2025年2月25日更新
デイサービスにおける感染対策のポイントは?感染対策の専門家が解説
著者プロフィール/四宮 聡(しのみや・さとし)
箕面市立病院 感染制御部 副部長
感染管理認定看護師
箕面市立病院で手術室勤務後、感染管理認定看護師の資格を取得。その後、チーム医療推進部に異動。2013年に東京医療保健大学大学院感染制御学修士課程を修了。
2012年より地域の病院へ訪問支援を開始し、その後、高齢者・障害者施設へ対象を拡大。COVID-19パンデミックでは、のべ100施設以上を訪問し、感染対策を支援してきた。
現在は、行政と協力して箕面市内の高齢者・障害者施設を対象とし、感染対策リーダー育成事業を展開し人材育成に注力している。モットーは、「感染対策をみんなのものに」。
著書に「介護施設のためのできる!感染対策改訂版」(リーダムハウス)などがある。
デイサービス(通所介護)の利用者はご自宅と施設を往復するだけでなく、活動範囲も入所型の施設利用者に比べると広いです。そのため施設には入所施設と同様の感染症対策が必要となるばかりか、デイサービス特有の対策も求められます。
そこで今回は、デイサービスにおける効果的な感染対策のポイントを紹介します。
デイサービスの特性と感染リスク
デイサービスでは、利用者同士が長期間接触することがないため、感染が拡大するリスクは低いと考えがちです。しかし、自宅と施設の往来が多いことは、地域で感染症に遭遇し、り患する恐れを高めることにつながります。また、施設には感染症を早期に発見する設備も体制もないため、知らない間に感染症にり患した利用者が周りにうつしてしまうことも想定されます。そのため、デイサービスであっても感染拡大を防ぐための対策を取っておく必要があります。
デイサービス施設の感染対策に関する課題
デイサービスでは複数の利用者に対して、レクリエーション、リハビリ、食事、入浴介助などを行うため、業務の効率性が求められるでしょう。この「効率」がクセモノで、感染対策を省いて効率を追求してしまうと、時に感染症の拡大にとって好都合な条件が重なってしまうことがあります。入所介護施設を併設している場合は、デイサービスとの間で使用する設備・エリアが重なることがあるため、入所施設利用者とデイサービス利用者の動線を区別することが困難です。入所施設への感染拡大は集団感染・クラスターの発生につながりやすく、“持ち込まない対策”が大切ですが、構造的な困難さがあります。
デイサービスにおける感染対策のポイント
感染症は、菌やウイルスとヒトが出会うことで起こります。前項でも触れましたが、デイサービス利用者は活動範囲や接する人も多様なため、感染症にり患する恐れが入所施設利用者よりも高いと言えます。
仮に感染症にかかっていたとしても、症状が出て早期の場合や、検査の特性から陰性を示すことも少なくありません。新型コロナウイルス感染症では、検査を複数回実施して初めて陽性を示すということを経験された方も多いと思います。家庭内の健康状態や基礎疾患による感染リスクも考えながら、「普段の様子」をものさしにして、変化をキャッチすることが必要です。
送迎時の感染対策
送迎車に乗る前に、利用者・ご家族や職員がご本人の体温を計測することは、体調不良を早期に発見するのに役立ちます。例えば、体温計が37.5度と示した場合に、平熱を把握していることで発熱かどうかの判断が分かれる可能性が考えられます。また、地域で感染症が流行している時には、送迎車内での消毒と換気(窓を開けるなど)が効果的です。特に、換気は事業所のルールにして、スタッフの判断に委ねないように注意しましょう。
乗降時の手指消毒や送迎後に利用者の接触頻度が高い場所(手すりなど)を消毒することも、事業所のルールとして定めておくことが重要です。「通常時」「感染症が地域で流行している間」「利用者の中で感染症り患者が出た場合」など、状況に応じてどう対応するかあらかじめ決めておきましょう。
乗車中に体調不良で嘔吐することもあるでしょう。ほとんどの嘔吐は、感染症以外が原因と考えられますが、それでも感染性胃腸炎の場合を想定しておくことが大切です。対策としては、1回分の嘔吐物処理セットを車内に保管しておきます。その際、次亜塩素酸ナトリウムは濃度が低下しやすいため注意が必要です。また、嘔吐したその場で希釈するのは実際的ではありません。例えば、濃度が適切に管理された製品やキットが便利ですが、難しい場合は、希釈する水を規定量入れておき、新しい次亜塩素酸ナトリウムだけ乗車のたびに持ち込むなど、運用面とコストのバランスから選択するとよいでしょう。
手指衛生と衛生管理の徹底
