コラム

2021年6月22日更新

介護事業者に求められるBCP(業務継続計画)~準備は裏切らない(2) 

著者 本田茂樹氏のプロフィール写真

著者プロフィール/本田 茂樹(ほんだ・しげき)
ミネルヴァベリタス株式会社 顧問、信州大学 特任教授、公益社団法人全国老人保健施設協会 管理運営委員会 安全推進部会部会員
現在の三井住友海上火災保険株式会社に入社。その後、出向先であるMS&ADインターリスク総研株式会社での勤務を経て、現職。医療・介護分野を中心に、リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭をとるとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。

令和3年度介護報酬の改正内容に「業務継続に向けた取組の強化」が加えられたことにより、今後、介護サービス事業者は業務継続に向けた計画等の策定などが義務付けられることとなります(3年の経過措置期間あり)。
 
前回の記事「介護事業者に求められるBCP(業務継続計画)~準備は裏切らない(1)」では、今なぜ介護事業者に業務継続計画(以下、BCP)の策定が求められているか、そして介護サービスを中断させないために経営資源をどのように守るかについて、本田 茂樹氏に解説していただきました。

今回は、そのような準備を行っていても介護サービスの提供が中断されてしまった場合を想定し、経営資源をどのように補って業務を継続するかについて解説していただきました。「建物」「職員」「ライフライン」、それぞれの代替方法に言及していますので、BCPを策定する際の参考にしてみてください。

  • 本媒体では、介護施設等の入所者について原則「ご利用者様」と表記しておりますが、本記事では「利用者」としております。

1.建物の代替

介護事業者の建物が半壊あるいは全壊した場合、その建物をすぐに同じ場所で再建することはできません。そこで、介護サービスを提供し続けるためには、被災していない別の建物を使う前提で計画を立てておく必要があります。

別の建物を使って介護サービスの提供を続ける

建物が地震で壊れて使えなくなった場合、別の建物で介護サービスを提供するという方法です。
 
例えば、介護事業者が複数の建物を所有しており、その中に被害を受けず使い続けることができる建物があれば、そこを使って介護サービスを継続します。あるいは、同一法人の中で使える建物があればその建物を活用するという考え方です。

しかし、介護事業者の中には所有する建物は一棟だけということも多いため、その場合は防災面の強化を図ります。

現在使っている建物の耐震性を高める

代替機能を果たしてくれる別の建物がない場合は、現在使っている建物の耐震性を高めることが重要です。職員・利用者が常にいる建物が地震の強い揺れに耐えられないと、被害が甚大なものとなるためです。
 
特に、新耐震基準より前に建築された建物(1981年5月31日以前に建築確認申請が行われた建物が該当)は老朽化が懸念されますから、自治体の補助金なども活用して耐震補強工事を検討すると良いでしょう。

2.職員の代替

介護事業者の職員は、介護サービスに求められる技術などを身に付けている専門職ですから、ただ人数が揃えばよいということではありません。足りなくなった職員を補うためには、次のような方法が考えられます。

(1)他の施設などに応援を求める

同一法人内の別の施設に応援を要請する、退職した職員に依頼する、また地域内で連携している他の施設に応援を要請するなどの方法があります。

ただ、このような職員の補充は平常時から準備しておくことが重要になります。被災してから応援を依頼しても、相手も突然のことでスムーズに対応することが難しくなるためです。

(2)職員を優先順位に応じて配置する

さまざまな対策を講じていても最終的には、被災後、職場に参集できた職員で業務を遂行することになります。その場合に重要なことは優先順位です。つまり、限られた職員を優先度の高いものから順番に配置していきます。

優先する事業

被災時には、限られた職員数ですべての事業をすることが困難な状況が発生します。各事業者において中核をなす事業、また入所施設など24時間365日サービスを止めることができない事業が優先されます。
 
例えば、入所施設は継続するが、デイサービスはいったん休止するということが考えられます。

優先する業務

業務の優先度は、利用者の生命や健康を維持する観点で判断します。具体的な介護業務では、バイタルチェック、口腔ケア、食事介助、排泄介助、服薬介助などが該当します。あわせて、たんの吸引や点滴などの医療的ケアも必須の業務となります。

また、利用者の生命や健康を維持するための業務に集中するため、規模を縮小したり頻度を下げたりする業務についても検討することが求められます。例えば、入浴やシーツ交換、清掃などが該当します。これらについては職員の数が充足された段階で順次、通常レベルに戻すことになります。
 
これらの「どの事業を優先するか」「どの業務を優先するか」という点についても、被災時に慌てて決めるのではなく、平常時に法人本部などと連携して決めておくことが重要です。

3.ライフラインの代替

ライフラインが停止した際の対応も、平常時に整備しておくことが極めて重要です。ここでは、停電・ガスの停止・断水が発生した場合に備えた対応方法を紹介します。

(1)停電に備えた対応

停電に備えた対応方法は、施設内に自家発電設備があるかどうかで内容が異なります。

自家発電設備がある場合は、緊急時にすぐシステムを起動させられるように計画を立てておきましょう。電力量は通常時よりも限られるため、「医療機器を最優先とする」など電力使用に関する優先順位もあらかじめ決めておくことが重要です。
 
自家発電設備は、平常時から場所・使い方などを職員間で共有しておく必要があります。また、稼働に必要な燃料の備蓄量も確認しておきましょう。
 
自家発電設備がない場合は、自動車のバッテリーや電気自動車の電源を活用することが可能です。

(2)ガスの停止に備えた対応

普段からガスを使った暖房機器を使用している場合、ガス停止時には、安全に注意しつつ灯油ストーブで代用したり、湯たんぽ・毛布を通常時よりも多めに使用したりする方法があります。また、給油量も限られるため、施設利用者の入浴を中止して清拭に切り替えることも検討しましょう。
 
さらに、加熱せずに食べられる食料の備蓄も考えておく必要があります。カセットコンロがあれば加熱調理も可能ですが、施設の利用者全員分の食事を用意するのは難しい前提で計画を立てておく必要があります。カセットコンロの火力は弱く、大量の調理に向いていないためです。
 
建物ごとに設置されているプロパンガスであれば比較的早く復旧しますが、都市ガスの場合はガス管を複数の建物で共有しているため点検に時間がかかり、復旧が遅れる場合があります。長期間ガスが止まることを想定して計画を立てておくことが重要です。

(3)断水に備えた対応

断水時に備えて、なるべく水を使わずに介護サービスを提供できる方法を検討しておきましょう。例えば、簡易トイレを用意する、食事においては洗う必要がない紙皿・紙コップを使用するなどです。
 
また、平常時から、ペットボトルで飲料水を備蓄しておくことが必須です。さらに、非常時に水をはじめ備蓄品の消費期限が切れていたら意味がないため、定期的なメンテナンスも計画に入れておきましょう。
 
以上、前回の記事から2回に分けてBCPの策定が求められる背景や介護サービスを中断させないための対策、サービスの提供が中断してしまった場合を想定した経営資源の代替方法を本田 茂樹氏に解説していただきました。非常時においても介護サービスを提供し続けるためにはさまざまな状況を想定した計画や準備が重要になりますので、BCPを策定される際のヒントにされてください。
 
なお、BCPへの理解をより深めたい方は、本田 茂樹氏が検討委員会の委員長として携わっていらっしゃる、下記のガイドラインもあわせてご覧ください。

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