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コラム

2020年1月28日更新

介護リーダーが抱えがちな5つの悩みと対処法

 著者 伊谷俊宜氏のプロフィール写真

著者プロフィール/伊谷俊宜(いたに・としのり) 
株式会社スターコンサルティンググループ 経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。
介護保険施行前より運営トップとして、数々の特別養護老人ホーム、グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。
その後、大手介護事業者に入社し、介護付有料老人ホームやサ高住の立ち上げ、運営、新人管理職の育成に携わる。現在では、圧倒的な現場力で、高齢者住宅、デイサービスセンターなど「人気の施設づくり」を積極的にサポートしている。講演・執筆も多数。
保有資格:介護福祉士、介護支援専門員、認知症実務者研修修了

介護経営コンサルタントの伊谷と申します。日頃より全国各地の介護施設様にてコンサルティングを行っていますが、年々、介護リーダーの皆さんが元気をなくしているように見受けられる現場が多くなっています。
 
私自身も介護保険法の施行前より介護現場に身を置き、リーダー職も経験してきました。本コラムでは、介護現場で悩みを抱える多くの介護リーダーの皆さんに、私の経験や知見が少しでもお役に立てばという思いで、介護リーダーが抱えがちな悩みとその対処法をご紹介いたします。

よくある悩み1:
「辞められてしまったら…」と考えるあまり、スタッフに注意しづらい

現在、介護業界は過去に例がない程の深刻な人材不足に陥っています。一人欠員が出てしまうと、なかなかその人員の補充が上手くいかないケースが非常に多い状況です。「いろいろ思うところはあるけれども、実際に辞められてしまったら困る」という理由で、スタッフへの注意や指導を躊躇してしまうケースも多いのではないでしょうか。

よくある悩み1への対処法

万が一辞められてしまったら、介護リーダーの皆さんが現場に入る機会も更に増えるでしょうし、仮に人材採用が上手くいっても、その方が一人前になるまで教育する必要があるため、一時的に皆さんの負荷が大きくなるのは間違いありません。
 
一方で、どのスタッフにも辞めるおそれがあることも事実です。辞められてしまうことを恐れるお気持ちもわかりますが、そこに捉われるあまり、他のスタッフや介護リーダーの皆さん自身の負荷が増えてしまっては良い状況とは言えませんよね。
 
スタッフが辞めてしまうのはある意味仕方がないとして、「万が一退職しても介護リーダーの皆さんが後悔しないこと」が重要なのではないでしょうか。そのためには注意の仕方や指導方法に工夫が必要です。例えば、指導する際に「それはダメだよ!」と伝えるよりも「いいね!(でも)ここをこうしたらもっと良いかもしれない」といった形で肯定の表現から入ることが有効です(イエス・バット話法)。
 
理念や介護手法などは熱意をもって伝え続けていくことが大切ですし、その伝え方も非常に重要です。「伝わったことが伝えたこと」なのです。皆さんが後悔しないよう、こういったスタッフへの寄り添い方を今一度見直すことも重要ではないでしょうか。

よくある悩み2:
会議の場が「雑談」になってしまい、何も決まらないことが多い

会議の場では、スタッフがそれぞれ好きに発言し、日頃の不満を共有するだけになっているケースが多いのではないでしょうか。そういった会議が続くと介護リーダーもスタッフも疲弊してしまいます。また会議の意義を見出せなくなり、会議の参加率が下がってしまうことも介護施設でよく見られる現象です。

よくある悩み2への対処法

良い会議の条件は「(参加者の)納得感を得る」「(できるだけ)短時間で終える」「(会議の結果が)次の行動につながる」ことです。具体的な対策としては以下3点です。

【会議3つのポイント】
①予め話し合う内容をレジメにまとめておく
②ホワイトボードなどで議論の流れを見える化する
③テーブルを囲んでイスに座って実施

特に重要なのは①のレジメです。A4サイズ1枚程度のボリュームで十分です。レジメの作成には、以下の目的があります。

  • 開始時間と終了時間を決めること
  • 話し合う内容と、それに対して費やす時間を具体的に決めること
  • 会議のゴールを明確にすること
    ※案を洗い出すことが目的なのか? 決定することが目的なのか?など

事前に会議の目的を明らかにし、具体的な決定事項や実施事項が増えていくだけで会議の意義は増します。さらに皆さんの負荷やストレスも軽減しますので、是非実行してみてください。
 
②、③は既に実施している施設も多いと思います。③は当然と思われるかもしれませんが、イスのみでテーブルがなく、メモを十分に取れない会議もよく目にします。テーブルでメモを取れる環境を整備することが大切です。

よくある悩み3:
業務時間内に仕事が終わらず、残業が多い

多くの介護リーダーの悩みとして、仕事量が多くて、業務時間内に業務を終えられないことが挙げられるのではないでしょうか。残業もさることながら、公休もまともに取れていない介護リーダーも決して珍しくありません。

よくある悩み3への対処法

介護現場には「残業して当たり前」という風潮が依然と根強く残っていますよね。本来はむしろ逆で、介護リーダーの皆さんは「定時で帰って当たり前」なのです。それができたら苦労しないという声が聞こえてきそうですが、皆さんが「仕事を抱え込まない習慣」を身につけることはとても大切です。
 
具体的には、介護リーダーにしかわからない物の配置や業務の流れなどをなくし、介護リーダーの皆さんがある日突然お休みしたとしても、現場がいつも通りまわる体制にしておくことです。
 
