飲食店を開業すると、ほぼ必ず人を雇うことになります。人を雇う際には、たとえアルバイトであっても「労働条件通知書」を用いて労働条件を明示することが必要です。
例えば顔なじみの学生Aさんに、「Aさん、今度飲食店をオープンするから週3日くらい手伝ってよ。時給は1,000円以上出すからさ。ご飯も無料で食べさせてあげるよ。」などと口約束だけで店舗で働き始めてもらってはいけない、ということです。
労働基準法第15条には、『使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。』と規定されています。この場合において、賃金および労働時間に関する事項など、厚生労働省令で定める事項(以下(1.)から(5.))については、書面の交付により明示しなければなりません。
たとえアルバイトであっても、使用者と労働者が「労働契約」を結ぶことになりますので、「何月何日から何月何日までの間に働いてもらう契約なのか。勤務時間は何時から何時までで、休憩時間はどれだけなのか、時給はいくらなのか」などを明示しないといけないということです。
労働条件通知書のひな形は厚生労働省のWEBサイトからダウンロードできるので、ご活用ください。空白になっている欄に数字を入れていけば良いので使いやすいと思います。
労働者(店舗スタッフ)と使用者(店舗経営者)との間で起こりがちなのが、「休憩なしで1日に10時間も働いたのに、その分の時給が支払われず、もちろん割増残業代もついていない。」などの給与面のトラブルと、「3週間働いたら、もう明日からは来なくて良いと一方的に首を切られた。」などの契約期間に関するトラブルでしょう。
前者は「何時間に一度、何分の休憩を与えるのか」「残業手当は時給の何%増しなのか」などを労働契約締結時に明示していなかったことが問題です。そもそも労働基準法第34条で、労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない、と定めていますので、休憩なしで10時間以上労働をさせ続けたということ自体が大きな問題です。
後者には、いわゆる「試用期間」に関する誤解がしばしば見られます。「勤務開始から3ヶ月以内は試用期間なので、使用者は労働者を自由に辞めさせることができる。」というように認識されている方がいるかもしれませんが、これは誤った認識です。
例えば、「このスタッフには3ヶ月間働いてもらった上で継続雇用するかどうかを判断したい。」という場合には、労働契約締結時に労働条件通知書に「契約期間の定めあり」として、期間を明記しておくと良いでしょう。「契約の更新の有無」を有りにしておき、3ヶ月経過時点で能力が足りないと使用者側が判断すれば契約終了、能力ありと考えれば契約更新、とすれば良いのです。
「3ヶ月間働いてもらった時点で継続雇用するかどうかを判断する。」ということを労働条件通知書により明示しないままスタッフを辞めさせるということは、解雇にあたるためできません。スタッフの解雇は、「客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認されうる場合のみ」許されます。スタッフの解雇にあたりこの客観的に合理的な理由を示すということはなかなかできません。仮に労働条件通知書に「3ヶ月間は試用期間」と書いてあったとしても、一方的にスタッフを解雇することはできないため、注意が必要です。
さらに労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、必ず就業規則を作成しなければなりません。これまで人を雇用したことが無い人からしてみると、「就業規則って、社員が何百人もいるような企業が作成するものじゃないの?自分が開業する小さな飲食店には必要ないのでは?」と思われるでしょうが、この認識は間違っています。
就業規則には、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、各事業場内でルールを定める場合に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります。
絶対的必要記載事項次のとおりです。
相対的必要記載事項には、
などがあります。詳しくは厚生労働省の「モデル就業規則」をご覧ください。
労働基準法第89条により就業規則については「常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、これを作成しまたは変更する場合に、所轄労働基準監督署長に届け出なければならない」とされています。常時10人以上のスタッフに働いてもらっている飲食店は、「うちは企業じゃないし飲食店だから就業規則なんて作らなくても良いだろう」という考えは捨てて、しっかりと就業規則を作成するようにしましょう。もちろん、就業規則を作成するだけでなく、全労働者(スタッフ)に就業規則を周知させることも必要です。
せっかく店舗で働いてくれるスタッフと後々揉めないためにも、労働契約締結時にまずしっかりと労働条件通知書を使って各種条件などを明示しておくことから始めましょう。
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