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コラム

2022年9月20日更新

慢性的な人手不足の解消につながるワークシェアリング 介護職の増加にも効果あり?

監修者 武藤高史氏のプロフィール画像

監修者プロフィール/武藤 高史(むとう・たかふみ)
カイテク株式会社 代表取締役
介護有資格者が空いた時間に働けるワークシェアリングサービス「カイスケ」を運営。
(サービス紹介ページ:https://caitech.co.jp/caisuke-lp/)
起業家である祖父が認知症になったことをきっかけに介護業界に関わり、業界で働く介護職の方々を支えたいという想いのもと起業に至る。

少子高齢化による労働人口の減少と高齢者の増加によって、介護の現場では人手不足の状況が続いています。これにより、介護サービスの質の低下や過重労働による離職者の増加などが発生し、介護業界では大きな課題となっています。
この課題を解消すべく、業務の一部を外部の介護ワーカーに委託する「ワークシェアリング」の活用が近年注目されています。

そこで今回は、これからの介護業界で広がるとみられているワークシェアリングとは何か、また活用のポイントなどを紹介します。

ワークシェアリングとは?介護業界で注目される理由

ワークシェアリングとは、今まで一人で担当していた業務を複数人で分け合うことを指す言葉です。ジョブシェアリングとも呼ばれており、ヨーロッパ圏では1980年代から導入されてきました。
介護業界では、業務を切り分けることで、多くの人材が参加しやすくすることとともに、一人当たりの負荷を下げ離職を防ぐことで、人手不足を解消する効果が期待されています。

介護業界でワークシェアリングが注目されている背景

介護業界は、高齢者の増加、労働人口の減少、介護人材の不足という3つの課題を抱えています。
超高齢化社会は今後も続く見通しで、介護を必要とする方は増加の一途をたどると予想されています。また、少子化によって働き手が不足し続けることによって、人手不足は深刻化していくとみられます。
さらに介護業界では、介護関係の資格を取得していても現場で働いていない方も多く、例えば介護福祉士の登録者数に対して、介護職に従事している方は約半数しかいないのが現状です。その理由として、ご利用者様の命を預かる責任の重さや出産・育児、家族の介護による離職、業務量の多さに対して給与が低いこと、また体力仕事が多く腰痛などで仕事を続けられなくなってしまうことなどが挙げられます。

介護人材の不足は介護業界において深刻な問題です。とはいえ、介護職員には高度な専門性が求められることから、どのような人材でも良いというわけではありません。24時間・365日、複雑多岐にわたるサービスを提供しなければならないため、一定のスキルを有する人材が必要です。これらの課題解決の有効な手段として、ワークシェアリングが注目されています。

ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングには次のようなメリットがあります。
 

  • 業務にあたる人数を増やし、スタッフ一人ひとりの労働にかかる負担や時間を軽減できる
  • 一人ひとりの労働時間を短くできる
  • スタッフは単一の業務を覚えれば良いため、人材育成にかかる時間を短縮できる
  • スタッフの病欠などにも備えられる
  • 安定した介護サービスの提供が可能になる
  • 土日・祝日など、シフトが埋まりにくい日の人材確保が可能になる
  • 慢性的な人材不足を解消できる

ワークシェアリングを利用して働く方は朝食介助、入浴介助、レクリエーションなど、シェアされた業務にだけ集中すれば良いため、自身が得意とする業務内容を提示している事業所を選択すると良いです。
病欠など急な欠員に備えられるのもワークシェアリングの利点です。何かあったときに気兼ねなく休める環境の提供は、定着率の向上につながります。施設側にとっても、ワークシェアリングの活用で安定した介護サービスを常時提供できるようになるメリットがあります。

ワークシェアリングの活用シーン

では、実際に自施設ではどのようにワークシェアリングを活用できるのでしょうか。ワークシェアリングの主な活用シーンを参考に検討してみましょう。

シフトに空きがあり、どのスタッフも対応できない

だれも対応できない日時が発生する際に利用する方法です。シフト表作成の段階など、事前にシフトに空きがあることが分かれば、ワークシェアリングサービスで募集をかけられます。その日時に働ける方からの応募があると、マッチング成立となります。

スタッフが退職して人手が足りない

退職者が出た際、次の人材を採用するまでの間にワークシェアリングサービスを活用して人手不足を補うことも可能です。退職者が行っていた業務を分割して募集したり、日時と業務時間を決めて募集することもできます。 
 
