コラム

2020年11月24日更新

円滑な多職種連携に役立つ「多職種連携コンピテンシー」とは?【後編】

著者 吉本尚氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/吉本尚(よしもと・ひさし) 
筑波大学 医学医療系 地域総合診療医学 准教授・筑波大学附属病院 総合診療科 医師
2004年筑波大医学専門学群(現医学群医学類)卒。北海道勤医協中央病院、岡山家庭医療センター、奈義ファミリークリニック副所長、三重大学家庭医療学分野を経て2014年より現職。2013~14年度文部科学省委託「成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進」事業責任者として我が国の「医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー」開発に関与。現在、アルコール関連問題における連携問題等に取り組んでいる。

生活支援に加え、医療的ケアやリハビリケアのニーズに応えられる体制も求められている介護施設。円滑な多職種連携は、より質の高いサービス提供につながります。前編では、「多職種連携の重要性」と「特に多職種連携が求められる介護場面と各職種の役割」をご紹介しました。後編では、「多職種連携が難しい理由」と「多職種連携コンピテンシー」をご説明します。

多職種連携が難しい理由

より質の高いサービスを提供するには多職種の専門性を生かした連携・協働が重要です。しかし、他の専門職の方と円滑な連携を図るのは容易ではありません。
 
介護現場で課題として挙げられやすい「介護スタッフ様と看護師の対立」が起こる背景をもとに、円滑な多職種連携を妨げている原因をご説明します。

専門性の違い

多職種連携が難しい理由として、まず「専門性の違い」が挙げられます。前編で説明したように、介護スタッフ様はご利用者様のQOL向上を目的に生活支援を行うのに対して、看護師はご利用者様の健康回復を目的に健康管理や医療行為を行います。求められる専門性が異なることから、それぞれが「当たり前」としていることを前提にしたコミュニケーションは、意思疎通を阻む原因になり得ます。

教育背景の違い

介護スタッフ様の場合、福祉(生活を支える)の観点から学ばれている方が多いと思われます。一方で看護師は、病気を治療するための医療の知識が必要とされ、保健や福祉に関することも含めて専門課程で学び、さらには国家資格を取得しています。

一般的な教育課程だけを修了した方と比べれば、当然のことながら看護師の方が医療的な知識が豊富です。もちろん介護スタッフ様は介護現場のプロであり、そもそも両者の役割は異なるのですが、医療の専門知識の差に劣等感を抱いて、コミュニケーションが取りにくくなっている方がいらっしゃるかもしれません。

円滑な多職種連携に役立つ「多職種連携コンピテンシー」

専門性や教育背景が異なる中、どうしたら多職種連携を実現することができるのでしょうか。ここでは、円滑な多職種連携に役立つ能力として、日本保健医療福祉連携教育学会(JAIPE)や日本医学教育学会などが開発した「医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー」をご紹介します。

多職種連携コンピテンシーとは

多職種連携コンピテンシーとは、多職種連携を実践するために必要な能力を指します。以下の図で示したように、多職種連携コンピテンシーは2つのコアドメインと、コアドメインを支える4つのドメインで成り立ちます。これらの能力は、多職種連携を行うことではじめて学べるものです。

多職種連携コンピテンシー|2つのコアドメインと、コアドメインを支える4つのドメインで成り立つ図

以下、多職種連携コンピテンシー開発チーム(以下、開発チーム)による定義とあわせて、各ドメインについて簡単にご紹介します。

コアドメイン

まず、コアドメインである「患者・利用者・家族・コミュニティ中心」「職種間コミュニケーション」をご説明します。

「患者・利用者・家族・コミュニティ中心」とは?

【開発チームによる定義】
患者・サービス利用者・家族・コミュニティのために、協働する職種で患者や利用者、家族、地域にとっての重要な関心事/課題に焦点を当て、共通の目標を設定することができる。

「患者・利用者・家族・コミュニティ中心」は多職種連携の中核となる考え方です。ご利用者様やご家族などを中心にしたケアができるよう、各職種が理想とするケアのイメージを共通化させ、理想の姿を実現するために必要な目標を他職種と協働して設定できる能力を意味します。
 
例えば、介護スタッフ様の都合で入浴介助を行っている場合、ご利用者様が希望する入浴時間に入浴することで笑顔が見られ、生活の質が上がると思われたならば、望む時間に入浴できる方法を他の職種の方と共に考え、改善策を設定する力が該当するでしょう。

「職種間コミュニケーション」とは?

