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コラム

2024年8月20日更新

介護施設の災害ボランティア受け入れ時のポイント。日頃の準備でリスクマネジメント

監修者 鵜野誠氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/鵜野 誠(うの・まこと)
社会医療法人財団董仙会 介護医療院 恵寿鳩ケ丘
公益社団法人 日本介護福祉士会会員、一般社団法人 石川県介護福祉士会会員。能登半島地震では、被災施設における利用者対応のほか、被災した同僚・スタッフのサポート、介護ボランティア等応援スタッフの受け入れを担当。

大きな自然災害が発生するたびに問い直されるのが、災害対策の重要性です。災害訓練や備蓄品の準備など、介護施設として視野に入れておきたいことは多々ありますが、災害ボランティアの受け入れもその一つと言えます。過去の大災害でも、災害ボランティアによる支援がケア提供の継続やご利用者様の安全確保において、重要な役割を果たしてきました。

そこで今回は、介護施設が災害ボランティアを受け入れる際のポイントと注意点および備えについて解説します。

  • 本コラムに記載の「災害ボランティア」は介護職の方を指しています

介護施設が災害ボランティアを必要とするケース

近年頻発する地震や洪水などの自然災害の影響を踏まえ、厚生労働省は介護施設におけるBCP(事業継続計画)策定を令和6年度(2024年度)から義務化しています。自施設が被害を受けてもケアを継続するための計画を進めていると思いますが、施設自体が直接的な被害を免れたとしても、これまで通りのケア提供が困難になる場合があります。

例えばスタッフ様やそのご家族が被災した場合、出勤ができず人手不足になるケースが考えられます。また、勤務ができる状況にあったとしても、被災による心労や働き過ぎによる過労、衛生状況の悪化による体調不良などで休まざるを得ない状況になることも考えられます。

このようなケースにおいて、災害ボランティアの活動が支えとなり状況が改善することがあります。万が一に備え、BCPの一環として受け入れを検討しておくと、施設運営の面でも安心です。

災害ボランティアの助けでリスクを回避する

人手不足によるミスの回避

前項でも少し触れたように、災害時はスタッフ様自身の被災やさまざまな緊急対応で人手不足に陥り、勤務シフトの乱れが予想されます。そうした状況下だと業務を回すだけで手一杯になり、ケアレスミスが発生する恐れもあります。

災害ボランティアの受け入れは人手不足の緩和につながります。乱れた勤務シフトを整えられ、忙しさが要因となる配慮不足を防げるようになり、災害時でも通常通りのケア提供に近づけられます。直接的なケア支援だけでなく、支援物資の仕分けなど、裏方的な業務をお願いできることは、非常時の状況において大きな助けになります。

スタッフ様の心的負担を軽減

被災直後、介護職員は使命感から自分でも気づかないうちに無理をしてしまいます。そうした状況が続くと、最悪の場合、燃え尽き症候群や抑うつ状態になり、業務を継続できなくなってしまうリスクもあります。

災害ボランティアの受け入れによって介護職員の休息を確保できるため、不安定になりがちなメンタルを整えやすくなります。被災地ではお互いを気遣って、うかつに明るい話題を話せなかったり、相次ぐ災害報道などで、施設全体が暗い雰囲気になってしまう場合もあります。そんな中で、被災の当事者ではない災害ボランティアに話を聞いてもらうことで、スタッフ様、ご利用者様の心が和らぐことも期待できます。

受け入れ時の注意点

災害ボランティア受け入れのメリットはもちろんありますが、同時に注意すべき点もあります。

1.準備不足によるスタッフの負担増

受け入れの事前準備が不十分だと、業務内容やご利用者様の情報などの共有に労力と時間がかかり、スタッフ様の負担がむしろ増えてしまう恐れがあります。そうした負担を減らすためには、施設の前提情報をすぐに共有できる状態にしておくことが重要です。

2.ご利用者様の心身的負担に配慮する

普段と違う介護者が対応することで、ご利用者様に心身的負担を与えてしまわないかというのも注意したいポイントです。慣れていないがゆえに普段よりケアに手間や時間がかかる、言動を含めた接し方に違和感を覚えるなど、環境の変化はご利用者様のストレス要因になります。少しでも負担を減らすためにも、ご利用者様の情報をまとめておくなどの準備が必要です。

3.協調性の乱れに注意する

被災者であるご利用者様やスタッフ様に配慮しない言動をとってしまう、「力になりたい」という思いが先走り単独行動を取ってしまうような災害ボランティアも中にはいるかもしれません。こういった懸念に対しては、ケアの方針や体制など施設のルールとなる事項をまとめることや、役割が明確になるように業務内容のマニュアル化を進めるなどの対策が重要です。

