2018年9月26日更新
シリーズ:介護現場で使える!コミュニケーション術(全5回)
【第1回】信頼関係を結ぶ声がけのコツとは?
著者/尾渡順子(おわたり・じゅんこ) 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士
そもそもコミュニケーションって何?
コミュニケーションとは簡単に言うと、“意思や思考、感情などを伝達すること”です。皆さんは「会話」「対話」などの言葉のやりとりをイメージする人が多いかもしれませんが、2人以上の人間が存在し、言葉や言葉以外のやりとりを通して「何か」を「共有」することからコミュニケーションが始まります。介護の現場では、このコミュニケーションがご利用者様の生活を支援していく上で重要な役割を果たします。
介護現場でコミュニケーションが必要な理由
コミュニケーションは、ときに「言葉が足りなかった」「受け手の解釈が違った」などを理由に大きな誤解を生むことがあります。介護現場においては、相手が高齢で、視覚、聴覚や言語能力の低下により伝達が難しかったり、認知症のため意思の疎通がはかれなかったりと、さらにコミュニケーションが難しくなることが多いのです。表現が難しい人の心のうちを推察し、痛みや苦しみから解放するためにも、介護職員はコミュニケーション能力を磨かなくてはなりません。
また、職員間の情報共有は必須です。情報の共有不足がご利用者様を混乱させ、事故やトラブルに繋がることさえあります。コミュニケーションが不十分なために発生したトラブルをいくつか見てみましょう。
思い込みが誤解を呼ぶ
トラブルの原因
「東側、西側」等の言葉が足りなかったため誤解が生じてしまいました。また「エレベーターと言えば東側」のようなローカルルールや思い込みは、訪問者の方などに通じないことがあります。
約束は守ること!
トラブルの原因
夜勤明けの職員が他の職員と「散歩の約束」について情報を共有しなかったためにご利用者様を混乱させがっかりさせてしまいました。
表現することができないからこそ
トラブルの原因
重度認知症で表現が苦手な人は「痛い」や「痒い」を訴えることができません。どのくらい座っているのか、いつ横になったのか、職員が把握することは必須です。
言葉よりもメッセージ性があるものは……ボディランゲージ
言葉でコミュニケーションを取りにくくなったご高齢者様には、特に声や表情、身ぶり手ぶりなどの「非言語表現」がコミュニケーションの手段として有効です。非言語表現であるボディランゲージは、言葉以上に相手にメッセージを伝えていると言われています。一方で、自分の非言語表現が相手にどのような印象を与えているか、一度振り返る必要があります。
■声の大きさや高さ
一般的に、ご高齢者様には「低く通る声」が聞こえやすいといいます。大きく短くゆっくりと話すことを心がけましょう。また、同じ言葉でも声の大小やトーンで相手に与える印象が変わります。自分の声や話し方が相手にどんな風に聞こえているか振り返ってみてください。早口は相手を急かしているように聞こえますし、命令口調は相手を萎縮させます。相手の耳が遠いからと大声で話していたのが、きつく叱っているように聞こえる場合もあります。ミニホワイトボードを用いた筆談を併用するなどの方法も有効です。
■視線・顔の表情・身振り手振り
誠実な笑顔は敵を作らず、相手に好印象を与えます。ご利用者様に声を掛けられたとき、「忙しいから」と無表情でもくもくと業務を遂行していませんか? 相手を見ないで話すことは「あなたの話は聞いていられない」と言っているのと同じこと。仕事中もなるべく手を止め心を留め、相手と向き合うようにしましょう。また身振り手振りは表現力がアップしますが、時に相手を威嚇することもあるのでご注意を。
■服装・身だしなみ
訪問介護や担当者会議等の訪問の際、汚れた服装で訪問すると、相手に「うちが汚いから、汚れてもいいようにあんな格好してくるのかしら?」と誤解される場合があります。仕事では清潔な身だしなみを心掛けるようにしましょう。
■時間に遅れる
「ここに来るのが嫌だから、私が嫌いだから遅れてくるのかしら?」と誤解されることがあります。時間と約束はきちんと守るようにします。
