2022年3月29日更新
看取りケアでアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の実践を
~ご利用者様のための意思決定支援法~
監修者プロフィール/大城 京子(おおしろ・きょうこ)
㈱Old-rookie 快護相談所 和び咲び 副所長
主任介護支援専門員
2000年愛知総合看護福祉専門学校(現 専門学校愛知保健看護大学校)卒業後、老人保健施設勤務、デイサービス管理者を経て、2013年より、居宅介護支援事業所の管理者を務める。2019年より現職。ACPファシリテーター、ELC認定ファシリテーター、iACPもしバナマイスター。2016年より、国立長寿医療研究センターの西川満則医師と共に、地域に向けたACP研修会や講演を行う。2020年より、研修会のプログラムを改変し、2か月に1度、オンラインでの「ACPiece研修会」を開催。著書に『ACP入門 人生会議の始め方ガイド』(共著)『生活の場で行うアドバンス・ケア・プランニング 介護現場の事例で学ぶ意思決定支援』(編者)がある。
介護報酬改定において看取りケアに関する内容が反映されるなど、介護施設では「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」などの内容に沿ったアドバンス・ケア・プランニング(ACP)への取り組みと、ご利用者様の意思を尊重したケアの重要度が高まっています。
そこで今回は、厚生労働省が示す「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に準拠し、大城京子氏監修のもと介護スタッフ様に求められている意思決定支援について解説します。
介護報酬改定における「看取りケア」
看取りケアについて令和3年度介護報酬改定では以下のように明記され、介護スタッフ様の支援がより一層求められることとなりました。
ご本人の意思を尊重したケア方針の決定や実施において鍵となるのが、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)です。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは?
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、ご本人を主体としてご家族やご友人、医療・ケアチームで繰り返し話し合い、本人を人として尊重した人生の最終段階における医療・ケアについて、意思決定をサポートする取り組みのことです。
ACPによってご本人が元気なうちに意思を知ることができれば、万が一意思表示ができなくなってしまっても、話し合った内容をもとに最期まで豊かにその人らしく生きることができます。また、ご本人の意思が確認できない場合に誰がご本人の意思を代弁するのか、という点についてもACPで事前に決めておくことができればよいでしょう。
ACPのプロセスで検討することは多岐にわたり、話し合いでは下記のような内容がテーマとなります。
ケアを担当する介護スタッフ様は日頃からご利用者様とコミュニケーションを取り、何気ない会話からご利用者様の価値観や考え方に触れています。そのため、いざというときにご利用者様に寄り添ったACPを行うためのサポートができます。
医療職が病状や治療についての情報提供や選択肢の説明をするのに対し、介護スタッフ様の役割は、療養においてどのようなケア体制で支えることができるかといった「命を支える」情報提供はもちろん、ご利用者様の価値観や考え方に関する「希望を支える」情報提供をすることです。
介護現場でのACPの取り組み事例
実際の介護現場ではどのようにACPを実践したらよいのでしょうか。京都包括ケア推進機構が公開しているご利用者様の事例をもとに、意思決定支援のイメージを膨らませてみましょう。
【事例1】Aさんの場合:最期を迎えるにあたってスピリチュアルケアのご提案
Aさんは、80代までは大きな病気もなく娘のサポートを受けながら家で生活していましたが、肺炎をきっかけに病院や老健施設への入退院を繰り返し、90歳で特別養護老人ホームに入居しました。
入居してから看取り期までの数年間は、山登りが趣味だったことから山へのドライブ企画に参加してもらうなど、入居前の生活スタイルを維持しました。体重が減り身体機能が低下して看取り期に入ると、生活行為の一つ一つの場面での自己決定を支援しながら「尊厳あるケア」を実施しました。
軽い肺炎症状や喀痰の増加などが見られるようになり看取りが近づくと、Aさん自身が最期を意識し始めたことで、人生の伴走者としてスピリチュアルケアを提案しました。
意思決定支援のプロセス
Aさんの場合、入所の段階から看取りケアの方針についてご家族に説明した上で話し合いを行っていました。
