コラム

2021年4月27日更新

認知症のご利用者様にもマスクを着けていただくには?感染リスクからご利用者様・職員を守るための工夫 

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著者プロフィール/加澤 佳奈(かざわ・かな) 
広島大学大学院医系科学研究科共生社会医学講座 特任講師
2005年広島大学医学部保健学科看護学専攻卒業、呉医療センター、広島大学病院等を経て、2014年広島大学大学院医歯薬保健学研究院成人看護開発学 助教。2020年10月より現職。コロナ禍における認知症の方への影響をテーマとした医療介護施設従事者を対象としたインタビューも数多く行っている。 

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著者プロフィール/石井 伸弥(いしい・しんや) 
広島大学大学院医系科学研究科共生社会医学講座 特任教授
2001年東京大学医学部卒業。帝京大学医学部附属市原病院麻酔科での研修後、2004年より渡米しUPMC (University of Pittsburgh Medical Center)にて内科初期研修を行う。2007年よりUCLA/VA(Veterans Affairs)にて老年病内科フェロー(後期研修)。2008年よりVAにてリサーチフェローを開始し、同年UCLA大学院臨床研究コースに入学、2010年学位取得。2011年帰国し東京大学老年病科に勤務。2017年東京大学大学院にて医学博士号取得。2018年4月より厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室にて認知症専門官として勤務後、2020年4月より広島大学大学院共生社会医学講座特任教授。2020年12月に、加澤氏らとともに「認知症ご本人、ご家族向けの新型コロナウイルス感染症対応パンフレット」を作成した。 

感染症対策の強化が求められている中、「認知症のご利用者様にマスクを着用いただくのが難しい」といったこともあるのではないでしょうか? ご利用者様はもちろん、介護スタッフ様の命を守るため、認知症のご利用者様にも感染対策にご協力いただくことが大切です。
 
そこで今回は、介護施設で感染対策を講じる際のヒントになるよう、認知症のご利用者様とのより良い接し方や、対応について、広島大学大学院医系科学研究科共生社会医学講座 特任講師の加澤 佳奈氏にご執筆いただきました。なお、本記事は、加澤 佳奈氏・石井 伸弥氏らが作成した『認知症ご本人、ご家族向けの新型コロナウイルス感染症対応パンフレット(*1)などを元に解説いただいています。

新型コロナウイルス感染症の基礎知識

介護施設のご利用者様は感染症に対する抵抗力が弱く、一旦感染すると重症化しやすい傾向があります。介護スタッフ様は日々感染対策に細心の注意を払われていることでしょう。基本的なことではありますが、まずは新型コロナウイルス感染症の主な感染経路と感染対策について簡単にご説明します。 
 
新型コロナウイルスの主な感染経路は、「飛沫感染」「接触感染」といわれています。

飛沫感染・接触感染とは

飛沫感染・接触感染とは

飛沫感染・接触感染とは

基本的な感染対策として推奨されているのが、3密(密集、密接、密閉)の回避や、マスクの着用、手指衛生です。ただ、認知機能が低下している認知症のご利用者様においては、ご自身で対策を実施いただくことが難しいことがあるようです。

認知症のご利用者様に感染対策を講じていただくことが難しい理由

認知症の症状には「認知機能障害(中核症状とも呼ばれる)」と「行動・心理症状(周辺症状とも呼ばれる)」があることを、ご存じでしょうか。これらの症状が、感染対策を実施しづらくしている場合があります。 

【認知症の主な症状】 

60_認知症ご利用者様の感染対策

60_認知症ご利用者様の感染対策

60_認知症ご利用者様の感染対策

  • 加澤 佳奈氏監修のもと、作成

認知機能障害には、「記憶・学習障害(忘れてしまう・理解しづらい)」の他に、「遂行機能障害(物事を段取りよく進めることが難しい)」や、「失行・失認(動作がうまくできない、物が見分けづらい)」などがあります。そのため、「感染リスクや対策について説明しても理解することが難しい」「何度説明しても忘れてしまう」「手洗いや手指消毒といった動作がうまくできない」「マスクや手指用消毒剤を見ても、それと認識しづらい」といったケースが発生しやすくなります。
 
行動・心理症状は認知機能障害に伴う症状で、「徘徊」「不穏・興奮」「不安・抑うつ」「幻覚」「異食」などが見られます。これらの症状が見られる場合、「必要時にご自身の居室で過ごしていただくことが難しい」「人との距離がとりにくい」といった状況が起きやすくなります。また、ご利用者様によっては介護施設で実施している感染対策がご利用者様自身に向けられたものではないかと思われて、「ばい菌扱いされている」「自由が奪われ何かされるのでは」といった不安につながっていることがあります(※2)。そのほか、介護職員による注意喚起が「叱られている」という印象を抱かせ、混乱を招くこともあるため、感染対策にご協力いただくには、いかに安心感を持っていただくかが大切になります。 

こんなとき、どうする?認知症の症状に寄り添った感染予防策 

認知症のご利用者様が、新しい生活習慣を身につけるまでには時間がかかります。また、認知症の症状は個人個人で異なりますので、ご利用者様の状態に合わせて接し方や対応を工夫することが大事です。 

