コラム

2018年11月28日更新

介護施設のためのノロウイルス対策~予防から対応まで~

毎年冬に流行し、嘔吐や下痢などの症状を引き起こすノロウイルス集団感染(アウトブレイク)のリスクが高いことから、地域の流行情報に敏感になっているスタッフ様も多いでしょう。感染拡大を防ぐためにはスタッフ様同士の情報共有はもちろん、ノロウイルス発生時に誰もが適切に対処できるよう、マニュアルを整備しておくなどの準備が必要です。介護施設における集団感染の事例と予防法・対処法についてご紹介します。

1.ノロウイルスのリスク

ノロウイルスは11月から翌年3月までの冬季を中心に流行する感染性胃腸炎の一種です。急な嘔吐・下痢・腹痛などが主な症状ですが、免疫力の低下したご高齢者様は重症化しやすく、嘔吐物を喉に詰まらせたり、誤嚥性肺炎を引き起こしたりして亡くなるおそれもあります。
基本的な感染経路は経口感染で、ウイルスに汚染された食品(二枚貝など)を生または十分に加熱せず食べることにより感染します。さらに、ウイルスの感染力が非常に強いことから接触感染のリスクもあります。実際、国立感染症研究所の報告では、ノロウイルスの感染経路のほとんどが「人から人への伝播の疑い」であるとされています。

ノロウイルスの集団感染の事例

ご高齢者様が多く生活する介護施設では、ノロウイルスが集団発生するリスクがあります。過去の事例から、感染原因や行政処分についてみてみましょう。

(1)介護老人保健施設で入所者・職員含め105名が発症した事例

2007年1月、青森県内の介護老人保健施設でノロウイルスによる集団感染が発覚。職員・入居者・通所者にまで感染が広まり、最終的に105名が発症した。

原因:施設の盛り付け用調理台からウイルスが検出されたが、その汚染経路は不明。入所者の手洗いが不十分であったことや、職員が嘔吐物処理の際に塩素系消毒薬を使用しなかったことも感染を拡大した一因と考えられる。

(2)ノロウイルスの集団感染と嘔吐物による窒息死の事例

2015年、東京都内の高齢者施設でノロウイルスの集団感染が発生。施設の調理場で作られた食事を食べた入居者のうち16名が、嘔吐や下痢などの症状を訴える。このうち男性1名が嘔吐物を気管に詰まらせて亡くなった。

原因:保健所の調査により、給食を原因とする食中毒と断定された。事業者は3日間に渡って食事の供給停止処分。

(3)ノロウイルス発生による営業停止処分の事例

2016年1月、大分県内の住宅型有料老人ホーム及び温泉付きホテルにおいて、ホテル利用者の2名が嘔吐・下痢の症状を訴える。その後ホテル利用者・施設入居者・職員総勢46名がノロウイルスを原因とする食中毒と診断された。
 
原因:保健所の調査により、厨房で調理を行った職員3名からノロウイルスが検出された。施設の厨房部分は3日間の営業停止処分。

これらの事例から、施設内での不適切な衛生管理がノロウイルスの感染を拡大させることが分ります。また、行政処分が下されると、施設の運営に多大な影響がでることが予想されます。アウトブレイクが発生した場合の損害については「集団感染による介護施設の損失額は?アウトブレイクがもたらす経営的リスク」でご紹介しておりますのでご覧ください。

2.ノロウイルスからご利用者様を守るために

ノロウイルスにはワクチンがないため、インフルエンザのように予防接種で防ぐことができません。また、治療法も水分補給や整腸剤の投与といった対症療法が主になります。体力の低下したご高齢者様は重症化する可能性が高いため、予防が何よりも肝心です。施設で実践できるノロウイルス予防法を紹介します。

手洗いの徹底

感染対策の基本は手洗いです。スタッフ様は「1ケア1手洗い」を原則として、食事介助の前や清掃後には必ず手洗いを行いましょう。ご利用者様にも外出後やトイレの後は必ず手を洗っていただくようにします。

