コラム

2022年1月21日更新

【専門家監修】突然の吐き気や嘔吐…原因は?対処法も解説

著者 泉学氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/泉 学(いずみ まなぶ)
済生会宇都宮病院 総合診療科兼超音波診断科 主任診療科長自治医科大学医学部卒業後、秋田大学医学部で医学博士を取得。自治医大臨床教授。専門医資格は、Fellow of American College of Physicians(FACP)、日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本超音波医学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医、日本プライマリケア認定医・指導医を有する。その他、ICLS(日本救急医学会認定救急蘇生トレーニングコース)ディレクター、JMECC(日本内科学会認定内科救急コース)ディレクターとして、救急医療及び教育に従事。

介護施設は医療職の人員配置が少ないことから、介護スタッフ様はご利用者様の健康を守る役割も担います。よって、病気を早期発見し悪化を防ぐには、介護スタッフ様がご利用者様の体調の変化に気づくと同時に、それを医療職に適切に伝達することが大切です。

そこで今回は、泉学氏監修のもと、体調変化のサインの中でも「吐き気」「嘔吐」にフォーカスをあて、原因や対応法を解説します。

吐き気・嘔吐の原因

嘔吐とは、本人の意思に関係なく胃が収縮して内容物が逆流し、体外に出されることを指します。吐き気は、その前段階の不快感です。吐き気や嘔吐は、様々な要因によって脳(脳幹)の嘔吐中枢が刺激されることで引き起こされます。この症状は乳児から成人まで誰にでも起こりえますが、ご高齢者様の場合には脳の病気による緊急性の高いものもあり、注意が必要です。

以下では、吐き気・嘔吐が引き起こされる原因を大きく5つに分類して解説します。

  • 感染症
  • 消化管の閉塞
  • 消化管の炎症
  • 消化管以外の臓器の病気
  • 薬の副作用

感染症

細菌やウイルスに感染すると感染性胃腸炎となり、消化器症状の一つとして吐き気・嘔吐が見られることがあります。また、寄生虫による感染症でも吐き気や嘔吐を引き起こすことがあります。高齢者が感染する可能性がある代表的な細菌・ウイルス・寄生虫は以下の5つです。

  • ノロウイルス
  • カンピロバクター
  • サルモネラ
  • 黄色ブドウ球菌
  • アニサキス

ノロウイルスは感染力が非常に強く、毎年のように医療・介護施設での集団感染が報告されおり、特に注意が必要です。カキに代表される二枚貝や魚介類を食べた後、1~2日後に嘔吐の症状が強く現れ、あわせて下痢や発熱を伴うこともあります。また、感染者の嘔吐物・便を介しての感染もあります。ほんのわずかなウイルス量でも感染してしまうため、どこから感染したかはっきりしないことも珍しくありません。アルコールが効きにくいため、ノロウイルス感染症またはそれが疑われる人のケアをした後には流水でしっかり手を洗う、手から口にウイルスが侵入しないよう顔を触らないなど意識する必要があります。
 
カンピロバクターによる感染症は、十分に加熱されていない鶏肉を食べた2~7日後に症状がみられることが多いです。

サルモネラによる感染症は、鶏卵とその加工品を加熱が不十分な状態で食べた12~48時間後に腹痛、下痢、嘔吐の症状が現れ、やや高い熱も一緒にみられることがあります。

黄色ブドウ球菌による感染症は、高温多湿の夏に多く発生します。おにぎりやお弁当など直接手で触れて料理するものが原因となりやすく、これらの食品を摂取後、30分から6時間以内に、激しい嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状が現れます。

アニサキスは2~3cmほどの寄生虫(線虫)で、アニサキスに寄生されたサバやサンマ、カツオなどの刺身や寿司を食すと数時間~十数時間後にみぞおちの激しい痛みや吐き気・嘔吐が引き起こされます。

消化管の閉塞

さまざまな原因によって口腔→食道→胃→十二指腸→小腸→大腸→直腸→肛門までの消化管の流れが滞る(閉塞される)と、吐き気や嘔吐が引き起こされることがあります。消化管の閉塞は以下のような原因で発生します。

  • 腸管が癒着(ゆちゃく)した
  • 食道がんや大腸がんに代表される消化管悪性腫瘍がある
  • 頑固な便秘である
  • 餅など食べ物が詰まった
  • 認知症などが原因で食べ物でない物を異食した

