コラム

2021年3月30日更新

多職種連携にも役立つ 介護やケアに関わる人々が思いを語る場「未来をつくる kaigoカフェ」とは

著者 高瀬 比左子氏のプロフィール写真

著者プロフィール/高瀬 比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネジャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動にはこれまで約1万人が参加。通常のカフェ開催のほか、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援なども行う。著書に『介護を変える 未来をつくる ~カフェを通じて見つめるこれからの私たちの姿~』、『Re:CARE ポストコロナ時代の新たなケアのカタチ』(共著)(日本医療企画刊)がある。

ご利用者様に対してより良い支援を行うには多職種連携が必要であり、そのためには自身の思いを語る力や、相手の考えをよく聞く力が求められます。

これらを磨く一つの方法に、高瀬 比左子氏が代表を務める「未来をつくるkaigoカフェ」があります。そこで今回は、高瀬氏に「未来をつくるkaigoカフェ」の概要や参加者の声などをご紹介いただきました。最後に、多職種連携において大切なことも述べていただきましたので、より良いチームケアを実践されたい介護スタッフ様はぜひご覧ください。

「未来をつくるkaigoカフェ」とは?

「未来をつくるkaigoカフェ(以下、カフェ)」は、介護職や医療福祉に関わる方が自由な「対話」を通して、気づきや行動のきっかけを得てもらう場として、2012年7月にスタートしたカフェです。

都内のカフェ等にて、肩書や役職は関係なく、自分らしく毎日の仕事を楽しむために自分の思いを語り合い、それぞれが抱えている問題や価値観を共有したり、地域の中で起こっている問題について考えたりします。
 
「対話」は結論を求めることなく、テーマやルールに基づいてお互いの意見を聞き合う場です。会議室で議論するようなものでも、スタッフルームで雑談するようなものでもありません。主張するだけではなく人の話をよく聞く、相手を知るのが対話です。

対話のテーマ

カフェでは、仕事へのモチベーションを維持できるような「学び」や「人とのつながり」がつくれるよう、介護医療現場の課題意識をテーマにしています。

【テーマ例】

  • 職場における環境づくり
  • 折れない心を育てるには
  • 介護福祉現場におけるパートナーシップのあるコミュニケーションとは
  • 医療介護×地域づくりのこれから
  • 介護現場に求められるマネジメントとは

このようにテーマは設定していますが、決して勉強会やセミナーのような堅苦しい場ではありません。名前の通り、カフェにいるように温かみのある、そしてフラットに意見交換できるような場です。

実施状況

参加者は現場の介護職だけでなく、経営者、医師や看護師といった医療職、理学療法士や作業療法士といったリハビリ職などさまざまです。介護家族やアクティブシニア、学生、介護保険外サービスや一般企業の方などが集まることもあります。これまでに約1万人以上の方々に参加いただき、参加者同士でイベントや勉強会を実施したり、同様のカフェを他の地域で開催したりと、さまざまな形で有機的なつながりを生み出しています。

2020年からは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてオンラインに切り替えて開催しています。オンライン上で行う対話は、五感をフルに使えないため、より相手の話を聞く力が求められます。視覚と聴覚から得られる情報だけを頼りに、想像力を働かせ、相手を慮る気持ちが必要になるわけですが、オンラインでの対話に慣れることでも、リアルの場で必ず生かせると思っています。
 
なお、これまで各地でファシリテーター講座を開催してきたこともあり、仲間が全国にいるため、以前東京でリアルに開催していたときよりも多くの方々に参加していただいています。ずっと参加したかったカフェに、オンライン上で地方から参加できてうれしいなどの声も多くいただいています。

参加者の声

未来をつくるkaigoカフェは、「『対話力』を磨く場所になれたら」、「カフェでの出会いと対話から、自分なりの行動のヒントを持ち帰ってもらえる場であれたら」と思いながら開催しています。以下、カフェに参加された方の声を私の考えとともにご紹介します。

  • 【参加者の声に対する筆者の考え】は、花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部が筆者にヒヤリングし、文章作成したものになります。

【参加者の声①】

課題:
現場で何のために自分はケアをしているのか?慢性的な人手不足により、日々の業務に追われるがあまり、ケアの本質を見失いかけていた。
 
カフェに来て得たこと:
業務の生産性を上げることで、ご利用者様が求めることが実現できるようなケアの時間がつくれるようになりました。こういったポジティブな変化は、「介護現場がさらによくなる」という自信につながりました。

【参加者の声②】

課題:
よいケアとは何なのか?日頃の業務に追われる中で、向き合うことができなかった。
 
カフェに来て得たこと:
業務を改善し、個別に対応できる時間をつくったことで、チームケアが促進され、ご利用者様の立場にたった希望を叶えるケアの実践につながりました。

