2024年12月17日更新
【専門家が解説】BCPにおける感染症対策の研修・訓練方法は?具体例を交えて紹介
著者プロフィール/本田 茂樹(ほんだ・しげき)
ミネルヴァベリタス株式会社 顧問、公益社団法人全国老人保健施設協会 管理運営委員会 安全推進部会部会員
現在の三井住友海上火災保険株式会社に入社。その後、出向先であるMS&ADインターリスク総研株式会社での勤務を経て、現職。医療・介護分野を中心に、リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。これまで、信州大学特任教授として教鞭をとるとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
感染症に関するBCP(業務継続計画)の策定および研修・訓練が全ての介護施設に義務化されています。そのうち研修・訓練について、入所系の場合は年2回以上、通所系・訪問系の場合は、年1回以上の研修が義務付けられていますが、どのような研修・訓練を実施するべきか、悩んでいる施設も多いようです。
そこで今回は、感染症BCPに関する研修はどのようなことをすればよいのか、そして訓練の方法はどう考えればよいのか、ポイントを絞って、現場で役立つ情報を紹介します。
BCPにおける感染症対策の研修・訓練とは?
感染症が流行した場合には、通常のように業務を実施することが困難になります。そこで流行時にも業務を中断させない、そして中断した場合でも、優先業務を実施するための計画が必要ですが、これらを定めたのがBCPです。
「感染症対策マニュアル」と「BCP」の違い
感染症の流行に備えるという意味では、多くの方は「感染症対策マニュアル」を想像されるのではないかと思いますが、BCPとはどう違うのでしょうか。
感染症対策マニュアルは、平時の取り組みとして施設で注意すべきウイルスの特徴や、感染症予防対策(手指消毒、ガウンテクニック等の標準予防策)、そして流行時に必要な対応として感染症拡大防止対策(消毒、ゾーニング方法等)を中心に記載します。
一方、BCPは、平時の感染症に対する取り組みとして、介護施設内の体制整備や担当者の決定、連絡先の整理、研修・訓練、そして感染症流行時に必要な対応として職員の確保や労務管理などが主な内容となります。
研修・訓練の必要性
BCPは、実際に使えなければ意味がありません。形だけのBCP、つまり残念なBCPにしないために重要な研修・訓練の必要性について、次で説明していきます。
BCPを定着させるための最初のステップは、全職員がその内容を十分に理解することです。しかし自施設のBCPをイントラネットに掲載したり、資料として配布したりするだけでは、職員がBCPの内容を理解するのは難しいと言えます。そのため、施設長やBCP策定者が研修を実施し、自施設の事業継続の方針、施設内の体制および担当者、緊急時の連絡先など、BCPの内容を全職員に伝え、共有することが求められます。
職員がBCPに書かれた内容を理解していることと、それを実際に行動に移せるかということは全く別です。理解しているだけでは、実際に感染者が出た、あるいはクラスターが発生したとき、的確な行動をとれるとは限りません。そのため、繰り返し訓練を行い、とるべき行動を身に付けることが重要です。
研修・訓練を行うときの前提知識
研修・訓練を実施するにあたっては、押さえておくべきポイントがいくつかあります。
研修・訓練の回数はサービス類型ごとに決まっている
研修・訓練は、実施しなければならない頻度がサービス類型ごとに決まっています。入所系サービスの場合は年2回以上、通所系・訪問系サービスの場合は、年1回以上の実施が必要です。
定期的な研修の開催は、組織の中に、BCPを浸透させるために欠かせません。職員の新規採用時には別途研修を実施することも求められています。訓練についても、感染症が発生した場合に迅速に行動できるよう、施設内の役割分担や実際に行うケアの演習を定期的に実施する必要があります。
訓練の実施方法は柔軟に考える
訓練の実施は難しく面倒であると考えがちですが、実施方法は施設の実態に合わせて工夫することができます。
【実施ポイント】