このような状態は腸閉塞(ちょうへいそく)と呼ばれ、腸閉塞のうち6割は開腹手術などの治癒過程に起こる腸管の癒着が原因です。癒着は腹腔(横隔膜から下部の腹壁で囲まれた空間)内に炎症が発生することで起こります。過去に回復手術を受けたことがある方や腹部に外傷を負ったことがある方、さらには胃潰瘍によって胃に穴が空いたことがある方は、その後全く症状がなかったとしても食べた物の影響などで腸閉塞を突然発症することがあります。

腸閉塞は便秘によって起こる場合もあります。便秘そのものは珍しい状態ではありませんが、これまで以上に出にくくなったりお腹が張るようになったりした場合には、大腸がんが原因で腸が詰まっている可能性があります。またご高齢者様の場合、腹圧が掛かりにくくなり食べる量も減ってしまうと、結果的に大腸内を大便が進まずに頑固な便秘となることもあります。

便秘は、大腸の粘膜に潰瘍を作って下血(肛門部からの出血)をきたしたり、大便が大腸を破いて腹腔内に漏れ出て重症の感染症(敗血症)を引き起こしたりと、命に関わることもあります。また、腸管のねじれや脱腸(足の付け根部分にある皮膚の下に腸や腸膜が飛び出てしまうこと)によって腸閉塞だけでなく腸管の血行障害も起こっている場合は、緊急の手術を要します。

排便習慣は個人差がありますが、おおよそ1週間に2回以上の排便がない場合には改善するためのアプローチが必要と考えられます。排便時にかなり息む方は、それだけで心筋梗塞や脳梗塞といった心血管の病気の原因ともなりますので、スムーズな排便は様々な面からも望まれます。

消化管の炎症

吐き気や嘔吐が起こる原因として、胃・十二指腸潰瘍や急性虫垂炎など消化管の炎症が関係している可能性も考えられます。

胃・十二指腸潰瘍は、胃酸などにより胃や十二指腸の粘膜に潰瘍ができた状態を指します。胃の粘膜は、胃酸などの「攻撃因子」と粘膜からの粘液などの「防御因子」のバランスによって守られています。しかし、心理的なストレスがあったり、ご高齢者様で膝や腰の痛み止めを継続内服していたりすると、このバランスが崩れて潰瘍ができてしまいます。

急性虫垂炎は子どもの病気として有名ですが、ご高齢者様にとっても起こりうる病気の一つです。虫垂の部分に細菌が侵入して炎症をきたしたり、糞石(固く、くっついた便)が虫垂内に入り閉塞したりすることで発症します。虫垂炎の症状としては右下腹部の痛みがありますが、初期症状としてみぞおちの痛みと吐き気・嘔吐がみられることもあります。ご高齢様の場合には典型的な経過をたどらない場合もありますので、経過を見ることが重要です。

消化管以外の臓器の病気

消化管以外の臓器が原因で高齢者の吐き気・嘔吐が起こるケースとしては、主に以下のような病気が考えられます。

  • 心筋梗塞
  • 脳梗塞
  • 良性発作性頭位めまい症
  • 尿管結石、尿路感染症
  • 胆石発作、胆管炎
  • 糖尿病性ケトアシドーシス
  • 尿毒症
  • 髄膜炎
  • 脳卒中
  • 急性緑内障発作

急性心筋梗塞の一部(右冠動脈領域の心筋梗塞)は、症状として吐き気や嘔吐が全面に出てくることがあります。また、急性大動脈解離で脳梗塞が起こると、意識障害や言語障害がありながらも症状が訴えられずに、嘔吐だけが確認されるということもあります。
 
良性発作性頭位めまい症は、耳の鼓膜の奥にある内耳が原因で起こります。内耳には頭の位置をつかさどるセンサーとして三半規管があり、この機能が損なわれると回転性のめまいが起きてひどい乗り物酔いのような状態になって吐き気・嘔吐が起こります。
吐き気・嘔吐は腸管以外の腹腔内の刺激でも誘発されます。尿管結石、尿路感染症、胆石発作、胆管炎などはその中でも比較的よくみられます。左右どちらかの背中に痛みがある場合や頻尿・排尿時の痛みがある場合は、尿管結石や尿路感染症(腎盂腎炎)の可能性を考えます。また、右上腹部の痛みがある場合は胆石発作や胆管炎の可能性を考えます。

