2021年7月27日更新
シリーズ:介護現場で使える!コミュニケーション術(全5回)
【最終回】認知症のある方へ提供するレクリエーションの役割と可能性
著者プロフィール/尾渡順子(おわたり・じゅんこ)
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士、介護教員資格等を取得。介護技術や認知症介護、コミュニケーションに関する研修講師も務める。
2014年、アメリカ・オレゴン州のポートランドコミュニティカレッジにて、アクティビティディレクター資格を取得する。2018年4月より医療法人中村会 老健あさひなに勤務し認知症介護レクリエーション実践研究会を立ち上げる。現場において高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、介護従事者に「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方で、介護情報誌やメディアにおいて執筆などを手掛けている。著作として「みんなで楽しめる高齢者の年中行事&レクリエーション」(ナツメ社)、「おはよう21増刊号 楽しい!盛り上がるレクリエーション大百科」(中央法規出版)、「介護現場で使えるコミュニケーション便利帖」(翔泳社)、「介護で使える言葉がけシーン別実例250」(つちや書店/滋慶出版)、「笑わせてなんぼのポジティブレクリエーション」(日総研)、「DVDレク担さん必見!もう悩まない 笑顔を引き出す介護レク入門」(BABジャパン)、「認知症の人もいっしょにできる高齢者レクリエーション」(講談社)などがある。
こんにちは。本連載も5回目になり、今回が最終回となりました。介護現場で働く皆さんに、一つでも多くご利用者様から笑顔を引きだしていただくため、さまざまな工夫をお伝えしてきましたが、最終回は「認知症のある方へのレクリエーション」と題して、皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。
重要視される認知症の知識
介護現場で働く介護職の皆さんは、研修や資格試験勉強等などで「認知症」について学んでいらっしゃると思います。介護福祉士国家資格取得のための実務者研修450時間のうち、「認知症の理解」は独立した科目として30時間も授業時間が割かれることになっていますし、施設介護をされている皆さんは、施設の中に、認知症を抱えていらっしゃる方の数の多さを実感し、悩みながら試行錯誤でケアをされているのではないでしょうか。そして日常生活を見守り、ケアされている皆さんなら「認知症があるから何もできないわけではない」ということもご存知だと思います。
認知症にはいろいろなタイプがあり、それは「発症してからの期間」「障害を受けた部位」によって「できること」「できないこと」が異なります。障害の他に、その方の置かれている環境(ケアをする介護者も人的環境に含まれます)や、その方の積み上げてきた人生歴、元々の性格などが相互に影響し合った結果、その方が落ち着いて生活できるか否かが決まることも多いのです。認知症があっても穏やかに落ち着いている方もいらっしゃいますし、自分の置かれている状況が受け入れられず不穏になっている方もたくさんいらっしゃることでしょう。
初期評価を間違えると、認知症のある方が混乱したり、認知症が進んでしまったりと、逆効果による悲劇も生まれてしまうのです。アセスメントの重要性は言うまでもありませんが、「その人らしさ」を尊重した上で認知症の方々への関わり方を学ばなければなりません。
今回は認知症の方への3つの関わりについて学んでみましょう。
認知症の方への3つの関わり
認知症のある方が穏やかに、かつ安心して生活をしていただくためには、3つの関わりがあると言われています。
1.薬物療法
2.非薬物療法
3.ケア
1番の「薬物療法」については医療職が中心となり薬物を処方するのですが、薬には副作用がある場合がありますから、介護職も状態変化を追う必要があります。「薬は効かない」「逆効果の場合もある」などの声が現場から聞かれますが、単に否定するのではなく、「薬物療法」も非薬物療法やケアと併せてご利用者様を支える車の両輪であることを認識することが大事です。
3番の「ケア」は、我々介護職が最も期待される分野です。認知症のあるご利用者様は記憶障害や見当識障害などで「自分の置かれている状況」がわからず不安になっている方が多いのです。その方たちへの言葉がけ一つで、その後のご利用者様の表情も変わってきます。また環境を整備し、安心できる生活を提供すること、具体的には日常生活動作の介助や馴染みの関係づくりなど、生活を整える「ケア」が認知症のある方たちを支える大きな柱となるわけです。この連載でもお伝えしたように「大丈夫ですよ」「一緒にやりましょうね」「お困りのことがありますか?」などのちょっとした言葉がけが、ご利用者様を安心させることにつながります。
さて、2番目の「非薬物療法」とはどんなものでしょうか。非薬物療法とは、薬を使わずに、活動や運動を通して脳を活性化し、残っている認知機能や生活能力を高める治療法です。回想法、運動療法、音楽療法などがありますが、その一つにレクリエーション療法があります。認知症が進むと周りが「何もしなくて良い」状況を作ってしまいがちです。何もすることがなくなると認知機能はさらに低下していきます。そこで、レクリエーションを行うことで、役割や出番を作り出し、自己肯定感を高め、各人の存在感を再確認してもらうことにより、認知症の症状を軽減し、進行を遅らせようとするものです。
レクリエーションでは、昔の思い出や興味関心のあること、得意だったことなどを題材に取り上げるので、楽しく取り組むことができます。いつもなら長時間座っていられない方でも、集中してレクリエーションに参加できるようになります。さらにグループで活動するため、他の参加者とコミュニケーションを取りながら、「事を成し遂げたとき」の達成感や満足感が肯定的感情につながり、精神的な安定をもたらします。
レクリエーションには魅力がいっぱい!その効果、意義は?
