2022年5月31日更新
排泄ケアは記録が重要!排泄日誌の活用法
著者プロフィール/谷口 珠実(たにぐち・たまみ)
山梨大学大学院総合研究部医学域看護学系 看護学講座教授 (成人・高齢者・在宅看護学領域/大学院排泄看護学) 看護師、看護学博士。
慶応義塾大学卒業、聖路加看護大学大学院博士前期・後期課程修了。
研究課題は、排泄看護全般。対象は子供から高齢者までの全ての年代で性別問わず、場所は病院や施設内から在宅療養の現場において、望ましいケアの方法を研究。排泄を行う人にとっても、看護や介護を行う人にも優しいケアを探求している。目指しているのは、『全ての人が気持ちよく排泄できる社会づくり』。
【著書】「下部尿路機能障害の治療とケア」(メディカ出版)監修,「女性泌尿器科疾患の治療とケア」(メディカ出版)監修, 「排泄ケアガイドブック」(照林社)編著、など。
排泄日誌をつけてみませんか?
排泄の介護を行っていると、「食事の時間は決められても、排泄はいつ出るのかわからないので、予測がつきにくく対応が大変」という声を聞きます。そして、排泄物は放置しておくと、臭いが周囲に漂い、高齢者の脆弱な皮膚のトラブルの原因になります。
では、排泄の予測はできないのでしょうか?実は「ある程度は予測ができる」と考えられています。排泄を予測するための最初の手段としては、排泄の状態を観察して記録すること、すなわちそれは排泄日誌をつけることから始まります。
排泄日誌をつける意義
日誌ですのでいろいろな事を書き込んで頂いてもよいのですが、排泄の傾向を把握するための記録ですから、排泄に関係することを記載することで、その関連性の影響に気づいたり、生活のリズムが把握しやすくなったりします。
実は排泄は環境や生活の影響を大きく受けています。そして、排泄にかかわる身体の機能は複合されたものが多く、排泄の状況を知ることは生活状況を知ることにも役立ちます。つまり、排泄に関連することを情報として記載しておく、それが排泄日誌です。排泄日誌に記載された情報をもとにして、ご利用者様の身体や生活の状況として、どのようなことが起こっているのか、を考える材料として用いていきます。
排泄に影響するのは、朝起きてから寝るまでの生活リズムですから、起床時間と就寝時間を記載しましょう。起きてから昼間活動している時間帯の排泄の回数を「昼間排尿回数」と言い、就寝してから朝起きるまでの夜間の睡眠時間帯の排泄の回数を「夜間排尿回数」と言います。これらに加え、排尿の量や色、排泄物の状態を観察して記録します。
ではどのような内容を排泄日誌につけるとよいのか、排尿、排便それぞれについて次で詳しく説明していきます。
排尿の記録内容
排尿の場合、起床時間と就寝時間、排尿の時刻と排尿の量、自排尿なのかおむつに排尿した量の計測であるのか、尿漏れが有るのか否か、強い尿意切迫感(突然の尿意)などを基本的に記載します。可能であればさらに、飲水量や種類、食事の摂取量、運動や活動量、尿漏れが有る場合の状況、服薬状況などの情報も記載するとよいでしょう。
基本的に排尿の観察は短くても24時間行い、可能であれば3日間以上連続で観察します。24時間測定することで、1日の排尿回数、1日の排尿量の合計、1回の平均排尿量の計算が可能になります。
排尿の観察ポイント
1日の排尿の回数は4~8回程度ですが、1日15回以上もトイレに通っている、逆に排尿に行っていない(または排尿が無い)というのは、何らかの異常が起こっているのではないかと考えられます。
1日の排尿量の合計は、24時間分の排尿量を加算したものです。1日の排尿量の標準値は、体格や体重により異なりますが、おおよそ、1000ml~1500mlくらいを目安にしてください。
1回の平均排尿量は、24時間の排尿量を1日の排尿回数で割ります。1回の排尿量は、高齢者では250ml~500ml程度と幅がありますが、いつも少ない、いつも多い、場合には何か原因があるかもしれない、と考えられます。
排便の記録内容
排便は、排便時間や排便の形状、色を観察します。便が出た時間と便の色、便の形状を記載します。
便の形は、ブリストルスケールを確認し、1から7の数字で記載するとよいでしょう。1はコロコロの硬便、2は短く固まった硬便、3は表面にひび割れのあるソーセージ状の便、4は表面が滑らかで、軟らかいソーセージ状(バナナ状)、5は水分が多く、軟らかくて半分固形の便、6は不定形や泥状の便、7は水様で固形物がない液体状の便です。1と2は便秘、3・4・5は普通便、6・7は下痢と呼んでいます。