【参加者の声①②に対する筆者の考え】
介護業界は比較的社会との接点が少ないことから、閉鎖的になりやすく、人間関係の悩みが原因で辞められる方が多い傾向があります。人手不足が慢性化し、業務に追われる日々が続くと、「ご利用者様の思いを汲み取るケア」というよりも、「介護職員の業務が進めやすいケア」を行うことが当たり前な状態になりやすいと思います。人手不足の問題は、一朝一夕で解決することは難しいため、いかに業務の生産性を上げる取り組みを実施するかが大切です。「他職種に任せられる仕事はその方にお願いする」、「ジョブローテーションを検討する」……、業務改善のアイデアを職員同士で出し合い、時間をうまくやりくりすることで、ご利用者様と向き合う時間をつくりだしてみてはいかがでしょうか。
 
ただ、職員がみな、自身と同じ方向を見ているとは限りません。さまざまな価値観や経歴、職種の方が集まる場で業務改善に取り組むには、同じ思いを共有し、一緒に行動してくれる仲間を増やすことが重要です。たった一人で心を燃やしていると孤立する恐れがあるため、自身の思いを地道に職場の方にわかっていただくことがポイントです。それを実現するには自分の思いを言葉にして伝える力が必要ですが、職場ではその力を磨く機会が少ないため、対話力を磨けるカフェのような場を職場内につくる、もしくは外に一歩足を踏み出してみると良いでしょう。

【参加者の声③】

課題:
職場で自分の悩みを打ち明けることができず孤独感を感じていた。
 
カフェに来て得たこと:
地域を超えた前向きな考えを持つ仲間とつながり、モチベーションを継続的に高めることができました。自分一人が悩んでいるわけではないということに気づけたことが大きかったです。

【参加者の声③に対する筆者の考え】
これは介護現場に限った話ではないかもしれませんが、職場で愚痴をこぼすと、職員全員に知れ渡る傾向があることから、本当の悩みを職場の人に相談しにくいと感じる方が多いのではないでしょうか。「本当はご利用者様と会話したり、ご本人の思いに寄り添ったケアをしたい」と思いつつも、言えない。おかしいと思ってもおかしいと声をあげられない。このような、閉塞感、孤独感が悩みにつながっている介護スタッフ様も少なくないと思います。
 
施設や組織、職種を超えた前向きな考えを持つ仲間との出会いは、自分以外の「みんな」も悩んでいるということに気付けます。また、ポジティブな方向に変化している方を間近で見ると、働くモチベーションが上がり、自分も頑張ろうという気持ちになります。悩みを一人で抱え込むと、より一層その悩みが深まるため、前向きに現状を良くしていこうという思いを持った方と外部で触れ合うことは大変重要なことだと思います。

多職種連携を行う上で必要なこと

相手に自分の思いをうまく伝えることができないでいると、誤解を招き、現場での衝突も増えます。介護スタッフ様の中には、他業種の方と出会う機会が少ないがために、どちらかというと「対話」や「表現」が苦手……という控えめで不器用な方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。ただ、受け身の姿勢であり続けると、人の言いなりになってしまい、結果としてストレスを抱え込んでしまうということもあるように思います。なかなか容易にできることではないですが、今後、多職種との円滑な連携を築くためには、互いに知り合う努力が大切であり、その実現のために必要な要素の一つとして、「対話力」があると考えています。

最後に

実は以前、私は介護現場で、同僚や上司とのコミュニケーションギャップや、多職種連携の難しさに悩んでいました。また、私自身、介護現場で長く働き、介護福祉士、社会福祉士、ケアマネジャーと資格を取得し、ステップアップしているのにもかかわらず、自分の目指すべきゴールのイメージが描けずにいました。それと同時に、ご利用者様のその人らしさの支援をする私たち介護職が、もっと自分らしくいきいきと働く方法を常々考えていました。
 
そんなとき、一歩足を踏み出すきっかけとなったのが、ソーシャルネットワーク上でさまざまな形で介護業界を変えようと努力されている方の存在です。私は、こう思いました。「組織の中の決められたレールの上をただ歩くのではなく、自分がつくりたい未来を自分で切り開いていく方法があるのではないか」、「これまで私自身が現場で問題意識として感じていた『対話』を通じて、前向きなつながりをつくることができないか」と。その思いを現実にするためにSNS上で仲間を募り、未来をつくるkaigoカフェを始めました。
 
カフェのような対話を磨ける場は、私自身が当事者として最も必要な場であったといえるかもしれません。対話の中で自分の考えを口に出してみると、思ってもいなかった発想が出てきたりして自分自身を知ることにもつながります。参加者が主役で人との対話で引き出される「場」を用意することが私の役割だと思っています。これからも確かな軸を持って、自分の言葉で伝えることができ、多職種ともフラットに対話できる場をつくることで、介護職の方々やケアに関わる方々の後押しができたらと思っています。
 
なお、カフェのような場を自分の地域や法人で始めたいという方に向けて、2016年から東京でkaigoカフェファシリテーター講座をスタートしています。こちらはカフェ運営のコツやファシリテーションを学んでいただく講座です。4年間で1,000名ほどの方々に受講いただきましたが、各地で自分らしいカフェを立ち上げる方々も生まれています。2020年にオンラインのkaigoカフェファシリテーター講座も初めて開催しましたが、今後も継続して開催していけたらと思っています。

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