当者の負担軽減にもつながりますが、適切な受講を促すためにスケジュール管理は重要です。
助成金を活用してコスト削減を図る
法定研修の実施に際して、「人材開発支援助成金」を受け取れる場合があります。以下に助成金の種類、対象、金額をまとめました。
助成金の種類
➀人材開発支援助成金 特定訓練コース
(若年人材育成訓練)
②人材開発支援助成金 一般訓練コース
対象者
訓練開始日において、申請事業主等の事業所の雇用保険被保険者となった日から5年を経過していない労働者であって、かつ35歳未満の若年労働者
申請事業主または申請事業主団体等の構成事業主における被保険者
対象となる研修
実訓練時間が10時間以上の研修
実訓練時間数が20時間以上の研修
助成金額
●経費助成
研修費用の45%(30%)
●賃金助成
1人1時間あたり760円(380円)
※( )内は大企業の助成額・助成率
●経費助成
経費助成の30%
●賃金助成
1人1時間あたり380円
また、自治体によっては独自の助成金制度も整備している場合もあり、これらを利用することで、法定研修実施にかかるコストの負担を軽減できます。各自治体のホームページや助成金に関する情報をマメにチェックして、活用できるようにしましょう。
法定研修は計画的に、効率的・効果的に
法定研修は、介護施設の安定した運営やサービスの質向上に欠かせない介護事業者の義務です。計画的かつ効率的・効果的な研修を実施し、正職員や非常勤問わず、スタッフ様の理解を深め、スキル向上と、ご利用者様への安心・安全なケアの提供の実現を目指すため、今回紹介した4つのポイントを参考にしてみてはいかがでしょうか。
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