コラム

2019年6月25日更新

シリーズ:介護現場で使える!コミュニケーション術(全5回)

話し上手は聴き上手 相手の笑顔を引き出すために【後編】

著者/尾渡順子(おわたり・じゅんこ) 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士

「傾聴」について前後編でお届けしている第3回。前編では、ご利用者様に寄り添って話を聴くことの効果をご紹介しました。後編となる今回は、具体的な傾聴のポイントと事例をご紹介します。

傾聴のあるべき姿勢

さっそく、傾聴する際のポイントを学んでいきましょう。

「でも、しかし」で否定をしない

相手の話に異論があっても、一度受け止めることが必要です。「でも、しかし」で否定をせずとにかく「耳を傾ける」ことが大事です。

相手の話を奪わない、自分の考えを押し付けない

よく見かけますが、相手が話しているときに「そういえば私も……」と相手の話を奪って自分がしゃべり出す人がいます。相手を尊重し自分の考えを押し付けないことが重要です。

共感・受容し、相手に近付く

相手の感情に寄り添い、相手の気持ちを受け入れます。相手が感じるように自分も感じることが大事です。そうすると、「ああ、この人は私をわかってくれている」と感じてもらうことができ、相手の心に近付けます。

無防備、余裕のある態度、一定の距離感

構えや飾りのない態度をとるようにしましょう。余裕があり、馴れ馴れしくも冷たくもない態度で一定の距離を保つことが必要です。

沈黙が続くときは待つ

沈黙が続くときは相手が考えをまとめていたり、心を落ち着けていたり、怒りや拒否を表していたりすることがあります。「あなたが話せるようになるまで待ちます」という姿勢が大事です。

話さない方が良いときもある

暖かい笑顔、スキンシップ、控えめな態度が、相手にとって良い場合もあります。

何とかしてあげようと思わない

ご利用者様が何かに悩んでいても、その答えは自分自身で見つけることが大事です。話を聴いているうちにカウンセラーのような気持ちになってしまうかもしれませんが、治す援助はしても、治そうとするのは間違いです。

ご利用者様の気持ちを察する事例

それでは具体的に、ご利用者様の気持ちを察する対応とは、どのようなものなのでしょう?
「OK例」と「NG例」をいくつかご紹介します。

【NG例】 「わかったつもり」になってしまう

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ご利用者様に八つ当たりをされて、つらい立場の職員さん。こういう場合「わかります、わかります」は短絡的すぎるのかもしれません。ご利用者様の言う通り、そんな簡単にわかるわけないんです。特に家庭内の問題は他人にはわからないものですし、自分の半分の年もいかない経験未熟な若者に理解できるものかと思っている人も少なくないのです。「わかってほしいけど、わかったつもりになってほしくない」というのが本音なんですね。

こういう場合、「お孫さんを大事にされてきたのに、つらい言葉を言われて悲しい思いをされたのですね」と相手の感情を反映して気持ちに寄り添う態度が大事です。「私はお孫さんと同じくらいの年ですからAさんのお気持ちはわからないかもしれませんが」と前置きをして、「私でもそんな冷たい言葉を言われたら、つらくなってしまうと思います」「そんなことを言われたら悲しくなりますよね」と一般論として答えるのが良いでしょう。
「わかります、わかります」は共感しているように見えますが、実は相手から「わかるわけがない」と反感を買う可能性があることを覚えておきましょう。

【OK例】 恥をかかせない

  • 介護現場での声がけNG事例5選|すぐに駆け付けられない場合は理由といつ行けるかを告げる

本当は失禁でズボンが濡れてしまったのですが、ご利用者様もなかなか自分から言い出しにくいもの。そういう場合は職員が察して「お茶をこぼしてしまったから着替えましょう」とお誘いするのが良いでしょう。

特に、認知症のある人が日常で失敗をすることはとても多いですが、一方でご本人の感情は強く残っていますから、失敗を恥ずかしく思い、隠そうとしたり不穏になってしまったりすることもとても多いです。「こちらの手落ちで」と言葉を工夫することで、相手に恥をかかさずプライドを保つことができるわけです。
「相手の思いを察して、心の声を聴く」ことも大事な傾聴のテクニックだと思います。