コミュニケーションは生ものであり、一度与えた悪い印象を取り消すのは至難の業です。ふと出てしまったアクビやため息など、相手はよーくあなたのことを観察していますよ。
利用者と信頼関係を結ぶために
人間誰しも「合う人、合わない人」がいて当然です。働いているうちに、ご利用者様の中にも「苦手だなあ」と思う方が出てくるかもしれません。こんなとき、4つのラポール(相互に信頼する関係)形成のコツを試してみてください。
(1)相手をよく観察する
まず相手に関心を持つことが一番大事です。苦手な相手は遠ざけてしまいがちですが、ちょっと離れて相手を観察してみましょう。「テレビを食い入るように見ている。野球が好きなんだ」「甘い物が好きなんだな」等、観察をしていると相手の意外な一面が見えてきます。「へえ、あんな一面があるんだ」と新しい発見をして驚くことが相手に関心を持ち始めた第一歩です。
(2)相手との共通点を見つける
相手との距離を縮める一番の方法は共通点を見つけること。同じ東京出身、同じ野球チームのファン、昔、水泳をやっていた……。ほら、共通の話題がたくさん見つかってきましたね。「昨日のナイター見ましたか?」こんな会話から苦手意識が和らいでいくものです。
(3)相手の気持ちを受容する
つらいときはわかってくれる人がいるだけで心が軽くなるものです。言葉をそのまま受け止めるのではなく、気持ちを受け止めましょう。相手から「この人は自分をわかってくれる」と思われることが信頼関係を築く最初の一歩になります。暴言のある人に「馬鹿野郎」と言われた後、何も言わず立ち去るのではなく「何かあったのですか?」「ちょっとお話しましょうか」と相手の話を聞いて差し上げることで、相手の助けになることがあります。
(4)名前をたくさん呼ぶ
特に男性の利用者など、最初のうちは人見知りで口もきいてくれない方がいますよね。そんな方はなるべくたくさん名前を呼ぶようにします。何度も何度も名前を呼ばれると、たいてい「自分は頼りにされている」とうれしい気持ちになるものです。「田中さん、おはようございます。田中さん、今日の体調はいかがですか?」などの挨拶や体調確認はもちろん、「田中さん、歴史の先生だったんですって?」「田中さん、レクで歴史クイズをやるんですが、私、自信がなくて……。田中さんがいらっしゃると心強いです」と頼ってみるのも一つの手。「仕方ないなあ」なんてまんざらでもないような顔で参加してくれたらこっちのもの! 頑固親父だった田中さんが頼りがいのある先生に大変身です。
今回は介護現場におけるコミュニケーションの重要性と信頼関係を築くコツについて解説しました。次回は「日常的に使っていない?ご利用者を不安にさせる言葉がけ」についてご紹介します。
著者プロフィール/尾渡順子(おわたり・じゅんこ)
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士、介護教員資格等を所得。介護技術や認知症介護、コミュニケーションに関する研修講師も務める。
2014年、アメリカ・オレゴン州のポートランドコミュニティカレッジにて、アクティビティディレクター資格を所得する。2018年4月より医療法人中村会 老健あさひなに勤務し認知症介護レクリエーション実践研究会を立ち上げる。現場において高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、介護従事者に「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方で、介護情報誌やメディアにおいて執筆などを手掛けている。著作として「みんなで楽しめる高齢者の年中行事&レクリエーション」(ナツメ社)、「おはよう21増刊号 楽しい!盛り上がるレクリエーション大百科」(中央法規出版)、「介護現場で使えるコミュニケーション便利帖」(翔泳社)「介護で使える言葉がけシーン別実例250」(つちや書店/滋慶出版)「笑わせてなんぼのポジティブレクリエーション」(日総研)「DVDレク担さん必見!もう悩まない 笑顔を引き出す介護レク入門」(BABジャパン)などがある。
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