排便の観察ポイント
排便の量も観察して記載するとよいのですが、量を測定することは難しいため、大きさの目分量を示します。施設内であれば、基準にしやすい、鶏卵大やテニスボール、ピンポン玉、拳大など、皆で共有できるサイズを決めて記載するとよいでしょう。
食事の種類や内容により、便の色は異なりますが、一般的な便の色は、茶色から黄色です。明らかに異常な色は、血液に近い赤やオレンジ色、胃などで出血している場合の黒色、胆石などがある場合の白色などです。このような場合には医師の診察が必要です。
排泄日誌の活用法
排尿日誌の活用法
記載した排尿日誌を見ると、1日の排尿の回数や時間、1回の排尿量がわかります。最初に正常な排尿なのか、回数や時間や量に異常な値が示されていないかを検討します。異常のある場合やご本人が困っている場合には、日常生活が過ごしやすく気持ちよく生活できるように支援していくことが大切です。
例えば、薬(特に利尿を促す薬剤)を服薬した直後にだけ、何度も排尿に行くという場合は薬の効果であると考えられます。ただし、「何度もトイレに行くのが大変でよく転び困っている」という状況があれば主治医や看護師に「排尿日誌」を用いて相談すると、話が伝わりやすくなりますし、解決方法を考える糸口になるでしょう。
また、排尿の異常はご本人自身では気づきにくく、相談しにくいことです。加齢のせいで「トイレが近くなった」と感じる方も多く、年のせいと諦めてしまう方も少なくありません。しかし、トイレが近くなった原因は、「突然トイレに行きたくなる(強い尿意切迫感がある)」場合には、過活動膀胱という疾患かもしれません。治療を行った方がよいのか、治療法があるのかを考える場合にも、排尿日誌が役立ちます。排尿日誌は、利用者の排尿の状況を知るものであり、正常や異常を判別し、治療の前後で比較する際にも役立てることができます。
排尿日誌は出ている排泄を見ることには優れていますが、出てこない尿や便を把握することはできません。出ていない尿や便を確認するためには、超音波診断装置を用いることが有用です。最近では、簡便に測定できる装置も活用できますので、排尿日誌に加え残尿測定を行うと、下部尿路の機能の異常が判別できます。
排便日誌の活用法
最初に、排便と排便の間隔を確認しましょう。排便の周期は人それぞれですから、毎日排便がある人もいれば、2~3日に一度という場合もあります。さらに排便がある時間を確認すると、1日の生活習慣の中での排便の時間帯がわかります。例えば、朝起きて朝食を摂ることで胃や腸が動き出し、体内の反射が起きて便意が起こることは誰にでもありますが、体操や散歩を行ったあとに便が出やすいなど個別な特徴がある場合、生活との関係性を検討してみましょう。
下剤を服用している場合は、下剤の種類と服薬時間を記載します。下剤の種類には、非刺激性下剤と刺激性下剤があります。服薬時間と排便のタイミングを観察し、刺激性下剤を減らすような、飲水量や食事の種類、生活の活動量などの影響が考えられないかを排泄日誌から考えてみましょう。
事例から学ぶケア方法
【事例1】トイレ誘導のタイミングをつかむ
トイレに誘導すると自排尿できる場合もあれば、排尿がない空振りの場合もあるご利用者様。現在、トイレへの誘導は2時間おきに行っているが、尿漏れが生じることもある。
3食の食事の前には自排尿を促すと排尿するが、2時間ごとでは、排尿誘導を行っても空振りの時がある。介護者が排尿に行くか尋ねると、「心配だから行く」と答えるがトイレに行って便座に座っても、尿意は無く申し訳なさそうに「出ない」と言うことがある。
排尿日誌から考えるケア方法
排尿日誌をつけてみると、下記のことが分かりました。
そこで、2時間では頻回に排尿誘導を行い過ぎていると考え、3時間ごとに変更。加えて就寝前の飲水をやめたところ夜中の排尿もなくなりおむつ交換もなくなりました。
【事例2】尿失禁のタイプを検討する
ケース1|切迫性尿失禁・過活動膀胱
「尿意切迫感」が強く突然あり、「トイレに間に合わず失禁した」とご利用者様が話した。
排尿日誌から考えるケア方法