【NG例】 「うつを治してあげよう!」

  • 介護現場での声がけNG事例5選|すぐに駆け付けられない場合は理由といつ行けるかを告げる

高齢者の心身の変化として、喪失体験が増えることで抑うつ状態になる人がいます。大事な家族や友達を失う、主婦という役割を失う(台所に立てなくなる)、お金の管理ができないと財布を取り上げられる、などなど。子どもが巣立って外へ出る機会が減り、孤独感に悩まされる人も多くなります。男性でも、例えば定年を迎え仕事を失い、社会的地位を失い、健康も失い、といったような「喪失」が多くなると、抑うつ状態になる方が少なくありません。抑うつ状態から認知症の症状が出てしまったり、認知症そのものに移行したりする方もいらっしゃいます。

そんなうつ状態の人に、勘違いをして「何か楽しい話を」であるとか「カラオケに行こう」など誘ってみたけれど、相手から「そんな気持ちになれない」と断られる場面はよく見られます。大きな変化に心がついていけない状態ですので、本人の様子を見て静かに接して差し上げることが大事です。「楽しい話をしましょう!」よりも相手の話をじっくり聴く。まさに「傾聴」です。

静かに見守っているけれど、あなたを応援している。でもそれは「負けるな、頑張れ!」ではなく「そばにいますよ。寂しいとき、つらいときは何でも話して」という姿勢です。

うつ予防には「自然」と「感謝」が効果的?

私(筆者)は以前、うつ予防教室のお手伝いをしていたことがあるのですが、講師の話によると、「本人はとにかく疲れている。まずは外の空気を吸って自然の中を歩くことをお勧めします」と話していました。「こんな小さい芽がアスファルトから……」「春の匂いだ!」「沈丁花の香りがする」といった小さな自然の変化に対する気付きが、大きな安らぎをくれることもあるそうです。

もう一つ教えていただいたのが、傾聴の際に「感謝している人、こと」についてじっくり話していただくのも効果的ということ。こういう話題は話している方も聴いている方も心がほんわか暖かくなってきます。
例えば育ててくれたお母さん、仕事を教えてくれた先輩、人生を変えてくれた上司、自分の仕事を理解してくれた伴侶など。「私の人生、いいことが何もなかった」と話すネガティブな人でも、「こんな人生だけれど、こんなに自分を大事にしてくれた人がいた」「こんなに私を愛してくれた人がいた」「私を変えてくれた人がいた」と思い出すことが「勇気」につながるのだとか。そういう「プラス」の話をご利用者様からじっくり聴くのもとても良いと思います。

【NG例】 メロドラマになっちゃった

  • 介護現場での声がけNG事例5選|すぐに駆け付けられない場合は理由といつ行けるかを告げる

相手の話をじっくり聴いて共感をすることは必要なのですが、感情移入をして自分まで一緒に「悲しく」なってしまうことにより、ご本人の帰宅願望をさらに助長してしまうことがあります。
傾聴、共感をしても、「毅然とした態度」で対応するようにしましょう。例えば、「そうですか。今すぐ帰りたいのですね。ポチと会いたいのですね。じゃあ息子さんに迎えに来ていただけるか聴いてみますね」といった具合です。
相手は不安になっていて、こちらに頼ってきているのですから、一緒に不安になってオロオロしてはいけないわけです。

【OK例】 仕事を手伝ってもらう

  • 介護現場での声がけNG事例5選|すぐに駆け付けられない場合は理由といつ行けるかを告げる

Aさんが身体能力が高く、いろいろお手伝いをしていただけそうな方であれば、本人が望む範囲で役割を担っていただくようにしましょう。ケアプランに織り込み、「自立支援」「生き甲斐づくり」に繋げるチャンスです。

以下のような内容を選び、いろいろ試していくと良いでしょう。
①昔やっていたこと(逆にやったことはないけれど、やってみたいこと)
②得意なこと、好きなこと
③人から感謝されること