【開発チームによる定義】
患者・サービス利用者・家族・コミュニティのために、職種背景が異なることに配慮し、互いに、互いについて、互いから職種としての役割、知識、意見、価値観を伝え合うことができる。

つまり、介護スタッフとしての役割、知識、意見、価値観が他職種に理解してもらえるよう、コミュニケーションを取ることができる能力を意味します。「互いに、互いについて、互いから」とあるように、一方的に意見を述べるだけではなく、双方向に伝え合うことがポイントになります。「職種間コミュニケーション」は円滑な多職種連携を行うにあたり外せない能力であり、外側の4つのドメイン全てに関わるものです。

コアドメインを支える4つのドメイン

「ご利用者様・ご家族・コミュニティ中心のケア」や「職種間コミュニケーション」を行うには、「職種としての役割を全うする」「関係性に働きかける」「自職種を省みる」「他職種を理解する」の4つの能力を磨く必要があります。

「職種としての役割を全うする」とは?

【開発チームによる定義】
互いの役割を理解し、互いの知識・技術を活かし合い、職種としての役割を全うする。

これは、自施設の介護スタッフとして行うべきケアをきちんと行える能力を意味します。介護スタッフとしての役割を果たすとき、互いの専門職の役割を理解することはもちろん、互いの知識・技術を活かし合うことも大切になります。

「関係性に働きかける」とは?

【開発チームによる定義】
複数の職種との関係性の構築・維持・成長を支援・調整することができる。また、時に生じる職種間の葛藤に、適切に対応することができる。

異なる専門職同士が対等な立場で協力してケアできるよう、互いの役割を認め合い、比較的フラットな関係でやり取りができるよう働きかける力を意味します。

例えば、特定の看護師が介護スタッフ様に強く指導しがちで、「医療職が優位」という雰囲気がある介護施設様の場合、その状況を読み取った上でその看護師と対話する場を積極的に持ったりすることで、職場の緊張感を改善させる関わりが該当するでしょう。例えば昼食時に積極的に声を掛ける、共通の話題を持つなどがあります。

「自職種を省みる」とは?

【開発チームによる定義】
自職種の思考、行為、感情、価値観を振り返り、複数の職種との連携協働の経験をより深く理解し、連携協働に活かすことができる。

多職種と共にご利用者様のケアを行った場面を想像しながら、自職種の考えや行動、感情などを振り返る力を意味します。振り返りを通してご自身の強み・弱みを客観的に把握することで、他職種とコミュニケーションを取る上で必要な自己コントロール能力を向上させ、より良い連携・協働につなげます。

「他職種を理解する」とは?

【開発チームによる定義】
他の職種の思考、行為、感情、価値観を理解し、連携協働に活かすことができる。

他の専門職が大切にしている思いや価値観などを理解する力を意味します。他職種理解を通して、連携・協働時の介護スタッフ様として取るべき行動を実行できるかがポイントになります。

例えば、看護師と介護スタッフ様との共同勉強会で、看護師が医療的な知識を、介護スタッフ様が生活支援に関する技術をレクチャーしてはいかがでしょうか。介護スタッフ様でなければ分からない知識やスキルの共有は、それぞれの役割の認め合いにつながります。結果的にフラットな関係性の構築に寄与するはずです。
 
今回は、前編と後編に分けて「多職種連携の基礎知識」と「多職種連携コンピテンシー」を解説しました。「多職種連携コンピテンシー」についてくわしく知りたい方は「多職種連携コンピテンシーの開発チーム」にお問い合わせください。
 
 ▼「多職種連携コンピテンシー」に関するお問い合わせ先
e-mail:kensyu●un.tsukuba.ac.jp (筑波大学附属病院 総合臨床教育センター)

  • 「●」を「@」に置き換えてメールを送信してください。

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