2021年2月2日更新
【専門家監修】褥瘡予防Q&A~褥瘡の見極め方・スキンケア
監修者プロフィール/坪井 良治(つぼい・りょうじ)
東京医科大学 名誉教授
1980年に防衛医科大学校を卒業、1987年に順天堂大学大学院(皮膚科学)修了後、ニュ-ヨ-ク大学医学部(細胞生物学)研究員、順天堂大学皮膚科 講師、東京医科大学皮膚科 主任教授、2012年から2015年まで東京医科大学病院 病院長、2019年から2021年まで一般社団法人 日本褥瘡学会 理事長などを務める。皮膚科専門医。
日本褥瘡学会では、病院・介護保険施設・訪問看護ステーションを対象に、療養場所別の褥瘡有病率などの実態調査を行っています。第4回(2016年)の報告(*1)では、施設の利用者の褥瘡有病率は介護老人福祉施設が0.8%、介護老人保健施設は1.2%であり、そのうち施設内発生率が7割以上と高いことがわかっています。
では、高齢者介護施設での褥瘡発生を防ぐには、どうしたら良いのでしょうか。今回は坪井良治先生監修のもと、褥瘡予防に関する疑問にお答えします。
Q.褥瘡発生のリスクが高いのはどのような方ですか?
褥瘡は、長時間寝たきりなどで血流が低下または停止することにより皮膚の細胞に十分な酸素や栄養がいきわたらなくなることで発生します。自力で体位変換ができない方は注意が必要です。
褥瘡発生の要因には「個体要因」と「環境・ケア要因」があります(*2)。この2つの要因が重なる「過剰な外力」「湿潤状態の不均衡」「栄養不足」「自立の低下」があると褥瘡は起こりやすくなります。
外力がかかる状況としては、ベッドを操作したときや車椅子で姿勢が崩れたりするときが挙げられます(*3)。このとき「摩擦」や「ずれ」が生じないように注意します。ベッド操作時には背中をマットレスから離す「背抜き」をしたり、座位時にはクッションで姿勢を保持することなどが必要です。
長時間寝たきりの方の場合は定期的に体位変換を行い圧迫を受ける部位を変える必要があります(*4)。また対象者の褥瘡発生リスク、好み、ケア環境等も考慮に体圧分散用具(マットレスなど)を使用し、圧迫を減らすことが重要です。
座ったときに自力で姿勢が変えられない方の場合も座面クッションを使用して体圧を分散させましょう。広い面積で骨盤を支えられる厚みのあるものを使いましょう(*5)。
また、褥瘡発生の危険因子として特に注意すべき疾患として、『褥瘡ガイドブック第2版』では「うっ血性心不全」「骨盤骨折」「脊髄損傷」「糖尿病」「脳血管疾患」「慢性閉塞性肺疾患」が挙げられています(*6)。
個々の療養者の褥瘡発生の危険性を予測・評価するためには「リスクアセスメント」が必要であり、そのためにいくつかのツールが開発されています。
褥瘡危険因子評価票
ブレーデンスケール
OHスケール
在宅版K式スケール
リスクアセスメントは「誰が」「いつ」実施するのかを決めておき、予防・評価に役立てましょう。看護師または医師が週1回程度実施することを基本とします(*7)。
Q.褥瘡の見極め方について教えてください。
褥瘡のできやすい部位が赤くなっている場合、赤みのある部分を人差し指で3秒ほど軽く押し、白っぽく変化しないか観察します。褥瘡の発赤は一時的ではなく持続的なものなので、皮膚を圧迫しても赤みが消えないときは褥瘡の可能性があります。
褥瘡と間違えやすい病態として、「失禁関連皮膚炎(IAD)」があります。IADとは『尿または便(あるいは両方)が皮膚に接触することにより生じる皮膚炎』であり、IADで観察される主な皮疹には、紅斑、びらん、潰瘍が含まれ、これらの好発部位は、会陰部、肛門周囲、臀裂、臀部、鼠径部、下腹部、恥骨部とされています(*8)。対して、褥瘡が特に現れやすいのは骨突出部位や生活用具の装着などによる圧迫部位です。この違いを覚えておきましょう。
以下、褥瘡ができやすい部位(*9)をご説明します。これらの部位は特に毎日の皮膚観察時に注意して見るようにしましょう。