ここで紹介した3つの注意点に関して、解決策は次の「災害ボランティア受け入れのための準備」で紹介しています。

災害ボランティア受け入れのための準備

ケアを提供する際の前提情報の整理

災害ボランティアが施設の介護職員と同じ目的に向かって業務を行えるよう、まずは自施設が重視するケアの方針や体制など、ケアを提供する際の前提情報を整理しておきましょう。
ケアの方針をまとめておくと、後述する「継続すべき重要業務」や「業務内容のマニュアル化」を検討する際の基準になります。また、災害時に事前の取り決めがない状況で判断を迫られた場合でも、ケアの方針や体制が整理されていれば、判断がしやすくなります。

継続すべき重要業務の検討

平時と同じ業務が難しい状況下では「継続すべき重要業務」を定めておくことが大切です。

●継続すべき重要業務の例

  • 人数把握などの状況確認
  • バイタルチェック
  • 排泄ケア
  • 食事の提供
  • 与薬介助
  • 補水 など

検討にあたっては以下の点を考慮します。

  • その業務が停止することによる影響
  • その業務を行うために必要な資源、環境等
  • その業務を再開するまでの期間

これらが整理されていれば、何を優先して行うべきかが分かりやすくなり、災害ボランティアに指示を出す際にも指針になります。厚生労働省が提供するBCPの雛形でも「重要業務の継続」という項目が設けられています。検討結果はBCPにも反映し、緊急事態の行動指標として定めておきましょう。

指示系統の明確化と業務内容のマニュアル化

指示系統と業務内容を普段からマニュアル化しておくと、災害ボランティアの受け入れ時にもスタッフ様からの指示が統一され、迅速なケア提供が可能になります。新たに参加するボランティアがケアにあたる際、慣れないうちはスタッフ様と、もしくは既に活動しているボランティアとペアとなり業務にあたるなどの体制もマニュアルに含めておきましょう。業務に早く慣れることができるうえに、個人判断による誤ったケアが行われることを防ぎます。
業務内容のマニュアル化は災害時のみならず、日常業務の標準化にも役立つので、定期的に更新する仕組みにしておきましょう。

利用者情報共有シートの整理

災害時でもご利用者様一人ひとりに適切なケアを提供できるよう、利用者様の情報を整理したものを「利用者情報共有シート」と言います。シートには以下のような項目を記載します。

▼利用者情報共有シートの項目例

  • 家族の連絡先
  • キーパーソン(介護に関する重要な判断を行うご家族)の有無
  • 過去と現在の疾患
  • 日常生活動作(ADL)
  • 認知症の有無や症状。意思疎通や介助方法。
  • 服薬情報
  • 本人の顔写真(誤薬を防ぐためにも必要)
  • 特記事項(生活歴、好みや苦手なことなど)

ご利用者様の変化を踏まえ、少なくとも半年に一回は更新するのが望ましいです。

地域特有の情報の集約

その地域を初めて訪れる災害ボランティアのために、周辺環境や地域性などの情報をまとめておくと役立ちます。社会福祉法人福島県社会福祉協議会が行ったアンケート*1の結果によると参加したボランティアからは次のような課題が挙がっていました。

  • 方言によるコミュニケーション上の課題
  • 地域特有の気候情報(1日の気温、風雨、湿度変動など)の提供不足
  • 最低限度の生活情報(生活用品の購入場所、リサイクル・ごみ出しのルール等)の提供不足

一時的な滞在とはいえ、きめ細やかな情報提供が不足していることがうかがえます。同じチームの一員として良好な関係や環境を構築するために、役立つ情報は整理しておくと良いでしょう。

  1. *1
    社会福祉法人福島県社会福祉協議会「福島県相双地域等における介護職員等の応援に関する アンケート調査 【報告書】」

災害ボランティアの心身サポート体制の整備

災害ボランティア自身も、被災者への配慮や慣れない環境での活動が続くことにより、心身的なストレスを感じる場合があります。受け入れる側として可能な範囲で、プライバシーに配慮した休息場所や、生活空間以外でのボランティア同士の交流スペースを確保するなど、心身的負担を軽減するための体制を整備しておくと良いでしょう。

災害時もケアの提供を続けるために

起きてからでは遅い災害対策。ご利用者様と職員の命を守るために、さまざまな対策が必要です。施設を安心して利用いただくため、災害ボランティアの受け入れ準備も視野に入れ、災害への備えを万全にしておきましょう。


参考:
日本介護福祉士会「災害ボランティアハンドブック

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