糖尿病性ケトアシドーシスとは、糖尿病の方において、血糖を下げるインシュリンというホルモンが不足することによって、血糖が下がらない状態になることで起こります。また、肺炎や尿路感染症、脳卒中などほかの病気による身体へのストレスで続発的に起こることもあります。症状としては吐き気のほか、口の渇き、倦怠感、腹痛などがありますが、高齢者の場合には典型的な症状が出ない場合もあります。
 
尿毒症は、腎不全が進行して本来体の外に出すべき物質が体内にたまることにより、嘔吐が引き起こされる病気です。通常は尿毒症になる前に腎不全の傾向があると指摘されることが多いのですが、腎臓に影響する薬剤の使用で予想外に腎不全が進行するとその傾向が見つかる前にすでに尿毒症になっているケースもあります。
 
また、クモ膜下出血や脳出血など、脳卒中によって頭蓋内圧(頭蓋骨の内側の圧力)が急激に上昇すると嘔吐の症状が現れることがあります。
 
髄膜炎は頭痛が先行することが多いのですが、症状の一環で嘔吐することがあります。髄膜炎はウイルス性の場合と細菌性の場合で治療法が違いますので、医療機関に受診することが必要です。

薬の副作用

薬の副作用として吐き気や嘔吐の症状が出ることもあります。例えば、抗がん剤や抗精神病薬、抗認知症薬などが例として挙げられます。また、糖尿病やパーキンソン病の治療薬の中にも、副作用で消化器症状が出るものがあります。

吐き気・嘔吐の症状が見られた場合の対処法

ご利用者様が吐き気をもよおされている場合には、なるべく楽な姿勢を取ってもらうようにしましょう。椅子などに腰かけてゆっくり呼吸をするように促してください。基礎疾患があるなどの理由で腹部が腫れて膨らんでいる場合を除き、吐いたものが飛び散らないようにガーグルベース、間に合わなければ洗面器でもよいので用意し、前傾姿勢を保つことが好ましいです。前傾が取れない場合には、嘔吐物による誤嚥や窒息を防ぐために座位や側臥位を取り、顔だけでも横に向けるようにしましょう。

排泄物や食品、化粧品、香水などのニオイは嘔吐を引き起こすきっかけになりやすいので、なるべく避けてください。着衣の締め付けが症状を悪化させることもあるので、余裕があれば腹部周りを圧迫しないように緩めてあげた方が良いでしょう。

嘔吐しているときは、心理的にも不安を感じていることが多いので、感染対策を充分にした上で、ゆっくり背中をさすったり声をかけたりして苦痛の軽減に努めてください。嘔吐物の残りが口腔内に残っているとさらに吐き気をもよおされることもあるので、症状がある程度収まったら少量の冷水などで数回に分けて口腔ケアをした方が良いでしょう。

嘔吐の原因にもよりますが、食事中のむせなどで嘔吐した場合を除き、水分を少量ずつ摂取することが好ましいケースは多いです。無理しない範囲で脱水にならないような工夫が必要です。

このような場合は、すぐ医療職や現場の責任者に連絡を

嘔吐した後に以下のような症状が見られた場合は、直ちに医療職や現場責任者に報告しましょう。

  • 嘔吐が止まらない
  • 麻痺がある
  • 胸の痛みを訴えている
  • 激しい腹痛を訴えている
  • 呼吸の状態がおかしい
  • 意識が混濁している
  • 吐物が血液だった(吐血だった)
  • 酸素飽和度が下がっている
  • 発熱がある

また、上記の症状の有無に関わらずご利用者様に吐き気・嘔吐の症状がある場合、医師や看護師に引き継ぐ際には以下のポイントを伝えるようにしましょう。原因や検査方法の検討に役立ちます。

  • いつ嘔吐の症状が出たか(食事中か食後か)
  • どれくらいの期間症状が続いているか
  • 症状は突然出たのか(きっかけがあったか)
  • 吐いた回数・嘔吐物の量・内容
  • 嘔吐の前に吐き気をもよおしていたか
  • 食事はいつとったか(最終の食事の時間)
  • 食事では何を食べたか(生食や鶏肉などを食べたか)
  • 吐き気・嘔吐のほかに発熱などの症状はあるか
  • 同じような症状のご利用者様はいるか