また、急な退職によって人員が減少したことにより人員配置体制加算が受けられなくなってしまうことがあります。ワークシェアリングは人員減少による損失もカバーすることができます。 

利用するサービスによってはスカウトによる雇用も可能です。ワークシェアリングサービスを通して良い人材が見つかった場合には、長期雇用を見込んで正規雇用を検討できます。このようなケースでは、採用したい人材の働きぶりや職場適性を見ながら雇用を検討できるのも利点です。定着率の向上、早期離職防止が見込めます。

繁忙期のみ既存のスタッフだけでは対応が難しい

通常は人手が足りている施設でも、週末やお盆、年末年始など短期入所の申し込みが増える繁忙期には人手が足りなくなることがあります。
 
このようなときは、ワークシェアリングサービスで人手が足りない日に働ける人を募集できます。派遣のように中長期的に契約する必要がなく、コスト削減にもつながります。

ワークシェアリング導入・活用のポイント

ワークシェアリングの導入にあたっては、料金や利用方法、サービス内容をご確認のうえ、ワークシェアリングサービスへの登録が必要となります。また、ワークシェアリングを活用する前に、働きやすい環境を整えておきましょう。施設側が行うべき事前準備と導入後の対応は以下の通りです。

現在の業務の把握とマニュアル化

スタッフが行っている業務を把握します。業務の種類、内容、かかっている時間を洗い出し、外部スタッフが対応できそうな業務、必要人数を明確化します。 業務フローを整理し、マニュアルも作成しましょう。業務の詳細や段取りなどは施設によって異なります。有資格者や経験者でも初めての施設では戸惑うことも多いため、施設なりの運用方法をマニュアル化して業務の円滑化を図ります。

受け入れ体制の構築

ワークシェアリングの実施前に、既存スタッフにワークシェアリングを導入すること、活用の際の注意点などについて説明を行い、受入体制を整えます。
ワークシェアリングを通して働く方は、業務範囲が狭く、労働にあたる時間も少ないため、既存スタッフや環境になじみにくいことがあります。短時間だけのスポット就労でも心地よく働いてもらうためには、既存スタッフの理解が重要です。

コストの可視化

ワークシェアリングを導入すると、労働者の増加から人件費が上がってしまうことがあります。ワークシェアリングを長期的に活用するのであれば、賃金や利用時間・頻度によるコストを計算して必要な費用を明確化しましょう。
また、導入後にはコストを可視化して、事前に計算していた費用と実際にかかった費用を比較しコストのかかりすぎにならないよう注意しましょう。

導入後にはワーカーからの評価をチェック

ワークシェアリングを導入後は、業務に携わったワーカーからワークシェアリングサービスを通して評価を受けられます。ここで受けられる評価には、施設の運営上非常に有用な意見が多くあります。 
 
ワーカーからの評価は必ず確認し、低評価を受けたときには改善点を洗い出して、改善への取り組みを行いましょう。より質の高いサービスの提供につなげられます。
 
高評価を受けたときには、現場のスタッフにフィードバックを行います。これにより、モチベーションの向上による職場環境の改善や、ケアの質の向上が期待できます。

ワークシェアリングがもたらす介護業界の将来

ワークシェアリングの導入により、多様な人材が介護業界で働ける環境を用意できます。例えば、介護職としてキャリアを積んでいた方が出産や育児、家族の介護によって働き続けることが難しくなってしまうケースが多々あります。そのような方も、ワークシェアリングに登録することで、生活にあわせた働き方が可能です。 
 
近年では介護現場における多様な働き方導入モデル事業を厚生労働省が推奨しており、その流れは今後より加速するとみられます。 
 
介護のスキルや資格、経験を持つ方が副業として他の施設をサポートしあう環境が構築され、さまざまな施設で働くことが当たり前になっていくでしょう。

まとめ

深刻な人手不足にある介護業界では、ワークシェアリングを用いた新たな労働体制の構築に期待が寄せられています。介護に特化したワークシェアリングサービスも生まれており、活用の拡大が見込まれます。
 
人手不足に悩む施設様は、通常の採用活動だけでなく、ワークシェアリングサービスを活用した人材確保に取り組んでみてはいかがでしょうか。


参考:
・内閣府 世界経済の潮流 2002年 春 - 世界に学ぶ-日本経済が直面する課題への教訓(税制改革、ワークシェアリング)「第2章 ワークシェアリングの成果―オランダ、ドイツ、フランス
・厚生労働省「ワークシェアリング導入促進に関する秘訣集 第3章 ワークシェアリング導入のための検討ガイド

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