2023年4月18日更新
介護の現場ではなぜICT化が進まない?理由と解決方法を解説
監修者プロフィール/竹下 康平(たけした・こうへい)
1975年青森県生まれ。
株式会社ビーブリッド 代表取締役、日本福祉教育専門学校 非常勤講師、(一社)日本ケアテック協会 専務理事/事務局長、(一社)介護離職防止対策促進機構 理事、(公社)かながわ福祉サービス振興会 LIFE推進委員会 副委員長。
プログラマーやSE等を経て、2007年より介護業界でのICT関連業務に従事し、2010年ビーブリッド創業。
現在は同社主力事業の介護・福祉事業者向けICT活用支援サービス『ほむさぽ』(homesapo.com)を軸に、介護業務でのICT利活用と促進に幅広く努めている。
介護・福祉事業者向けICT講演回数は全国トップクラスで、(令和3年は71回)が示すように、介護業界のICTご意見番として、行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。
「介護福祉の現場に即したICT活用推進が私の役割」
ICT(Information and Communication Technology)導入による効率化はあらゆる業種・職種で求められており、介護の現場も例外ではありません。ICT導入が業務負担改善の一助となるよう期待されていますが、スムーズに進まないケースもあるようです。
今回は、介護の現場でICT化が必要な理由や導入が進まない2つの要因、そしてICT化を進める方法を紹介していきます。
介護現場でICT化が必要な理由
人手不足が深刻な介護現場では、業務の効率化や介護サービスのリソースを確保する上でICT化が急務です。
厚生労働省も介護現場のICT化を推奨しており、2019年からICT導入支援事業を実施しています。介護の現場では、行政に提出する文書、事業所間でのやりとりに必要な文書や利用者との間で必要な文書など、膨大な書類の作成と処理が必要です。ICT化によりそうした煩雑さを軽減することで、働きやすい環境を整えることができ、限られた人材を有効に活用することにつながります。
ICT化のメリット
■業務の効率化に貢献
例えば、タブレット端末を利用し、クラウドに記録を集約することが考えられます。従来、手作業で行われてきた支援計画や介護記録などに関する書類作成の負担を軽減することで、時間外労働の削減につながります。
端末に入力した情報は瞬時に共有できるため、職員間での情報共有が容易になり、適切なケアが可能になります。随時情報を共有することで余分なミーティングを減らし、引き継ぎの効率化も図れます。
■データ活用によるケアの質向上
LIFEにより収集・蓄積したビッグデータを活用・考察することで、エビデンスに基づく介護サービスが提供できるようになります。
例えば、リハビリの効果や栄養状態の記録を、同じような利用者の平均データと比較して総合的に判断し、リハビリの質の改善や、食事の提供量などにも反映できます。きめの細かいサービスが提供できるようになるため、ケアの質向上にも貢献できます。
■多職種のスムーズな連携
今後、地域包括ケアシステムが機能するためには、医療・介護・福祉分野での連携が必要になります。従来の電話やFAXでの煩雑なやり取りに代わってICTを活用することにより、各機関が随時情報を共有し、把握しやすくなります。例えば、介護記録や電子カルテ等の連携が進む事で、医療機関の受診記録や服薬の情報、介護サービス利用履歴などが共有され、介護の分野ではケアプラン等の作成に活かすことができます。医療機関では診断に活用されるようにもなります。
■情報共有の円滑化
施設内の情報共有を、ノートや付箋で行っている施設様も多いかと思いますが、情報共有ツールなどの活用によって記録が永続化され、検索性が上がり、写真や映像といった文字以外の情報の活用も可能になります。
さらに、情報共有のツールをシステム上の掲示板に変更することで、職員によって得られる情報に差が出たり、申し送りの時間が取れずに伝達ミスが発生してしまったりすることを防げます。
介護施設でICT化が進まない2つの要因と対策
導入コストが高い
ICT環境を整えるためには、施設内の通信環境整備費用や、端末の購入費用など、初期導入コストが高くなりがちです。また、通信機器には通信費用のほかに機器トラブルの際の修理費用などの維持費もかかります。