排尿日誌を見ると、1日の排尿回数が15回以上で少量ずつ排尿していました。このような場合には、尿の臭いや濁りがないかを観察します。臭いや濁りの異常がなければ、切迫性尿失禁、または過活動膀胱(OAB wet)が考えられ、主治医に相談することで、薬物治療対象となり改善が図れるケースがあります。薬物治療の前後(服薬前と服薬から2週間後くらい)の排尿日誌を比較すると、薬の効果があるのかが判別可能です。
ケース2|腹圧性尿失禁
蓄尿時に「よいしょ」と立ち上がったら尿が漏れた。咳やくしゃみに伴い漏れが生じた。
排尿日誌から考えるケア方法
これらの状況があれば、腹圧性尿失禁が考えられます。特に女性に多く、膀胱を支える骨盤の底を支える骨盤底筋群の筋力が弱くなり、膀胱の出口をしっかりと閉じることができずに漏れやすくなります。
回数の異常はないものの、尿を溜めている時に腹圧がかかることで尿漏れが生じる場合には、腹圧性尿失禁が考えられるため、可能であれば骨盤底筋体操を行うとよいでしょう。
【事例3】排泄用具の活用
75歳男性で脳梗塞のあと右半身の不完全な麻痺が残っており、トイレの移動や移乗動作に時間がかかっている。昼間はご利用者様本人が介助者を呼びトイレに行くこともあれば、4時間以上呼ばない場合は、介助者の促しでトイレに移動することもある。夜間は排尿で目が覚めるが、移乗や移動動作が昼間よりも緩慢になるため、移動中に漏れてしまうことが多い。また漏れる量が多く、おむつをつけていても溢れて寝具を汚染することがある。
排尿日誌から考えるケア方法
夜間は安楽尿器を用いることで、移乗動作を減らしましょう。ただ、麻痺の改善があり寝返りが自分でできるようになると、安楽尿器は外れてしまい、寝衣汚染することがあります。その場合は、夜間は集尿器を用いて介助を行うようにしましょう。夜装着し、朝覚醒している際はトイレに移動するために外すことで、皮膚のトラブルも無く過ごすことができます。
【事例4】排便がうまく出ないので下剤を用いると下痢になる
食事は固い物は咀嚼できないが、柔らかい食材で準備した食事は義歯を使用して自力摂取している、86歳の女性。最近、ベッド上で過ごすことが増えていて、日中の活動量が減り、日中の飲水を促しても飲水量が400ml程度で食事摂取量がこれまでの半分程度と少なくなり、排便が4日以上出ないことがある。
排便の色は茶色で、固いコロコロとした便が母指頭大排出された。ある日、トイレで排便しようとしているが、いきんでも排便は無く、下腹部が張っていたため、腹部をマッサージしたり、下腹部を貼るカイロを用いて温めたりしたが、排泄されず、刺激性下剤(ラキソベロンを10滴)を用いた。翌朝、大量の水様便で寝具が汚れていた。トイレには間に合わず、夜間のみおむつを使用していたが、そのおむつから溢れる大量の便失禁となった。本人は「申し訳ない…」と繰り返し謝っていた。「もう下剤は嫌だ」とつぶやいている。
排尿日誌から考えるケア方法
毎日の食事量と飲水量、生活の活動量の確認を行いましょう。この事例の場合、飲水量も食事量も減っているため、摂取できない原因を探り、改善策の検討が必要です。促しにより摂取できる場合には、時間を決めて促しましょう。併せて活動量を増やすためのイベントへの参加を促すこともおすすめです。
日常生活の維持が排泄には不可欠であるものの、生活の維持ができない状況においては腹部の「の」の字マッサージや腹部の罨法(ホットカイロなどでもよい)などが有効です。排便時の姿勢は、便座に座ること、足を床面につけて、上肢を前傾姿勢にして、息を止めていきみをかけることが必要となります。
下剤を用いる場合には、最初に非刺激性下剤から使用しましょう。非刺激性下剤でも排泄が無い場合には刺激性下剤を用いますが、刺激性下剤を継続して使用すると腸には悪影響があるため、注意が必要です。刺激性下剤は用いても翌日に反応の便が出ない場合には、効果が無いと考え、連用は行わないようにしましょう。
まとめ
日々の排泄状況を記録することは、ご利用者様の排泄パターンの把握に役立ち、それぞれに合ったケア方法を考える指標にもなります。ご利用者様が快適に過ごせるよう、排泄日誌を活用して適切なケアを心がけましょう。
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