ちなみに、自然災害BCPに関する訓練は、「非常災害対策に係る訓練」と一体的に実施しても差し支えありません。避難訓練だけでは自然災害BCPに関する訓練にはあたらないため注意が必要です。一方で、「避難訓練で安全な場所に避難した後、実際に担当者が備蓄食品を出してきて、利用者に提供する」という形にすれば、自然災害BCP訓練になります。
記録は必須
研修および訓練については、いつ、どのような内容で実施したのかを記録しておくことが、施設運営基準にて義務付けられています。記録は実施後の振り返りや改善に活用できるほか、参加できなかった職員への情報共有にも役立ちます。さらに、運営指導の際に研修・訓練の実施を証明するための資料としても重要です。
【感染症BCP】研修の具体例
研修は、BCPに記載された内容を職員が理解していることが重要です。職員の入れ替わりなどもありますので、繰り返し実施することが大切です。
感染症の基礎知識
自然災害BCPであれば、地震や水害が起こるとどうなるか、そしてそれを防ぐためにはどのように対応すべきかを知らなければなりません。感染症の場合も全く同じです。
ウイルスの特徴や具体的な感染症予防対策など基本的知識を理解するとともに、実際に施設内で感染者が出た場合に、どのように感染拡大を防止するか、そして感染者が増えクラスターが発生した時でも、介護ケアをどのように継続するかなどを理解する必要があります。
感染症BCPの詳細説明
感染症の基礎知識のポイントを押さえた後は、自施設のBCPの内容を説明します。BCPの目的やその詳細を伝え、重要性を理解してもらった上で、自施設における平常時の取り組みと緊急時の対応策について詳細を説明しましょう。
平常時の取り組み
感染症BCPが活用できるかどうかは、平常時の取り組みにかかっています。健康管理の徹底や備蓄品の補充、そして誰が何をやるべきかの理解など、日々の業務ですべき準備について解説します。
実際に感染症が発生したときの対応策を理解します。例えば、職員の数が足りなくなった際に優先すべき重要業務の内容や、残された職員間でのコミュニケーション手段、誰が何を行うかなどの分担表、介護ケアの対応フローなどを学びます。
【感染症BCP】訓練の具体例
訓練は、自施設のBCPを計画通り実践できるかを確認するものです。「机上訓練」と「実働訓練」をどのように進めるか、ポイントを押さえておきましょう。
机上訓練
机上訓練では、「このようなことが起こったら、職員は何をすればよいのか」を、自施設のBCPを踏まえて確認します。
進め方
具体的には以下のような手順で進めます。
①全体の進行役および書記を決める(記録を残すことが大切)
②4~5人で一つのグループを構成する(あまりグループの人数が多いと発言しない職員が出る)
③あらかじめ作成したシナリオに基づいて、「自施設ではどう対応するか」を議論し、グループ毎に発表する
④対応策がわからない場合は、記録に基づき、反省会で検討する
はじめは簡単なシナリオから考えるのがおすすめです。例えば、以下のようなシナリオが考えられます。
【回答例】
【回答例】
【回答例】
実働訓練
実働訓練は、実際に職員が身体を動かし、緊急時の役割分担は理解しているか、また実際に行動できるかどうかを確認するものです。実働訓練では、自施設のBCPに基づいた具体的な場面で、適切に行動にできるかを確認します。例えば、マスクやガウンなどを着用した状態で、食事介助や排泄介助ができるかなどを確認します。
振り返りも重要
「机上訓練」と「実働訓練」では、訓練を終えた後の振り返りが重要です。訓練の中で、自施設のBCPにはっきりした決まりがないと、実際の感染症流行時にも適切な対応をとることは難しいでしょう。またBCPが施設の実態に合わないという場合も同様です。訓練で見つけたBCPの足りない点などは改訂に反映させ、計画の精度を高めていきましょう。
まとめ
BCPは作成するだけでは意味がなく、全職員に定着させ、緊急時に実際に機能させるためには定期的な研修と訓練が重要です。今回の内容を研修・訓練の仕組みづくりにぜひお役立てください。
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