<手洗いのポイント>

  1. 手洗いの際は流水で十分に手のひらをぬらす
  2. 石けんを泡立て、最低でも15秒は手のひらをこすり合わせる
  3. 流水で石けんを洗い流す。その後はペーパータオルで水分を拭き取る
  4. 蛇口を閉めるときはペーパータオルを用いて、蛇口からの接触感染を防ぐ

<消毒のポイント>

  1. 消毒は乾いた手で行う
  2. 手指消毒剤で手指全体を濡らす。このとき、15秒以内に乾かない十分な量を使用する
  3. 手指消毒剤が乾くまで手指表面全体に擦り込む

花王プロフェッショナル・サービス「業務改善ナビ」では「正しい手洗い方法ポスター」「正しい手指消毒方法ポスター」などのダウンロードコンテンツをご用意しております。手指衛生の啓発等にぜひご活用ください。
手洗い方法のポスターダウンロードはこちら
手指消毒方法のポスターダウンロードはこちら

ご家族様や施設を出入りする業者の方への注意喚起も必要

ノロウイルスが施設内で新たにに発生することはきわめて稀で、スタッフ様をはじめとしたご家族様、業者の方や通所サービスご利用者様などがウイルスを持ち込んでしまうことがほとんどです。
スタッフ様が施設に入る前には手指衛生を行うことはもちろん、外部からの訪問者には手洗い・うがいの徹底やマスクの着用をお願いし、ウイルスの持ち込みを防ぎましょう。
また、トイレは日ごろからスタッフ様用とご利用者様用を区別するべきですが、区別が難しければスタッフ様が使用する個室を決めるようにしましょう(ただし、調理を担当する方は必ず専用トイレを使用します)。

<ウイルス持ち込みを予防するための具体例>

  • 施設の入り口や受付には感染症に対する注意喚起のお知らせを掲示し、「体調が優れない来訪者の面会はご遠慮いただく」などの規則を設ける
  • ポスターなどを掲示し、面会前には必ず手洗いを行っていただくようお願いする
  • 食品の差し入れについてはご家族様からスタッフ様へ必ず報告していただき、誰が・いつ・何を食べたかという情報を共有する

ノロウイルス 啓発ポスターの例

3.施設でノロウイルスが発生したら

ノロウイルスは非常に強い感染力を持っており、10~100個程度のウイルスでも感染するリスクがあります。そしてノロウイルス感染者の糞便には1グラムあたり1億個、嘔吐物には100万個以上のウイルスが存在するとされていますので嘔吐物・排泄物からの二次感染を防ぐためにも、迅速かつ適切な処理が必要です。

次亜塩素酸ナトリウムを用いた環境の消毒

ノロウイルスは嘔吐物・排泄物だけでなく手すりやドアノブを介して感染する可能性があります。施設でノロウイルスが発生した場合は、二次感染を防ぐため環境の消毒が必須です。ノロウイルスはアルコールに対して抵抗力を持っているため、消毒には次亜塩素酸ナトリウムを下記の濃度に薄めて使用しましょう。

市販の次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素濃度は1%、6%、12%など製品によって異なるため、以下の計算式に従って必要な次亜塩素酸ナトリウムの量を導き出してください。

必要な次亜塩素酸ナトリウムの量(ml)作りたい消毒液の量(ml)×作りたい消毒液の濃度(%)÷原液の濃度(%)

例)有効塩素濃度が5%の次亜塩素酸ナトリウムを用いて、0.1%の濃度の消毒液を1000ml作りたい場合
・・・必要な原液の量(ml)1000ml×0.1%÷5%
=1000×0.001÷0.05
20ml

なお、希釈に用いる水は、不純物を含まない水道水などの水です。金属類が含まれた水や汚れた水は使用しないでください。
 
次亜塩素酸ナトリウムを希釈した液は、時間の経過とともに有効成分が分解し、消毒効果が薄れてしまいます。作り置きはせず、その都度新しい消毒液を作りましょう。

トイレを流すときの注意は?