さらに新たな機器を導入する際には、現状で必要なコストの総額と、理想のICT化を進めた場合のコスト総額の比較が必要です。しかし、知識が不足しているために費用対効果、将来的な効果を測ることができず、導入コストの高さばかりに目を向けてしまいがちです。
【解決策】ICT導入支援事業を活用する
導入コストは、ICT導入支援事業による補助金を積極的に活用することで抑えられます。多くの場合、継続的な人件費と比較すると導入コストは低いため、総合的なコストを考慮することが重要です。
補助の対象となるのは、主にネットワーク機器やタブレット端末、介護ソフト、介護ロボットなどの購入費用です。自治体ごとに異なりますが、主に春から秋にかけて申請期間が設けられます。年に一度のみの募集がほとんどですので、タイミングを逃すことがないよう、補助金の情報はしっかりチェックしておきましょう。
詳しくは業務改善ナビのコラム「ICT導入支援事業を最大限活用して業務負担を軽減!導入効果や補助内容を解説」で紹介していますので、ご参照ください。
●導入後も定期的に見直す
すでにパソコンやタブレット端末、介護ソフトなどを導入している場合でも定期的にサービス内容やコストを見直しましょう。最新のICT関連機器は使いやすく改善されていますし、より安価なサービスが出現している可能性もあります。
職員のスキル・知識不足
実際にICT機器を使用する職員のスキルや抵抗感も障壁となる場合があります。全員が操作に慣れるまでには時間がかかり、ICT化についていけない職員が離職してしまうリスクもあります。
また、ICTや情報機器に知識のある職員が少ないため、せっかく最新のシステムを導入したとしても運用体制を構築できないケースもあります。加えて、製品の選定に必要な知識がないため、導入が進まない事情も考えられます。
慢性的に人手が不足している介護の現場では、現状維持が精一杯で、革新的なアクションが取りにくいという問題も想定できます。
【解決策01】職員の教育で意識を変える
介護施設においてスムーズにICT化を進めるためには、職員の教育が鍵となります。ICT関連のスキルの習得、情報管理に関する研修などを盛り込み、学習時間を確保することが重要です。また、「余計な業務が増える」という抵抗感を減らし、「業務効率を上げるために必要」だと職員に理解してもらうことも大切です。
職員間のICTスキル向上のために、必要に応じて外部講師やコンサルタントに依頼してスキルアップを図るのも効果的です。マウスやキーボードの使い方、タブレットの操作方法など、基礎的なところでつまずく職員がいる場合には、パソコンやタブレット端末に慣れている職員に依頼して、基礎的な勉強会を開くことも良いでしょう。ICT化により取り残される職員が出ないよう、配慮が必要です。
●個人情報の漏えい対策も行う
ICT機器は便利な反面、通信できる状態にあるため、慣れていない人が操作することで誤送信してしまうといったリスクがあります。介護の現場ではご利用者様の個人情報や介護記録も扱うため、端末に保存してある個人情報の保護・管理方法など、事業所内でガイドラインを定め、職員間で周知・共有する必要があります。個人情報の管理については「介護事業者として知っておくべき個人情報保護のポイント」も合わせてご覧ください。
【解決策02】使いやすい機器を選ぶ
タブレット型やスマートフォン型など、比較的多くの人が扱いに慣れている端末を導入すると抵抗感が薄れ、操作を早く覚えられます。導入は一気に行わず、職員が取り組みやすいものや、業務の効率化を実感しやすいものから導入を図ります。機器等に慣れる期間を設け、ICT化は難しいという先入観や抵抗感を取り除くことも大切です。
また、介護ソフトは機能が多すぎないものを選びましょう。施設により必要な機能は異なりますので、それぞれの施設で合っていると感じるソフトの見極めが重要です。選定に迷う際は外部コンサルタントを活用するのも一つの方法です。
職員の中に外国人がいる場合は、言語切り替えが可能なものや簡易翻訳機能がついたものを検討するなど、職員によって機器の活用に差が出ないよう配慮しましょう。
介護現場の業務改善にICTを活用しよう
今後、介護現場でのICT導入はさらに進んでいくことが予想されます。ICTを上手に活用している施設も参考にしながら、業務の効率化を図っていきましょう。
参考:
・厚生労働省「介護現場におけるICTの利用促進」
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