マスクを着用いただきたいとき

記憶・学習障害が見られるご利用者様

マスクを着けていただくことが難しい場合、生活動作の中にマスク着用を取り入れてみると、感染対策を実施していただきやすくなります。例えば、外出前に玄関先で身なりを整える、帰宅後に居間へ向かうといった場面で、「マスクを着けて準備しましょう」と声を掛け、介護スタッフ様もご利用者様と一緒に実施してみるのです。 
 
また視力の低下によって、白いマスクが認識しにくいこともありますので、そういった場合は、マスクの色がはっきりしているものにするのも良いと思います。特徴のあるマスクを使っているときには、「今日はかわいい/かっこいいマスクを着けていらっしゃいますね」と楽しい会話をしてみるのも良いでしょう。

異食が見られるご利用者様

目についたものを口に入れてしまう「異食」が見られるご利用者様の場合、マスクを口に入れてしまうと、窒息してしまう危険性があるため、注意が必要です。異食の原因として、「空腹感」「生活リズムの乱れ」「ストレス」などがあるため、これらに対する対策を講じることで、異食を防ぎましょう。例えば、「食事を小分けにして回数を増やす」「生活リズムを整える」「食後に歯磨きをする」「ストレスの原因を探ってみる」などがあります。また、かかりつけ医療機関やケアマネジャーに相談することも欠かせません。
 
なお、手指用消毒剤も口に入れてしまう可能性があります。このようなケースへの対応例として、消毒剤にカバーをかけることで、食べ物や飲み物と誤認しにくくすることが挙げられます。しかし、やはり誤食・誤飲の可能性が高いと考えられる場合には、ご利用者様がすぐ手に取れる場所に設置しないように配慮することが必要です。介護スタッフ様が携帯用の消毒剤を使うというのも工夫の一つで、リスク軽減につながります。 

手洗いをしていただきたいとき

記憶・学習障害が見られるご利用者様

手洗いの必要性をご理解いただくことが難しい場合、食事前やトイレの後、帰宅の後、咳やくしゃみの後、ペットに触れた後に手洗いを繰り返し勧めることで、手洗い行動を生活動作の中に取り入れてみると良いでしょう。その他、ラウンジや居室の入り口、食事テーブルなどに「食事の前には手洗いをしましょう」というメッセージを書いたポスターを貼る方法もあります。
 
また、介護スタッフ様も一緒に手を洗うことで、ご利用者様に安心感をもってもらうことも効果的です。手洗いと一口に言っても、実は複雑な動きの連続です。「水で手についている汚れを流しましょう」「石けんを泡立てましょう」など、一つ一つの動きを迷わないようにお声掛けしたり、一緒に手洗いをしてやり方をお見せしたりと、動作そのものへの抵抗感を減らすことを心掛けると良いでしょう。 

失行が見られるご利用者様

石けんによる手洗いが難しい場合は、手指用消毒剤を使った手指衛生を行っていただくようにしましょう。介護スタッフ様がご利用者様の手を握りながら消毒剤を広げるのを手伝うと、安心して手指消毒を受け入れていただけると思います。 
 
なお、手が荒れると、感染リスクが高まるだけでなく、手洗い剤や手指用消毒剤がしみてより一層手指衛生にご協力いただきにくくなる場合があります。皮膚への刺激が少ない手洗い剤・手指用消毒剤を選ぶ、保湿クリームを使うことで、手荒れを防止することが大切です。 

徘徊による感染リスクを軽減したいとき

徘徊が見られるご利用者様

徘徊されるご利用者様が何らかの病原体に感染されていた場合、手すりやドアノブなどを触れながら徘徊されると、感染が広がる可能性があります。徘徊されるご利用者様による感染拡大を防ぐため、コンタクトポイントは十分に清掃・除菌しましょう。
 
その他、徘徊による感染リスクを軽減するには、介護スタッフ様が徘徊の症状を和らげる支援を行うことも大切です。徘徊には、ご利用者様本人にしか分からない理由がある場合があります。例えば、「トイレに行きたいけど場所が分からない」「今自分のいる場所が分からず居心地が悪い」などです。徘徊はご利用者様のお話を傾聴する、他のことに気をそらす、一緒に歩くなどすることで落ち着くこともあります。便秘といった不快感があって、トイレを探すために歩き回ることもありますので、そうした点にも気を付けてみましょう。
 
感染症の流行下では居室で長時間にわたってお過ごしいただく必要があるかと思いますが、徘徊が続いている場合、他のご利用者様との生活動線が交わるかを確認しつつ、ご本人が歩きまわれるよう生活空間を広めに仕切ってみる工夫をしてみましょう。 

最後に

広島大学では、認知症の方やそのご家族向けに『認知症症状や日常生活機能に応じた感染対策や身体・認知機能悪化予防の工夫をまとめたパンフレット』、介護施設向けに『介護施設において新型コロナウイルス感染症(COVID-19)もしくはその疑いがある認知症高齢者の行動・心理症状の対応および身体拘束予防のための手引き』を作成しました(※1)ので、どうぞご活用ください。今回ご紹介させていただいた工夫やパンフレット等が日々の対策・ケアにお役立ちできれば幸いです。
 
長期化する感染対策において、ご利用者様の生活を守るべく、お一人お一人に真摯に向き合い、ケアしてくださっている介護スタッフ様に心より敬意を表し、感謝申し上げます。みなさまの心身のご健康と、平穏な日常が戻ることを祈っております。 

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