2023年1月24日更新
介護施設が考えたい防犯対策の必要性と実施ポイント【チェックリストも紹介】
監修者プロフィール/新井 富美男(あらい・ふみお)
アルファセキュリティ株式会社 代表取締役。
セキュリティエキスパート「総合防犯設備士」として、NHKなどマスメディアの防犯対策番組への出演・監修や警察本部の防犯対策講習会等の講演を通し、社会のセキュリティ向上を目指して活動。福祉・医療施設の経営者・管理者等の皆様に最適な費用対効果に優れたオーダーメイドの総合的な防犯設備・セキュリティシステムの構築に実績。
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介護事業者としてあらゆるリスクを想定し、事業運営を継続するための対策は必要不可欠な事項と言えます。2021年の介護報酬改定において、介護事業者にはBCP(事業継続計画)の策定が義務付けられたため、事業者のみなさまは自然災害への対策を進めてはおられるかと思います。しかし防犯対策にはまだ改善の余地があるというケースは多いのではないでしょうか。
そこで今回は、介護施設における防犯対策の必要性と、防犯対策の実施ポイントを解説するとともに、防犯チェックリストをご紹介します。
介護施設における防犯対策の必要性
かねてより、介護施設においては防犯対策よりも火災や自然災害への対策が重視されてきた傾向があります。その背景には、火災については消防法が、自然災害については冒頭で記したようにBCP策定が義務付けられていますが、防犯設備については義務化されていないということが大きいと思われます。
併せて、施設管理者が目に見えないリスクを軽視する傾向があり、実際に何らかの犯罪被害にあってから防犯対策に着手する事例も多くあるようです。施設としては、「自施設で犯罪が起こるはずがない」と楽観視するのではなく、「もしかすると犯罪が起こるかもしれない」と考えて行動する必要があります。
特に2016年に発生した神奈川県相模原市の障がい者支援施設での死傷事件などを受け、介護施設における防犯対策の重要性はより高まっていると言えます。
大小さまざまな犯罪被害リスクを軽減するには、日頃からの防犯対策が重要です。施設マネジメントに必要な「ヒト・モノ・カネ・情報」を取り巻く犯罪リスクを把握し、それらに対して効果的な防犯対策を講じましょう。
自施設で防犯対策について考える際は、当事者意識の向上および関係者間の意思疎通を図るためにも、施設一丸となって考え、取り組むことが大切です。
ご利用者様をはじめ、スタッフ様・関係者の方々の安全・安心を守ることは、地域での社会的評価や利用希望者およびそのご家族などからの信頼の向上につながります。これらは経営の安定にも大きく寄与するものです。
不審者の侵入を未然に防ぐための対策
ご利用者様やスタッフ様の安全を脅かす事態が生じないようにするために、介護施設は施設への不審者の侵入を防ぐ対策を講じましょう。2016年に厚生労働省から発せられた「社会福祉施設等における防犯に係る安全の確保について(通知)」や、防犯対策の世界基準である「防犯環境設計」をもとに、具体的な防犯対策を構築することが重要です。
「防犯環境設計」とは、建物などの物理的環境の設計と、関係者や自治体などによる防犯活動をあわせて、犯罪が発生しにくい環境の形成を目指すための指標です。
これらをもとにした防犯対策として、以下のようなものが考えられます。
物理的環境(ハード面)での防犯対策の具体例
不審者の施設内・居室内への侵入を抑止する防犯設備の具体例は以下の通りです。
防犯活動(ソフト面)での防犯対策の具体例
不審者の侵入を抑止するための施設関係者の防犯意識の維持・向上、規則、体制構築等に関する項目の具体例は以下の通りです。
そのほか、年1回程度の防犯訓練の実施や、施設独自の「危機管理マニュアル」の作成・運用なども有効です。
発生してしまった際の対応
犯罪を未然に防ぐ対策と併せて、犯罪が発生してしまった際の対策も重要です。万が一、不審者が侵入してしまったときでも被害を最小限に抑えられるよう、ご利用者様やスタッフ様がどのような行動を取るべきかを明確化し、職員間で共有しておきましょう。
不審者の早期発見・確認、連絡体制
被害を最小限に抑えるためには、不審者を早期に発見することが重要です。早期発見のための体制や発見後の連絡体制を構築しておきます。
不審者を発見した際の対応例
人的被害の防止と対応
不審者が施設内に侵入した場合には、被害を防止するために次のような対応をとりましょう。
施設内に不審者が侵入した場合の対応例
負傷者への対応
緊急時には、担当者が施設内を回りご利用者様と職員全員の所在を確認し、負傷者がいないか情報収集を行います。所在を確認できないご利用者様等がいる場合、敷地外に避難している可能性もあるため周辺も確認しましょう。
負傷者が発生した場合は、負傷者に対する救護措置に加え、その他の負傷者がいないか、いる場合はどのような症状かを確認し、警察、消防、医療機関への連絡を行います。
役割と行動を体系化しておく
これらの対応を迅速かつ的確に実行するためには、犯罪が発生した際の役割と行動を体系化しておくことが重要です。これにより、情報が錯綜するのを防げます。
緊急時の役割分担を明らかにしておく
緊急時に誰が指揮をとるのか、職員は何をすべきかを明確化しておきます。緊急時の役割分担の実効性を維持・継続するためには権限を持つ役員をセキュリティ担当に据え、セキュリティ全般の管理を任せることが有効です。緊急時の役割には、次のようなものが考えられます。
施設によっては、上記以外の役割があることも考えられます。自施設の実態に合わせ、必要な役割を洗い出し担当者を決定しておきましょう。また、夜間に緊急事態が発生した場合の担当者も設定しておく必要があります。
緊急時の行動を体系化しておく
緊急時に慌てず行動できるよう、事前に緊急時の行動をフロー化するなどして体系化しておくことも大切です。
緊急時の対応フローの例
事後対策も必要
不審者が退去し危険が去った後も、施設として事後対策を講じる必要があります。
まずはどのような状況で何が起こったのか情報を整理して、関係各所やご利用者様のご家族に情報を共有し説明を行います。施設再開に向けては、ご利用者様やご家族の心のケアを行うことも大切です。もし被害者がいる場合は、ご家族などに迅速に連絡できるよう、スタッフ間で情報を共有します。
同じような事件が発生しないよう、再発防止策を講じることも重要です。対策本部を立ち上げ、事件発生時の状況や対応の経過を把握して、これまでの取り組みや対策を見直し、問題点を改善します。
防犯対策のチェックリスト
ここまでに紹介した防犯対策を自施設にて網羅できているか、チェックリストを用いて定期的に確認し、改善を図りましょう。次のチェックリストを自施設の現状に合わせて編集し、日々の防犯対策にご活用ください。
介護施設における防犯対策のチェックリスト
チェックリストで自施設の防犯対策について評価を行った後は、改善が必要な部分について施設全体で取り組み、防犯意識の向上を図りましょう。
防犯対策は利用者や家族、スタッフが安心するためにも必要
介護施設の防犯対策においては、施設全体で防犯への意識を持ち取り組むことが重要です。施設内での犯罪を防止し安全性を高めることが経営にもよい影響をもたらします。スタッフ様への防犯教育や安全のための体制の構築を図りましょう。
参考:
・厚生労働省「社会福祉施設等における防犯に係る安全の確保について(通知)」
・鳥取県福祉保健部「社会福祉施設における不審者侵入に対する危機管理対応について(参考指針)」
・福岡県保健医療介護部介護保険課「高齢者施設等における防犯マニュアル作成ガイドライン」
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