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コラム

2022年9月27日更新

どこからどこまでが医療行為?介護職ができること・できないこと

監修者 外岡潤氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/外岡 潤(そとおか・じゅん)
弁護士、ホームヘルパー2級。「弁護士法人おかげさま」代表。
介護・福祉の業界におけるトラブル解決の専門家。
YouTubeにて「介護弁護士外岡潤の介護トラブル解決チャンネル」を配信中。

高齢者介護施設のご利用者様の中には、医療ケアを必要とされる方もいます。しかし、医療に関する免許を持っていないスタッフは、基本的に医療行為を行うことはできません。ただし、一部の医療行為が厚生労働省によって許可されている事実があります。

そこで今回は、介護職に認められている医療行為の種類や医療行為を行える条件を解説します。

「爪切り」や「耳掃除」が医療行為に該当することも

介護職には、一部の医療行為が認められていますが、認められているもの以外の医療行為を行うと、法律違反となってしまいます(医師法第17条「医師でなければ、医業をなしてはならない」)。また、ご利用者について何らかの事故が発生した場合には、医療行為を行ったスタッフ様や施設が責任を問われることになります。
ご利用者様の安全を守り、法律を遵守した施設運営を行うために、介護職が行えるケアの範囲を把握しておきましょう。

「医療行為」とは、「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)」と定義されています(厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」以下「厚労省通知」といいます)。
つまり、医療行為かどうかの判断基準は「ご利用者の体に危害を及ぼすおそれがあるか否か」となります。

ここで注意いただきたいことは、一般に「原則として」医療行為でないとされている事柄でも、ご利用者の状態や行為の態様によっては「人体に危害を及ぼす」おそれがあるとして、例外的に医療行為に分類されることがあるという点です。
例えば、「爪切り」は通常医療行為ではなく、そのことは大抵の方の認識とも合致していることでしょう。
この点、厚労省は「爪そのものに異常がなく、爪の周囲の皮膚にも化膿や炎症がなく、かつ、糖尿病等の疾患に伴う専門的な管理が必要でない場合に、その爪を爪切りで切ること及び爪ヤスリでやすりがけすること」は医療行為には該当しないと述べています。
しかし、これがひどい巻き爪であったり、割れやすい爪である場合はどうでしょうか。その場合は「人体に危害を及ぼす」と認定される可能性が高くなります。

最終的には担当医師が「治療の必要がある」と判断した場合に医療行為に該当することになるため、現場としては都度医師に確認することで違反を回避することができます。
医療行為か否かグレーな行為は複数存在するため、本コラムで知識を整理しておきましょう。

介護職が行えること

医療行為に該当せず介護職が行える行為一覧

下記に挙げる行為は、過去には医療行為とされていましたが、2005年の厚労省通知によって、これらの「医療的ケア」は原則として医療行為にあたらないことが明確化されました。ご利用者様が日常生活を送るうえで必要な以下のケアは原則として医療行為に当たらず、介護職が行うことが認められています。

  1. 体温測定
  2. 血圧測定
  3. 動脈血酸素飽和度を測定するため、パルスオキシメータを装着すること
  4. 軽微な切り傷・擦り傷、やけどなどの処置
  5. 医薬品を使用した以下の介助(条件あり)
  • 皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
  • 皮膚への湿布の貼付
  • 目薬の点眼
  • 一包化された内用薬の内服
  • 肛門からの坐薬挿入
  • 鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助

ただし、医薬品を使用した介助では、以下の条件を満たし、かつ医師や薬剤師、看護職員の指導のもと行う必要があります。

  1. 医師、歯科医師、看護職員が以下の3つの条件を満たしていることを確認し、かつ医療従事者以外が医薬品使用の介助を行うことをご利用者様・ご家族様に伝えていること
    1. 入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
    2. 副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要ないこと
    3. 内服薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、医薬品使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要ではないこと
  2. ご利用者様やご家族様の具体的な依頼にもとづいていること
  3. 医師の処方を受け、あらかじめ薬袋等により区別し授与された医薬品であること

以下に掲げる行為も、原則として、医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の規制の対象とする必要がないものであるとされています。

  • 爪切り
  • 口腔ケア
  • 耳掃除
  • ストーマのパウチに溜まった排泄物の除去
  • カテーテルの準備や体位の保持
  • 市販の浣腸器を用いた浣腸

ただし、これら規制対象外の行為でも、ご利用者様の病状が不安定であること等を理由に専門的な管理が必要な場合には医療行為に該当することがあります。また、ご利用者様やご家族様の同意が必要なもの、医師・看護師の指示が必要な行為もあるため注意が必要です。

条件付きで行える医療行為

医療行為とされているものでも、条件付きで介護職が行える場合があります。2012年4月に施行された「社会福祉士及び介護福祉士法」により、介護職が一定の条件下でたんの吸引などの医療行為を実施できるようになりました。

喀痰吸引や経管栄養を行うためには、「喀痰吸引等研修」を修了する必要があります。「喀痰吸引等研修」は基本研修(講義+演習)と実地研修で構成されていますが、介護福祉士実務者研修を修了している方は、基本研修が免除されます。
また、実施の際には医師の指示が必要です。ご利用者様の主治医に指示書を作成してもらい、それに従いケアを行いましょう。
なお、研修を修了しているスタッフ様がいる場合でも、就業先が「登録喀痰吸引等事業者」または「登録特定行為事業者」として登録されていなければ、医療行為を行うことはできません。

  • 条件については、必ず管轄の都道府県が公表している情報をご確認ください。

介護職が行えないこと

介護の現場で必要になる医療行為の中で、介護職が行えない主要なものは次の通りです。

  • インスリン注射
  • 摘便
  • 褥瘡(床ずれ)の処置
  • 血糖測定
  • 点滴管理 など

糖尿病患者の治療に必要なインスリン注射は、本人または医師・看護師のみが行える医療行為です。ただし、インスリン注射のためのサポートは介護職も行えます。例えば、インスリン注射を促す声かけや血糖値測定器の準備、使用済み注射器の片付けなどです。

自力での排泄が難しいご利用者様に必要な摘便も、介護職が行えない医療行為です。医療従事者以外が摘便を行うと、腸壁を傷つける可能性があります。摘便が必要だと思われる場合は、医師あるいは看護師に状況を伝えましょう。

起き上がることが難しいご利用者様に褥瘡ができてしまった場合も、介護職が治療を行うことはできないため医師または看護師に治療を依頼します。

まとめ

さまざまなご利用者様が過ごす施設での介護では、医療行為が必要になる場面が多々あります。介護職が行える範囲を理解し、必要に応じて介護職と医療職が連携することが重要です。

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