認知症の方へのレクリエーションは、ご本人の心と身体の両面に対してさまざまな効果をもたらす(または相互に作用する)ことから、大変意義のある取り組みと言えます。実際レクにはどのような効果が期待できるのか、具体的に見ていきましょう。
心への効果
1.とにかく楽しめる
やはりレクは楽しむもの。「ボールが転げただけで大笑い」「ハプニングに大興奮」「知らず知らずにしゃべっている」など、ご利用者様の明るい様子が見られたというスタッフ様も少なくはないでしょう。感情を出せて自分らしくいられるレク、好きなことに集中できるレクは、ストレス発散にも効果的です。
2.承認欲求が充たされる
自分の名前を呼んでもらったり、褒められたりして他者に認めてもらうことは、ご利用者様の承認欲求を充たすことにつながります。何かしらの役割が持てること、そして「自分にもできる」と感じることが、ご利用者様の自信にもつながります。
3.仲間ができる
集団レクなどで同じ場所・時間を共有することは、「周囲と関わりたい」というご利用者様の思いを実現できる機会と言えます。他者との関わりが孤独を解消するのです。また、レクゲームなどを通して生まれたチームの一体感や連帯感を味わえますし、同じ世代の方と思い出を共有することができます。
4.安心できる
レクは何かの試験や訓練ではありません。ご利用者様は肩肘張ることなく、気楽に参加することができます。失敗しても笑い飛ばせますし、偶然性をもたせた「じゃんけん」「サイコロ」「ビンゴ」など誰が勝つかわからないゲームであれば、ご利用者様同士の能力差を暴かずにすみます。
5.高揚感から意欲が向上する
誰かと競い合うタイプのレクは高揚感を生みます。また、クイズに挑戦するようなレクは知的好奇心をくすぐったり、「負けたくない」という意欲を向上させたりします。スポットライトを浴びれば適度な緊張感が生まれますし、社会性も保てるのです。仮に競って負けたり、うまくできなかったりしても、「もっと身体と頭を動かさなくちゃ」と生活を見直すきっかけにもなります。
身体への効果
1.体調がよくなる
体を動かしたり、考えたり、笑ったりすると、脳や身体の血流がよくなります。免疫力の向上、筋力低下の防止のほか、精神の安定に寄与します(BPSDを軽減する可能性もあるかもしれません)。
2.病気を予防する
体を動かすことは便秘予防や生活習慣病予防につながります。また、人と関わったり自分を認めてもらったりする体験は、うつ病予防にも寄与します。季節感のある話やゲームをすれば、見当識を促すことにもつながるでしょう。
3.生活のリズムを作る
適度な活動量と疲労感は、安眠や食欲向上につながり、ご利用者様の生活のリズムを作ることに寄与します。
4.生活動作に結びつく
ゲームで体を動かすこと(座位保持や立ち上がりなど)が、日常生活で必要な基本動作に結びつきます。
レクは絶対にやらなくちゃいけないの?