すべての感染対策に共通するのが手指衛生です。手指衛生は、手洗いと手指消毒のどちらかを行うことを指します。その機会は、汚染物との接触頻度に比例するため、事務職と介護職の回数には雲泥の差があります。手指衛生は触ってうつるすべての感染症に有効ですが、必要な回数の多さをまず認識しましょう。スタッフは以下のポイントを習得しておく必要があります。
個人防護具(PPE)の使い方にも注意
個人防護具はさまざまな感染症からスタッフ、利用者をお互いに守るために必要な道具です。しかし、使い方によっては感染症をうつす危険を高めるため注意しましょう。
【良くない例】
・手袋をつけたまま作業を続けている
・マスクをしているが鼻が出ている
・手袋の上から消毒をしている
・「怖いから」というだけでキャップをかぶる/シューカバーをはく
なぜ個人防護具を着けるのかを知識として習得することが、外すタイミングや誤使用を避ける近道です。施設内でこれらについて定期的にチェックするとよいでしょう。新型コロナウイルス感染症でさまざまな個人防護具を利用しましたが、「着ける(着衣)」「外す(脱衣)」を区別してポイントを押さえた個人防護具の利用が必要です。
個人防護具の使い方について練習を行う場合のポイントは以下の通りです。
・順番を意識して行う(特に手袋は最後に着けて、最初に外す)
・手指衛生をセットにして行う
・普段通りのスピードで行う
・(もしあれば)蛍光塗料を使って汚れを見える化して練習する
感染症に対応できる組織づくりも重要
職員の教育と研修
感染対策を過不足なく行うことは思った以上に難しいものです。作業衣のむやみな消毒や個人防護具の二重使用といった「やりすぎ」の感染対策と、手指衛生の不徹底や換気の失念は、感染対策の不足につながります。これらの解決には事業所全体の対応が求められます。感染対策は筋トレと同じです。見ているだけでは筋肉はつきません。感染対策も同様に「知っている」だけではできるようになりません。定期的な訓練(研修)が不可欠と心得ましょう。
感染症の早期発見と報告体制
高齢者は、「なんとなく元気がない」「食欲がない」「体がだるい」といった症状から感染症が隠れていることは少なくありません。家庭での様子と来所時の観察を通して、利用者ごとの特徴を把握しておくことが感染症の早期発見につながります。
また、「いつもと違う」という情報をスタッフ間で把握し、共有する仕組みも大切です。スタッフ個人ではなく、チーム内で共有することで、他の利用者にも注意を向けることができ、利用者家族等へ注意喚起をするきっかけを得ることができます。
外部機関にも協力を仰ぐ
新型コロナウイルス感染症により、感染症の流行は地域のリスクであることが認識されるようになりました。事業所で発生した感染症は、地域に広がる可能性があるため早期の終息は誰にとってもありがたいものです。近隣の病院や施設に感染対策担当者が在籍している場合は、積極的に協力を仰ぎましょう。近隣に専門家がいない場合でも、保健所に相談・報告することで、紹介してもらえる場合もあります。そのためには、顔の見える関係であることが相談・協力依頼のハードルを下げてくれます。関係づくりのきっかけは、感染対策担当者や保健所主催の研修会に参加する、事業所の研修を依頼することなどが考えられます。困ったときのために、今から関係づくりを始めてはいかがでしょうか。
まとめ
デイサービスで行うべき感染対策についてご紹介しました。一つずつの感染対策は難しくありません。しかし、「いつ」「だれが」「どのタイミングで」「どんなふうに」進めるかを考えると、さまざまな課題が見つかると思います。地域の高齢者を感染症から守るためには、皆さんの取り組みがとても大切です。ぜひ、地域の感染対策担当者とつながり、感染症に強い事業所づくりを目指していただきたいと思います。
感染対策に役立つ資料をご用意しています。ダウンロードして、ぜひお役立てください。
メールマガジンにご登録いただくと、
コラムの更新をいち早くお知らせいたします!
営業時間 / 9:00~12:00、13:00~16:00
(土・日・祝日・年末年始・夏季休暇を除く)
ご返信できますようお客様の氏名、
電話番号、ファクシミリ番号をご記入ください
お電話の混雑状況によって、つながりにくい場合がございますので、
メールによるお問い合わせも併せてご利用ください。
ご不便とご迷惑をおかけいたしますが、ご理解賜りますようお願い申し上げます。
製品の誤飲・誤食、製品が目に入ったなど、緊急の場合は、すぐ医療機関にご相談ください。
また、製品サポート・Q&Aもご参照ください。