もう一つ大切な視点はスケジュール管理です。介護リーダー業務に必要な時間を計算しておいて、1日のスケジュール内に組み込んでいきましょう。例えば「13時~15時の間に業務シフトを作成する」などです。この間は別室に籠ってでも、介護リーダー業務を完遂することを心がけましょう。その際、どこで何をしているのか現場スタッフに必ずわかるようにしておくことがポイントです。
 
良い仕事と良い休養は、間違いなく表裏一体です。仕事と休暇のバランスを上手くとることを最優先していきましょう。

よくある悩み4:
ご利用者様やご家族からの苦情が多く、ストレスとなっている

介護保険法が始まってから、ご利用者様やそのご家族の「権利意識」が強くなっています。それ自体は良い傾向と思いますが、過度な要求やクレームを頂くことも多くなっているのではないでしょうか。
 
先日、とある施設で「施設に入所しているのになぜ転ばせるんだ!」などとご家族よりクレームが入った場面に遭遇しました。実際にご利用者様を好きで転ばせている施設などあるはずがないですし、ご利用者様の自由を担保しながら転倒事故をゼロにすることなど不可能ですよね。それにもかかわらず、苦情は年々増え続けているように感じます。

よくある悩み4への対処法

顧客(ご利用者様やそのご家族)の過度な権利意識の拡大は、介護業界全体の問題とも言えます。苦情はお一人で抱え込まないことが大切です。苦情記録簿などに詳細を記載し、必ず上司と共有しましょう。
 
私は「顧客への教育」という観点も必要と考えています。皆さんは顧客に言われたことを何でも行うマシーンではないですよね。上司と相談し、施設としてできることとできないことを明らかにし、施設方針として顧客に伝えることが重要です。過度な要求をしてくるご利用者様・ご家族は、厳密に言うと、皆さんの顧客ではない可能性もあるわけです。苦情記録簿を整備し、毅然として接することができる体制を作りましょう。

よくある悩み5:
会社(上司)の意向と現場スタッフの意向の板挟みがしんどい…

介護リーダーはご利用者様やご家族、スタッフや上司、外部のケアマネジャーや取引先など様々な人たちの間に挟まれてしまうポジションです。いろいろな立場の方々の言い分を聞きながら調整するスキルも求められますよね。同時にそこで摩耗し、疲れてしまいがちなポジションでもあるのです。

よくある悩み5への対処法

介護リーダーは間違いなくいろいろな方に挟まれてしまうポジションだと思います。ただ、それを「しんどい」と感じるか、「楽しい」と感じるかは皆さんの心の持ちようです。
 
介護リーダーには理想的な現場を作るために「上司をどう動かすか?」という発想も必要ですし、会社(上司)の方針を部下に理解させるスキルも必要です。つまり、皆さんは「現場をデザインする」ことができるポジションにいると言えるのではないでしょうか。
 
私は介護リーダーの皆さんが介護職の花形だと思っています。それでもストレスは溜まりますよね。そんなときは同じ会社(法人)でも、他社でも構いませんので、同じ立場の方々が集う勉強会などに参加してみることをオススメします。介護リーダーの皆さんはそれぞれ同じような悩みを抱えているものです。悩みをシェアできるだけではなく、具体的な対策をシェアできることもありますし、何より介護の第一線で奮闘する仲間ができることは、とても大きいですよね。

介護リーダーにとって重要なのは、「やり方」よりも「あり方」

「介護リーダーに必要なものって何ですか?」という質問をよく頂きます。決まって答えるのは「やり方よりも、あり方のほうが何倍も重要!」ということです。やり方はテクニックですから、勉強し、やろうと意識すれば誰でもできます。それに対しあり方は人間力であり、謙虚さがないと難しいのです。自責で考える習慣を身につけ、気持ちだけではなく言葉で感謝を表現することが介護リーダーに必要な人間力ではないでしょうか。
 
あり方を磨くヒントはたくさんあるのですが、一つ挙げるとすれば「長所進展」です。人間、誰しも長所と短所があります。自分の短所(苦手なこと)を修正するよりも、長所(得意なこと)を把握してドンドン伸ばしていったほうが、間違いなく人間力は高まっていくのです。
 
介護業界はどうしても顧客(ご利用者様)のハッピーを優先しがちです。でも、もし働く皆さんがハッピーでないとしたら、どうして顧客をハッピーにできるでしょうか。皆さんのハッピーのほうが、優先順位として間違いなく上です。
 
では、職場で皆さんがハッピーでいられる状況とはどんなものでしょうか。「給与が高いこと」「お休みが多いこと」「チームワークが良いこと」「ご利用者様が元気になること」などなどたくさん挙がることでしょう。皆さんがハッピーだと思える状況を是非書き出してみてください。次に、それをどのようにしたら実現できるのかを、自責で具体的に考えてみましょう。そういったことの積み重ねが、必ず、皆さんが働きやすい職場環境づくりにつながっていきます。
 
介護職は「聖職」なんかではないですよね。数多くある職業の一つにすぎません。それでも私は「介護の仕事は絶対に楽しい!」と確信しています。人は必ず老いて死にます。当たり前のことですが、この当たり前と実際に対峙するのは非常に難しい。介護のお仕事は、自分自身の老いと死と向き合うことができる仕事でもあると思います。皆さん自身はもちろん、皆さんの大切な人たちが安心して利用できる施設を一つでも多く作るために、介護リーダーである皆さんがポジティブに働くことができる環境を、皆さん自らの手で作り上げていきましょう。

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