レクゲームは「絶対にやらなくてはならないもの」ではありません。むしろ、「参加したくない」という方は無理に参加させてはいけません。レクゲームでなくても楽しみはたくさん見つかります。その方の「自分らしさ」が出せる活動をお勧めしましょう。
「レクゲームはしない」事業所もたくさんあります。散歩や買い物、家事(炊事、洗濯、掃除)などがレクの代わりであり、ご利用者様が生き生きと活躍されるのなら、その人にとっては生き甲斐につながるはずです。ただ、「何もせず1日ボーっと過ごしている」状態はあまりお勧めできません。本人がそうしたいのならともかく、「ただ1日することがなくて座りきりだった」「今日は誰とも話をしなかった」「全く身体を動かさなかった」というのは、自分の身に置き換えても切ないことです。
また、男性はレクの時間を「ちーちーぱっぱ」と言って幼稚なものとして嫌う方が多いです。男性は囲碁や将棋、麻雀のような少人数で行うレクを好む傾向があります。仕事と趣味と遊びが兼ねそろった活動を好むとも言われます。
中には頼りにされると喜ぶ男性ご利用者様もいますから、「◯◯さん、社会科の先生でしたよね?今日はレクで歴史クイズをやるのですが、私、歴史が苦手で……。◯◯さんが参加してくださったら安心してレクの司会ができるんだけど……」などと頼りにしていることを伝えます。打ち合わせもしっかり行い、クイズの中ではコメントを求めたり詳しい説明をお願いしたり。「さすが◯◯さん!」と皆の見る目も変わってきますよね。
レクはみんなでわいわいやればいいの?
レクリエーションと聞くと「風船バレー」のようなわいわい集まって行うものを連想する方もいらっしゃるかもしれませんが、認知症をはじめ疾患のあるご利用者様に対しては、特に、慎重にレク内容を選ぶ必要があります。ここではレク内容を考える際に大切な3つのポイントをご紹介しましょう。
1.その方の疾患や病気の特性を知る
例えば、下記のような場合は必ず事前に医療職に相談する、または自身でカルテやフェイスシートなどを確認し、既往歴や疾患特性、リスクについて把握し、情報を共有するようにしましょう。病気が悪化したり、事故につながったり、できないことをさせてその方が自信を失ったりすることのないように気を付けます。
2.ご本人の人生歴などから、やりたいこと、やっていたことを知る
ご本人が昔やっていたこと、やりたいことを人生歴から紐解いてレク内容を考えることで、その方のレクに対する意欲を引き出すことができます。下記のような事柄からヒントを得られるでしょう。
ご本人のやっていたこと、やりたいことを知る方法として「興味・関心チェックシート」や「認知症高齢者の絵カード評価法」も有効です。「興味・関心チェックシート」は、料理や動物の世話などの生活行為を一覧にし、ご本人が興味のあるものにチェックを入れられるシートです。「認知症高齢者の絵カード評価法」は入浴や運転などの日常生活の作業を表した70枚の絵カードをご本人に「とても重要である」「あまり重要でない」「まったく重要でない」の3カテゴリーに分けてもらう方法になります。チェックシートや絵カードを通じて、ご本人からさまざまな話を聞くことができます。また、絵カード評価法についてはタブレット上で同様の作業ができるアプリケーションソフトウェアもあります。
3.ケアプランと紐づける
心身の自立や生活意欲の向上を促すために、ケアプランと紐付けて目標を設定することも大切です。先ほどご紹介したご本人の「やりたいこと」に該当する、または得意なことを活かせる、下記のような活動が一例として挙げられます。
さあこの状況、思いだしていただけませんか?本連載4回目の「ご利用者様を元気にする言葉がけ」でご紹介した、「ご利用者様ができそうなことリスト」に類するお仕事です。
レクには大きく3種類のタイプがある
レクリエーションは「みんなでワイワイするだけ」の取り組みではありません。1人で趣味に没頭するのも大事な「レク」ですし、誰かのためにボランティアをして感謝されるのも立派な「レク」です。レクには大きく3種類のタイプがあり、それぞれに異なる楽しみやよろこびがあります。
1.1人で没頭できる楽しみ
読書、音楽鑑賞、編み物、裁縫など「私が、して、楽しい」タイプのレク。
2.複数で協力する、競い合う楽しみ
集団レクゲーム、製作レク、スポーツなど「あなたと、(みんなと)一緒にするから、楽しい」タイプのレク。
3.第三者から認められる楽しみ
展覧会出展、合唱コンクール出場など「他の誰かから、褒められて、うれしい」タイプのレク。
このように、レクにはいろいろな形があるのです。集団でも個別でも、「その人らしさ」が発揮できるような「楽しみ」を見つけることに意義があるのです。
認知症のある人とのコミュニケーションで気を付けることは?