人は、実は「ありがとう」と言うより「ありがとう」と言ってもらった方が嬉しいものなのです。「すごいね」「上手にできましたね」よりも「助かったわ」「お仕事を任せて良かったわ」と言われる方が自己肯定感が湧くものなのです。
突然ではなく少しずつ、本人が疲れない範囲で仕事を増やすことが望まれます。「何が好きなのか」「何が楽しいのか」を探りながら役割づくりを進めてください。
傾聴についていろいろテクニックをご紹介してきましたが、中には「話し始めたら止まらない人」「依存性の高い人」などが対象だと業務に支障が出るケースもあると思います。
そういう場合は「ごめんなさいね。〇〇の仕事に行かないといけませんので、この続きはまた後で」と打ち切ったり(その場合必ず約束を守る)、他の人に委ねたりするなどの工夫をしてください。

番外編:「その人クイズ」のすすめ

相手の話を聴くテクニックと共に大事なのが、相手の話から、その人の「興味」や「好きなこと」を引き出し、他の人との関係性をつなぐことです。今回は、私が以前よく行っていた「その人クイズ」について書いてみましょう。

新入職員や新入所者が入ってきたとき、レクの時間にしていたのが「その人クイズ」です。レクの前に、私は新入職員Aくんに、出身や趣味特技などいろいろな話を聴いていました。レクではAくんを前に出して、20人ほどのご利用者様にクイズを出しました。
「Aくんは3人兄弟の何番目でしょう?」

当時、Aくんは夜勤を始めたばかりだったのですが、ある女性ご利用者様が「この子は絶対に長男だよ。あたしが昨日トイレで気持ち悪くなったときに面倒見てくれた。昼だってすごく親切だよ。すごいしっかり者だよ」と答えたんですね。ご利用者は職員のことをすごくよく見ているんだなあと感動をしたものです。
そのAくんが、このレクの翌々日に私のところに来て、ある話を打ち明けてくれました。

「僕、男性利用者のBさんが怖くて仕方なかったんです。トイレ介助のときも、便座に乗せるお尻の位置が少しずれただけで『バカヤロー』って怒鳴る。怖くて怖くていつもBさんに見つからないように柱の陰に隠れていて。
でもほら、レクのクイズで僕の出身地が山形って言ったでしょう? 昨日の夜、Bさんが車いすを自走させてわざわざ僕のところに来て「おい、俺も山形だぞ。おまえは市内か?」って話しかけてきたんです。それから野球もやっていたって。すごく話が盛り上がって。それから怖くなくなりました。」

その話を聴いて私はとても嬉しくなりました。このレクはAくんの「出身地」「家族構成」「昔やっていたこと」「好きなこと」を題材にしたわけですが、それを聴いていたBさんは「自分との共通点」を見つけると、それをきっかけにAくんに話しかけるようになったんですね。

人は「自分と共通点があること」を知ると、急に距離が近付いたように感じるものなのです。また「意外性」を見つけると、それはその人の魅力になります。Aくんは野球をやるようなスポーツ少年だったけれど、なんと華道が趣味なんですって。そのギャップがご利用者様を驚かせたんでしょうね。しばらくは「お花のお兄ちゃん」と呼ばれて照れていました。
 
今回は、前編と後編に分けて「傾聴」について書かせていただきました。
次回の「介護現場で使える!コミュニケーション術」は「ご利用者を元気にする言葉がけ」についてです。お楽しみに!

著者プロフィール尾渡順子(おわたり・じゅんこ)
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士、介護教員資格等を所得。介護技術や認知症介護、コミュニケーションに関する研修講師も務める。
2014年、アメリカ・オレゴン州のポートランドコミュニティカレッジにて、アクティビティディレクター資格を所得する。2018年4月より医療法人中村会 老健あさひなに勤務し認知症介護レクリエーション実践研究会を立ち上げる。現場において高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、介護従事者に「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方で、介護情報誌やメディアにおいて執筆などを手掛けている。著作として「みんなで楽しめる高齢者の年中行事&レクリエーション」(ナツメ社)、「おはよう21増刊号 楽しい!盛り上がるレクリエーション大百科」(中央法規出版)、「介護現場で使えるコミュニケーション便利帖」(翔泳社)「介護で使える言葉がけシーン別実例250」(つちや書店/滋慶出版)「笑わせてなんぼのポジティブレクリエーション」(日総研)「DVDレク担さん必見!もう悩まない 笑顔を引き出す介護レク入門」(BABジャパン)などがある。

編集:花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部

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