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コラム

2024年2月27日更新

新人介護スタッフによくある悩み。リーダーとしてできるサポートとは?

著者 天笠崇氏のプロフィール写真

著者プロフィール/天笠 崇(あまがさ・たかし)
静岡社会健康医学大学院大学准教授 行動医科学・ヘルスコミュニケーション学領域長
(一社)SST普及協会事務局長、(公財)社会医学研究センター代表理事、働くもののいのちと健康を守る東京センター理事長、代々木病院EAPケアシステムズ顧問、代々木病院精神科医
精神保健指定医、精神科専門医・指導医、労働衛生コンサルタント、認定産業医、SST普及協会認定講師
職場のメンタルヘルス対策の支援にかかわって四半世紀、長時間労働者面接・ストレスチェック制度・働き方改革関連法・ハラスメント防止法と法令や制度は整備されてきたが一向に職場のメンタルヘルスが改善せず、内心忸怩たる想いをしている。経営者にはビジネスと人権の視点を、従業員には参加型職場環境改善の取り組みを、そしてメンタルヘルス対策にSST(社会生活スキルトレーニング)の技法を応用することで突破できないかと考えている。
著書:「成果主義とメンタルヘルス」「ストレスチェック時代のメンタルヘルス 労働精神科外来の診察室から」(新日本出版社)、「過労死―― 過重労働・ハラスメントによる人間破壊」(旬報社)

介護スタッフになりたての頃は覚えることも多く、どうしてもミスはつきものです。そうした際に、抱えている悩みを理解し、解決するためにサポートするのも職場のリーダーの役割と言えます。
 
そこで今回は、リーダーの立場で新人スタッフをサポートする時の心得や、なるべくミスを防ぐための手法を天笠崇先生に解説いただきます。

新人介護スタッフが直面しがちな悩み

誰しも新人のうちはミスが多く、悩みが尽きないものです。経験を積み、対処法を習得した方にとっては小さなことでも、新人スタッフにとっては大きな問題です。ここでは入職間もない頃によくある悩みを紹介します。

ご利用者様とのコミュニケーション不足

新人スタッフの場合、ご利用者様との会話が続かなかったり、言葉選びを間違えたりして信頼関係が築けないことがあります。それがきっかけでご利用者様が介助されるのを嫌がることもあります。

苦手が克服できない

入浴、排泄、食事、移乗などの介助は介護職が担うケアですが、それらのスキルがなかなか上達せず、自信を持てないことがあります。一度苦手意識を持ち、萎縮してしまうと、かえってうまくいきません。

報連相でミスをする

上司や同僚への報告・連絡・相談が不足したり、タイミングを間違えたりすることもよくあるミスです。これは介護職に限らず、新人ほど起きやすい傾向にあります。報連相が徹底できないと、ケアに関わる別のミスにつながりかねないため重要です。

多職種連携が苦手

ケアマネジャーや看護師といった多職種との連携は重要ですが、多くの人と関わるがゆえに、対人関係をストレスに感じる(時にハラスメントを受ける)こともあります。他の職種の業務と自分の業務の境界線が曖昧だと「仕事の押し付け合い」のような状況になるケースもあり、特に新人だと断りづらく悩みの種になることもあります。

リーダーとしてサポートする際の心得や工夫

上記で紹介した悩みやミスに対して、新人スタッフが少しでも早く対処法を習得するにはリーダーのサポートは必須です。ミスや悩みが小さいうちに、対処法を身に付けてもらうことで、重大なミス、退職につながるような悩みに発展するのを防げます。

新人スタッフの言葉に共感しながら聞く

ミスや悩みについて、新人スタッフにヒアリングをする際、以下の3つの傾聴スキルが役に立ちます。
 

  1. 相手の顔を見る
  2. うなずいたり、「うんうん」「はい」「そうだね」などと相づちを打ったりして、耳を傾けていることを示す
  3. 相手の言ったことを繰り返す(自分の言葉で要約して話す)
 
このように相手に共感しながら話を聞くなどのスキルは「積極的傾聴法」で学べます。グループで話し手と聞き手に分かれて話を聞き合う練習法をリーダー研修に組み込めるとよいでしょう。積極的傾聴法については厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」※1で練習方法が紹介されています。

  1. ※1
    厚生労働省|働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳|話を「聴く」~積極的傾聴とは~