看取り期の一つの指標である体重減少が見られるようになり医師に報告しました。その後、ご家族と医師・看護師・介護スタッフなどで改めて面談をセッティングし、介護スタッフからご家族の思いを共有しました。
ACPを元に実施した看取りケア
看取り期に入ると、残された時間でご本人がしたいことを叶えるため、あらゆる生活行為においてAさんの意思決定を支援し、尊厳を守るケアを立案・実施しました。例えば、スタッフ様がAさんにやりたいことを確認したところ「一度家に帰りたい」という希望があったため、一時帰宅が叶うよう多職種で協働し病状にあった支援を行った、などです。また、「わしもそろそろやなあ」というAさんに対しお寺の住職と話してみることをアイデアとして伝えるなど、最期の迎え方についてスピリチュアルケア(*1)を意識したサポートも実施しました。Aさんは家族に見守られながら静かに息を引き取られ、ご家族とともにエンゼルケア(*2)を行いました。また、ご家族が知らない施設でのAさんの様子について伝えるなど、ご家族のグリーフケア(*3)も実施しました。
【事例2】Bさんの場合:嚥下状態に合わせた食事介助で最期まで美味しく
認知症を患っているBさんは入所した当時は要介護度3で、食べることが大好きで、歯がなくてもしっかり咀嚼し、いつもきれいに食事をされていました。
体力の低下が確認されるようになり、嘔吐と下血で緊急入院し、足先部が壊死になり、切断という選択肢もありました。しかしご家族の「痛い思いをさせたくない」「最期は住み慣れた施設で」といった意向から足先部の切断はせず、施設でのターミナルケアを行うこととなりました。
意思決定支援のプロセス
Bさんの事例の場合、ご逝去されるまでの約1ヶ月間で3回の会議を実施しました。ご本人の意思を確認することが難しい状況であったことから、ご家族と介護スタッフ様、医師、看護師、管理栄養士などが参加しました。各会議では、「Bさんの事前の意思を叶えるためにはどうしたらよいか 」という観点で話が進められました。
ACPを元に実施した看取りケア
会議で話し合われたことをもとに、Bさんの好物であるおはぎを当時の嚥下状態に合わせてミキサー粥ゼリーを用いておはぎを作り毎日夕食につけるようにしたり、食事中に呼吸がしやすいように介護スタッフと看護師、作業療法士で相談して体位やクッションの当て方を工夫したりしました。
意思決定支援のポイント
上記の事例では、それぞれ以下のような看取りケアが行われました。
事例からも読み取れるように、介護施設における意思決定支援においては以下のようなポイントを抑えることが大切です。
定期的に話し合いの場を設ける
ご利用者様の意思に沿ったケアを行うためには、ご本人やご家族、介護スタッフ、医師、看護師などが定期的に集まり話し合いの場を設けることが重要になります。病気の進行具合や時間の経過によって、ご本人の意思やご家族の意向が変わることがあるためです。
ご本人やご家族の意思に沿えるよう多職種で連携する
「病状が悪くても最期は住み慣れた施設で過ごしたい」「できるだけ口からの食事を続けたい」といったご本人の意思を尊重しご家族の気持ちを支えるためには、医師や看護師、管理栄養士、作業療法士といった専門家の協力が必要になります。そのため、職種の垣根を超えた施設内での連携が求められます。
ご本人やご家族と、医師・看護師・管理栄養士などとの仲介役になる
介護スタッフ様は施設関係者の中でご本人やご家族と最も近い存在と言えます。日頃からコミュニケーションを取る中で見聞きした介護スタッフ様しか知らない情報もあります。これらの情報は、医師や看護師、管理栄養士など看取りケアの方針を考える上で「その人らしい最期の過ごし方」を実現するために重要となります。
例えば医療の観点からは適切とされることも、ご利用者様の根本の価値観と合わないことがあります。その際に、介護スタッフ様から「〇〇様は普段こういうことを言っている」「××は苦手ですが、△△なら喜んでくれるかも」といった情報や折衷案を提供することで、ご利用者様個々人に合った看取りケアを実現することが可能になります。
ご利用者様の意思を尊重した意思決定支援を行うために…
ご利用者様がどのような最期を迎えたいのかを知るためには、日常のコミュニケーションの中から利用者様への理解を深めることが大切です。面会にきたご家族やご友人などからもお話を伺うようにしましょう。
ただし、人によっては知られたくないことや触れられたくないことがありますので、一方的に詮索しないよう注意が必要です。
参考:
日本老年医学会「ACP推進に関する提言」
京都地域包括ケア推進機構「看取り支援施設ガイドブック」
公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団「在宅患者さんのスピリチュアル・ケア」
聖隷淡路病院「おのころ通信 第141号」
日本グリーフケア協会「グリーフケアとは」
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