ここでは認知症の方とのコミュニケーションで気を付けたい事柄をご紹介します。レクリエーションで認知症のあるご利用者様に接する際にも役立つポイントです。
【話し方のポイント】
【聞き方のポイント】
【驚かせないためのポイント(重度認知症の方対象)】
【態度のポイント】
【不穏なときのポイント】
【信頼関係を築くためのポイント】
【理性や感情に障害が出たときのポイント】
認知症のある方へのレクリエーションの工夫
認知症が重度化すると、どうしても他者から管理される場面が多くなってしまいます。それは、ご本人の意思決定や選択の機会が少なくなっているということです。日常の些細なシーンでよいので、ご本人に選択肢を提供しましょう。レクを行うシーンでも同様です。例えば、ボールを使ったレクであれば「大きいボール、小さいボール、どちらがいいですか?」と尋ねるなど、小さなことでもその方に選んでいただく機会を増やしましょう。
認知症のレクゲームの工夫
認知症のある方を対象としたレクでは、以下に示す4つの事柄を工夫することが大切です。
1.バリエーションを広げる
認知症の方にとって難しいゲームを避ける工夫も大事ですが、単純すぎると集中力のないご利用者様は飽きてしまうかもしれません。ボールを使ったレクを例に挙げると、1巡目は「足で蹴る」、2巡目は「手で転がす」、3巡目は「ボールの大きさを変える」といったようにバリエーションを広げて飽きさせない工夫をします。
2.間延びさせない
レクの時間が長くなると、認知症のある方は飽きて歩き始めたり、疲れて寝てしまったりすることがあります。まずはご本人に他にしたいことがあるのか、体調が悪いのかを確認してください。「ただ飽きているだけ」だとすれば、レクゲームの進行に工夫が必要です。
例えば、2チーム対抗で行う「ボーリング」のレクゲームでは、2列向かい合わせにすると参加者が何度も移動しなくてはなりません。これでは時間がかかってしまいますが、円座になり、その中心にボーリングの的を置くと移動の必要がなく、進行がスムーズになります。
3.質問は具体的に
回答の余地が広い質問をしてしまうと、認知症のある方は答えに窮してしまうことがあります。なるべく質問は分かりやすく、その方にも具体的にイメージできるようにしましょう。
▼質問の例
×「子どもの頃、夏にはどんな遊びをしましたか?」
◯「小学生の頃、夏は海に行きましたか?」
4.クイズは団体戦で
「クイズ形式」のレクゲームをする場合は、個人ではなく団体戦(2チーム対抗など)にして、誰が回答してもよいルールにしましょう。答えが出てこないようならヒントを多く出して、ご利用者様が「あ!わかった!」「あ!思い出した!」となる瞬間をたくさん作るようにします。回答が間違っていたとき、ご本人が「恥をかいた」「バカだと思われたかも」などという思いをすることのないように工夫しましょう。
認知症の方への具体的なレクのアイデア
さあ、ここからは認知症の方も楽しんでいただける、具体的なレクのアイデアをご紹介します。一部、新型コロナウイルスの感染対策上、配慮が必要なものもありますが、認知症の方を対象としたレクを企画する際の参考にしてみてください。
1.昔、学校で習ったことなどをクイズにするレク
認知症があっても、昔、繰り返し学んだことなどは憶えていることが多いです。「自分もまだまだ憶えている」と自信を持っていただくためにも、「100点満点が取れるクイズ」は有効です。簡単な問題から始め、だんだん難易度を上げると盛り上がります。その際は、ヒントを出して正解が出やすいように工夫をします。
例えば、下記のようなゲームです。それぞれ20問ほどで設定するとよいでしょう。スタッフ様が前に出てご利用者様が回答する教室スタイルのレクは、ご利用者様同士が離れて座れば感染予防対策のレクにもなります。
【「魚へん」の漢字ゲーム】
鮭、鮎、鮪、鰯、鯛、鯨、鮫、鰹、鯵、鰆、鯰など、「魚へん」の漢字を当てるゲームです。
【対義語クイズ】
「上⇔下」「寒い⇔暑い」「強い⇔弱い」「運動⇔静止」「官軍⇔賊軍」「目的⇔手段」など、ある言葉の対義語を答えていただくゲームです。
【ことわざクイズ】
「犬も歩けば→棒に当たる」「頭隠して→尻隠さず」「案ずるより→産むが易し」など、ことわざを穴埋めで回答いただくゲームです。