新人時代を思い出しながらサポートする

経験値がある方にとって、新人スタッフが直面する悩みはすでに克服できていることばかりのため、「できて当たり前」と思いがちです。すると「なぜできないの?」と感じてしまい、つい叱責口調で指導してしまうかもしれません。しかし、自分が新人だったころを思い出して「新人にミスは起きて当たり前。悩みは抱いて当たり前」の意識を持ちながらサポートすることが大切です。
自身の経験を踏まえ「私も新人の頃は〇〇で苦労したけど、こうしたらうまくいったよ。あなたも試してみては?」というようなアドバイスも有効です。試してみた結果を報告してもらう、または聞いてみるなども行うと、自然と相談しやすい環境にもなるでしょう。

ロールプレイで対人スキルを教える

苦手な業務、報連相などの対人スキルの改善には、ロールプレイ(役割演技)の練習が有効です。ロールプレイは、苦手な業務やコミュニケーション力を改善するほか、新たな業務を学んでもらうときにも有効です。特に「上手な人のまねをさせて、よくできた部分を褒める」ことが新人のやる気を促し、自信につなげるポイントです。
 
<入浴介助のロールプレイの一例>
(1)ご利用者様役をリーダー、介護スタッフ役を新人という配役で入浴介助の一連の流れを実演する
(2)実演後、リーダーはできている点を褒めて、さらに良くなるアイデアを提案する
(3)役割を入れ替えて、(2)で提案したアイデアをリーダー自身が実践(モデリング)してみせる
(4)再度役割を入れ替えて、新人はリーダーのまねをしながら実演する
(5)実演後、リーダーは改善できた点を褒めるなどのフィードバックをする

ハラスメントには素早く対応する

新人スタッフがハラスメント的な場面や状況に陥っていると認識したら、すぐに行動しましょう。本人に「所属のハラスメント防止システムに申し立てる」か「このまま自分(リーダー)への相談を継続するか」を確認して、本人の意思を尊重して対応します。
2022年4月よりパワーハラスメント防止措置が全企業で義務化されているので(労働施策総合推進法 第30条の2、3)、所属の事業所でも措置がとられているはずです。もし措置が取られていないなら、所属長、産業保健スタッフ(衛生管理者・衛生推進者等)や施設長に措置を講じるよう働きかけましょう。
 
リーダーによるサポートは大切ですが、内容によっては相談しづらい場合もあります。新人スタッフを守るために、新入職員オリエンテーションなどの際に職場以外の相談先があることも伝えておくとよいです。
 
 <相談窓口例>

  • 厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳 働く人の「こころの耳相談」
  • 各都道府県の労働局や労働基準監督署の総合労働相談コーナー

ミスを未然に防ぐ手法

ミスは誰にでも起きるものとはいえ、起こらないに越したことはありません。ここではミスそのものを防ぐために有効な具体的な手法を紹介します。

学習しやすい時間・関係をつくる

リーダーをはじめ、教育担当となる方は指導する際に以下を意識するとよいでしょう。
 
<指導方針例>

  • 教えるときにはメモを取るための時間を設ける
  • 分からないことがあったらすぐに相談してもらえる関係を作っておく
  • 忘れたりミスしたりすることを防ぐため、新人スタッフと業務内容を再確認する時間を設ける
 
こうした行動はすぐに始められるものですが、指導する側に時間や気持ちの余裕が必要です。リーダー個人のやりくりでは負担が大きくなるため、職場全体で支えることも大切です。

萎縮させないための声掛け

新入職員オリエンテーションや日々の指導でも、声掛けの内容を工夫することでミスの未然防止につなげられます。
 
 <声掛けの具体例>

  • はじめから完璧に仕事をできる人はいない
  • 今はミスをして当たり前
  • ミス、悩みが小さいうちに対処しよう・困ったり、悩んだりしたらすぐに相談しよう(相談することも仕事のうち)
 
ポイントは新人スタッフが過度にミスを恐れたり、相談できずにため込んだりすることを防ぐ言葉を意識することです。起きがちなミス、悩みの例などをリスト化し、それらの対処法が書かれた事業所オリジナルの資料を作成し、指導や研修などで使えるようにすると理想的です。

まとめ

適切なフォローとミスの予防に努めることが新人スタッフの成長、ひいてはチームの活性化につながります。相手に寄り添い、共に成長する心持ちで取り組みましょう。

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