ウイルスの拡散を防ぐため、ノロウイルスに感染したご利用者様の便は、トイレのふたを閉めて流します。手すりやドアノブにウイルスが付着している可能性もあるため、必ず次亜塩素酸ナトリウム(200ppm)で拭き取り消毒を行います。

嘔吐物が付着したリネン類や布団、カーペットはどうする?

嘔吐物・排泄物が付着した布製品に対しては80℃・10分以上の熱水消毒が推奨されています。ただし、熱水洗濯を行える洗濯機がない場合には、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が有効です。次亜塩素酸ナトリウムには漂白作用があるので、色柄物の消毒にはご注意ください。また、居室のカーテンやカーペット、布団などすぐに洗濯が難しい製品については、よく乾燥させ、スチームアイロンや布団乾燥機を使用することも有効です。洗面所など下洗いを行った場所は、必ず最後に次亜塩素酸ナトリウム(200ppm)で消毒を行ってください。
なお、嘔吐物処理のポイントについては「もうあわてない嘔吐物処理」もあわせてご覧ください。

感染したご利用者様への対応

ノロウイルスに感染したご利用者様は、必要に応じて別室に移動いただきます(可能な限り個室に移します)。その際はご利用者様やそのご家族様にきちんと説明を行い、理解を得ておきましょう。
そのほか、入浴の順番を最後にする、タオルの使い回しは控える、食器類は厨房に戻す前に次亜塩素酸ナトリウム液に浸し消毒するなどの配慮が必要です。
なお、ノロウイルスは症状回復後でも1週間程度、長い場合は1か月に渡って便からウイルスの排出が認められます。トイレ介助やおむつ交換を行う際は感染に十分留意してください。

スタッフ様が感染した場合の対応

下痢や嘔吐の症状があるスタッフ様は管理者に報告し、病院で適切な処置と検査を受けましょう。ノロウイルスに感染した職員を出勤停止とする法律はありませんが、「施設が大変なときに休めない」と無理に出勤すれば、ご利用者様がノロウイルスのリスクにさらされます。「高齢者介護施設の感染対策マニュアル」(厚生労働省)によれば「職員の感染者は症状が消失しても、3~5
日は就業制限したり、食品を扱う部署から外れたり、トイレの後の手洗いを入念にするなどの対策をした方がよいでしょう」とあります。感染予防の観点からも数日間は自宅で療養することが望ましいでしょう。

市町村・保健所への報告はいつ・誰が・どうやって?

下記のような場合には施設長は市町村などの社会福祉施設等主管部局に報告しなければなりません。

  • ア 同一の感染症若しくは食中毒による又はそれらによると疑われる死亡者又は重篤患者が1週間内に2名以上発生した場合
  • イ 同一の感染症若しくは食中毒の患者又はそれらが疑われる者が10名以上又は全利用者の半数以上発生した場合
  • ウ ア及びイに該当しない場合であっても、通常の発生動向を上回る感染症等の発生が疑われ、特に施設長が報告を必要と認めた場合

※(厚生労働省「社会福祉施設等における感染症発生時に係る報告について」平成17年2月22日 より抜粋)

主な報告内容は感染が疑われるご利用者様の人数や症状、施設で行った対応についてです。書類の様式は市町村によって異なるため、各市町村のホームページなどで確認してください。また、保健所への報告もあわせて行い、適切な対応について指示を仰ぎます。
感染予防では、地域の流行状況について情報収集を行い、ノロウイルスの感染に備える姿勢も大切です。各自治体のホームページなどで感染症情報を確認しましょう。

4.介護現場における感染対策

嘔吐物処理は迅速な対応が肝心です。嘔吐の発生など、いざというときにスタッフ様の誰もが適切に対処できるよう、ノロウイルス対策のマニュアルを作成し周知を図りましょう。花王プロフェッショナル・サービスでは介護施設様向けに、介護現場における感染対策をまとめた資料をご用意しております。マニュアル作成や勉強会の資料としてぜひご活用ください。

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