褥瘡が疑われる場合には、看護師や医師に相談しましょう。発赤だけでなく、皮膚に損傷が見られた場合、褥瘡悪化が考えられます。褥瘡の深さがd2(※)以上になると治療開始となります(*10)。
Q.褥瘡を予防する上で、おむつ交換時に気を付けるべき点を教えてください。
「摩擦」や「ずれ」は褥瘡の要因となります。引っ張ると仙骨部や尾骨部に強い「摩擦」や「ずれ」が生じてしまいます。おむつ交換時には、尿とりパッドを引っ張って取り出したりしないようにします。
排泄量や排泄物の性状なども確認してください。排泄物が皮膚に接触する時間が長いと皮膚のpHが高くなり、バリア機能が低下しやすくなります(*11)。例えば排泄後はできるだけ早くおむつを交換する、吸収効率のよい尿とりパッドを選ぶ、撥水性の皮膚保護剤を使用するなど、できる限り排泄物と皮膚が接触しないよう工夫しましょう。
また、下痢や水様便が続く場合は皮膚障害の原因となるので早めに医師や看護師に報告します(*12)。
Q.陰部洗浄の際にハンドソープを使っています。問題ないでしょうか?
ハンドソープの中には洗浄力が高いものもあり、過剰に皮脂が除去されてしまうおそれがあるため注意して使用しましょう。皮膚への刺激に配慮し、アルコールフリーの皮膚清浄剤や、弱酸性で保湿成分が含まれている洗浄料(*13)を使用するとよいでしょう。また、こすりすぎないようによく泡立てて使用します。最初から泡で出てくるタイプの洗浄料は介護者の負担も軽減します。
なお、洗浄による皮膚の過剰な乾燥を防ぐために、排泄回数が多い場合でも洗浄料の使用は1日1回にします。こすらず、汚れを流すだけにしましょう。
すすぐときは皮脂を取りすぎないように、お湯の温度はぬるめに設定します。洗浄後は、やわらかい布で押さえるようにして水分を除去しましょう。
尿・便失禁のある方については、陰部を清潔にしたあと撥水性の皮膚保護剤を塗ることをおすすめします。排泄物の付着によって皮膚のバリア機能が低下することを防ぎます。
弱酸性で保湿成分が配合されている洗浄料(例)
ドライスキンとは角質水分量が減少し、角質層の柔軟性が低下し、脆くなった状態をいいます。高齢者は皮脂の分泌が低下することによりドライスキンになりやすい状態です。ドライスキンが続くと皮膚障害が起こりやすくなるため、入浴時も皮膚のバリア機能を守ることを心掛けましょう。お湯の温度は38~39℃程度にし、長湯は避けてください(*14)。
洗浄料は保湿成分が配合されたもの、保湿成分の皮膚からの溶出が少ないものや弱酸性のものなどを選びます。それは、角層が膨潤状態になった際に角層内から水分を保持するセラミドやNMF類(天然保湿因子)が流れ出してしまい、角層の水分保持能力が低下してしまうと考えられるためです。
洗浄料はしっかりと泡立て、汚れを包みこむイメージでやさしく洗い落としましょう。
入浴後は、やわらかいタオルで水分を押さえるように取ります。
最後に保湿剤を手のひらで温め、毛の流れに沿って、摩擦が起こらないようにやさしく塗ります(*15)。皮膚の摩擦による皮膚の損傷(スキン-テア)を防ぐため、伸びの良い保湿剤を使いましょう。
※入浴時の高齢者のスキンケアについては「入浴時の高齢者のスキンケア 泡洗いの重要性」でくわしく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。
在宅褥瘡eラーニングのご紹介
今回は褥瘡予防について概略をご紹介しました。より体系的に学びたい方は日本褥瘡学会が作成した「在宅褥瘡eラーニング」の受講がおすすめです。会員・非会員を問わず無料で利用することができます。
▼一般社団法人褥瘡学会 在宅褥瘡e-ラーニング
https://www.jspu.org/medical/e-learning/home_care.html
引用・参考文献:
執筆:花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部
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