2.競って楽しむレク
次は、参加者が互いに競い合う、ゲーム性を持ったレクをご紹介します。ご利用者様の高揚感を呼び起こし、みんなで盛り上がれるタイプのレクです。
【無人島ゲーム】
参加者が円座になり、中央の円を目がけて空き缶を蹴り入れ、チーム対抗で点数を競うゲームです。紐で二重の円を作り、中心を10点、その周囲を1点とします。各チームが交互に全員が終わるまで行い、1周したら途中経過を、2周したら最終結果を発表します。点数化するときはみんなで計算しましょう。これを1回戦として、2回戦目は「足で蹴る」のではなく「手で投げる」ルールに変えると、バリエーションを広げることができます。
【魚釣り】
海に見立てたブルーシートの上に、紙で作った魚を70匹ほど置いて、竹竿で釣るゲームです。釣った魚の数をその方が獲得した点数として競い合います。参加者は2人でペアになっていただき、1人は釣り役、1人は魚を預かる役になっていただきましょう。スタッフ様はブルーシートの上で、均等に魚が行き渡るように動きます。
釣り竿は、竹棒に紐を付けて、紐の先にカーテンレールのフックを取り付けます。魚にはモールを付けて、フックが引っかかるようにします。また、使用する魚は製作レクなどでご利用者様に作っていただきましょう。25cmほどの紙を2枚合わせて、中にシュレッダー紙などを入れると、魚らしい膨らみになります。魚以外のものを紛れ込ませると、より盛り上がります。
▼釣れるものの例
アジ、ヒラメ、イカ、タコ、マグロ、カニ、サメ、クジラ、ナマズ、長靴、人魚、たいやき、お金 など
3.競わずみんなで楽しむレク
上でご紹介したように、誰かと競うゲームは盛り上がりますが、いつも勝つ人が決まってしまったり、負けた人が自信を失ったりすることもあります。一方、偶然性を用いたゲーム(じゃんけん、サイコロ、ビンゴなど)は誰が勝つかわからず、能力差に関わらず楽しむことができます。ここでは勝ち負けにこだわらず、みんなでおしゃべりや歌を楽しむレクをご紹介しましょう。
【どっちが好き?】
フリップを2枚持ち、どちらが好きかご利用者様に尋ねます。挙手をして答えていただきますが、理由やこだわりを聞くととても盛り上がります。本音を聞けることもありますし、意外性を引き出すにも最適です。
▼質問の例
【サイコロで歌おう】
6面にキーワード(花、海、動物、地名、鳥、季節など)を書いたサイコロを用意します。それを参加者が順番に振り、出た目のキーワードが出てくる歌を歌います。最初の1小節だけでよいですし、簡単な歌ならみんなで歌っても楽しいです。例えば、「花」というキーワードが出たら『バラが咲いた』『からたちの花』『チューリップ』などが思い浮かぶでしょう。
もちろん、キーワードはオリジナルで作ってもよいです。また、キーワードを書いたサイコロを作らずとも、ホワイトボードに「1→花」などと書いても構いません。
4.口腔体操になるレク
高齢になると飲み込みが悪くなり、お茶でむせる方が多くなりますが、認知症の方は特に口腔機能低下が目立ちます。「上手に飲み込めずいつまでも食べ物をモグモグしている」「歯磨きで水を吐き出せず飲み込んでしまう」「食事でむせってしまう」「口が閉じられずよだれが出てしまう」などのご利用者様はいませんか?それは口腔機能低下の症状です。高齢者の死因の第3位とも言われる誤嚥性肺炎を予防するためにも、口腔ケア、口腔体操、口腔レクはとても重要な役割を持っています。
▼口腔体操
1.深呼吸をする
鼻から吸って口から吐きます。
2.正しい姿勢を取って首の体操を行う
首を前後、左右にぐるっと回します。
3.肩の体操をする
「息を吸って肩を上げ、ふーと吹きながら肩を落とす」動作を5回繰り返します。それから肩の外回し、内回しを5回ずつ行います。
4.舌の体操
下記の舌の体操を行います。
1)舌を出す(3回)
2)舌で右端左端をなめる(3回)
3)舌で唇を嘗め回す(3回)
5.手の体操
「両手を顔の前に出し、手のひらを顔に向け、その後返す」動作を5回行います。
6.パタカラ体操
「パ、タ、カ、ラ」という言葉をゆっくり5回、その後、素早く10回言います。
【吹いてスロット】
絵柄を描いたトイレットペーパー芯をサイコロに見立て、息を吹いて転がし、絵柄をそろえるゲームです。サイコロは、トイレットペーパー芯を四角の筒になるように折り目を付けます。それを半分に切り、4面に好きな絵柄を貼りましょう。