もしご利用者様がウイルスや細菌に感染していたら施設内のアウトブレイク(集団感染)を防がなくてはなりません。早めに医師に診てもらい、原因を特定するようにしましょう。

施設内に感染症を広げないために

ノロウイルスは嘔吐が主な症状で、感染する頻度も多く感染力も強いウイルスです。嘔吐された方の症状や感染の流行状況などから感染症の可能性が考えられる場合は、普段から行うべきスタンダート・プリコーション(標準予防策)の実施に加えてノロウイルスの可能性も想定し、嘔吐の原因が分かるまでは接触感染予防策(手袋+ガウンやエプロンの着用、個室隔離)や流水によるこまめな手洗いを行い、顔を触らないように意識するようにしましょう。アルコール消毒や流水による手洗いといった手指衛生は、以下のタイミングを意識して日ごろから行うことが大切です。

手指衛生を行うタイミング

具体例

ご利用者様に直接触れる前後

車椅子やベッドへの移動、握手、入浴、食事の介助など


無菌操作を行う前

歯磨き、食事の準備、負傷箇所のケアなど


体液暴露された可能性がある場合

トイレ掃除やおむつ交換、使用済みのティッシュに触れたときなど


ご利用者様の生活環境に触れた後

ベッドのシーツ交換、ご利用者様の私物の接触、ご利用者様の部屋の入退室時など


ご利用者様の個室への移動が難しい場合はベッド間をカーテンで仕切るなどして工夫します。嘔吐したご利用者様の近くにいた方(目安は2m以内)や嘔吐物に触れた可能性がある方も感染している恐れがあるため、ウイルスや細菌の潜伏期を目安に様子を見ましょう。兆候があればすぐに追加の予防策を講じます。

これらの予防策を解除するのは、検査などの結果から嘔吐の原因が感染症ではないと判断されてからです。感染症であると判明した場合は、感染ルートを特定するために、嘔吐された方が感染者や施設外部者と接触したかどうか、一緒に食事をした方は症状がないか、施設内に他の発症者がいないかどうかなどを調べましょう。

嘔吐物を処理するとき

まず、他のご利用者様を誘導して嘔吐物から離すようにしましょう。処理を始める際は、関係のないご利用者様やスタッフ様が現場に入ってこないよう、部屋の入り口を規制したり周囲を見守る人を立てたりすることが必要です。

また、嘔吐物にはウイルスが含まれている可能性があります。処理を行う際は適切な個人防護具を着用し、次亜塩素酸ナトリウムを有効塩素濃度1000ppm(0.1%)以上で希釈したものを使用して適切な処理をします。嘔吐物処理の具体的な手順や準備する物などについては業務改善ナビ「緊急時の対処 汚物処理の仕方」で詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

嘔吐は突然発生することが多いため、処理に必要なアイテムをあらかじめひとまとめにしておくとスムーズです。正しい手順で処理すれば、感染のリスクを減らすことができます。

まとめ

吐き気・嘔吐に適切に対処すれば、病気の早期発見や症状の改善、感染拡大防止などにつながります。症状が現れても、焦らず着実に対応することが大切です。

嘔吐処理を迅速に行うためには、処理方法をいつでも素早く確認できるようにポスターを掲示したりマニュアルに記載したりなどすると良いでしょう。

業務改善ナビでは、ダウンロードしてお使いいただける、次亜塩素酸ナトリウムを使用した汚物処理マニュアルを用意しております。ぜひご活用ください。

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参考:
厚生労働省「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版
e-ヘルスネット(厚生労働省) 「便秘と食習慣
職場のあんぜんサイト(厚生労働省)「緊急時対処法マニュアル
国立がん研究センター 東病院「吐き気・嘔吐について」 
国立がん研究センター 東病院「便秘
国立がん研究センター 東病院 栄養管理室「吐き気・嘔吐がある方のお食事
健康長寿ネット「悪心・嘔吐」 
糖尿病情報センター「血糖値を下げる飲み薬」 「シュロスバーグの臨床感染症学 第2版」
日本語訳厚生労働省「食中毒統計資料」

 

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