4人一組のグループをいくつか作り、最初に絵柄がそろったチームが勝ちになります。何度も息を吹くことによる呼吸機能の改善や、絵柄を判別することによる認知機能の改善が期待できます。
【吹いて風車】
ストローで息を吹き、テーブルの上に置いた風車を回すゲームです。どれだけ遠くの風車を回せるかで競い合います。吹くことで呼吸機能を改善したり、「どのように風を当てるか」を考えることで認知機能を改善したりするのがねらいです。
ご利用者様にはテーブルの端に座っていただき、40cmほど離した状態からスタート。風車が回ったら距離を遠ざけていきましょう。イラストのように、一定距離を置いてテーブルの上にテープを貼るとわかりやすいです(距離はご利用者様によって要調整)。風車は100円ショップなどで購入できます。それを空ボトルなどに挿して固定しましょう。
重度認知症のある人へのレク
重度認知症のある方の中には、自分の体調や想いを伝えることができず、苦しんでいる方がいらっしゃることを肝に銘じておきましょう。言葉による表現よりも、顔色や動作、体の傾き、覚醒状況、声の調子など、「いつもと違う」様子を観察することが求められます。「レクどころではない」方もたくさんいらっしゃるのです。まずは「痛い」「痒い」「つらい」という不快症状がないか観察して、つらいようなら「少し横になりませんか?」と言葉をかけてみましょう。
そして、重度認知症のある方にとても喜ばれるレクは「散歩」ではないでしょうか。季節の移ろいや自然の美しさを感じ、外の空気の匂いに癒されること、そういう時間をたくさん作って差し上げることが大事だと思います。
失語があって会話ができなくても歌が歌えるという方がいます。みんなで歌ったり、おしゃべりをしたりすることは、それだけで楽しい時間になると言えるでしょう。たとえ会話がつながらなくても「そうそう」と相槌を打ち、その方にとって懐かしい言葉(故郷の名前、お子さんの名前など)をたくさん出して差し上げましょう。きっと顔がパッと明るくなるはずです。
集団レクに馴染めなくても、見学しているだけでも楽しいと感じている方はいます。みんながわいわい笑っているその中にいる、笑いに囲まれている自分を感じることは、とても大事なことです。
話は変わりますが、重度認知症のある方が、何もできずずっと座りっきりという場面を施設ではよく目にします。そうした中に、ときどき布を縫うような仕草や、自分の服をいじっている方の姿を見かけませんか? 女性の高齢者は昔、縫物や編み物をしていた方が多く、記憶が失われても、指が布をいじるような仕草を覚えていたり、布を触ると安心したりすることがあるようです。
そこで「布あそびん©」という遊具を作ってみました。タオルに包帯を縫い付け、それを巻いていただいたり、紐を3本垂らして三つ編みを作っていただいたりできる遊具です。下の写真では包帯が1本ですが、3本ほど縫い付けたものだと30分ほど集中して遊んでいらっしゃる方もおり、とても器用に巻いていました。よろしかったら皆さまの施設でも試してみてください。
以上、5回にわたる「介護現場で使える!コミュニケーション術」、いかがでしたか?
誰でも、知らない場所に1人、「どうしてここにいるのか」わからない(忘れてしまう)状態であれば不安になってしまいますよね。自分の身に置き換えてみれば、その切なさがわかるはずです。一度立ち止まって「今、私が発した言葉、もし何もわからない自分が言われたらどんな気持ちになるだろう?」と考えてください。
また、本シリーズの第4回では「ありがとうのシャワーをたくさん利用者様にふりかけてください」というメッセージを送りました。「何もできないわけではない」「実は何かしたいけれど1人ではできない」、そうしたご利用者様に、たくさんの「レクリエーション」「楽しみ」「生き甲斐」をプレゼントしてくださいね。
あなたの関わるご利用者様と、あなた自身に、素敵な時間が流れますように!
編集:花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部
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