2022年12月27日更新
化粧療法(メイクセラピー)でご利用者様を笑顔に。QOL向上も期待できるケア
監修者プロフィール/大平 智祉緒(おおひら・ちしお)
大学病院にて高齢者看護に従事した後、2016年 NOTICEを開業。
看護資格を持つメイクセラピストとして、国立病院での外見ケアボランティア、介護施設でのメイクセラピー、地域高齢者に向けた健康美容教室を開催し、これまでのべ400〜500人に美容整容ケアを施す。多くの方との出会いの中で、自分らしさを取り戻す化粧や整容の力を再認識する。現在、看護学に基づく美整容ケアRings Care™️を展開中。
化粧療法(メイクセラピー)とは、化粧を用いた治療、指導、援助のことです。介護福祉の領域では、認知症の予防・改善、ADL(日常生活動作)、QOL(生活の質)の維持向上を目的として導入されているケースがあります。
介護施設ではレクリエーションの一環として化粧療法を導入する事例もあり、介護スタッフが化粧療法に関する知識と技術を身につけることでレクリエーションの幅も広がるでしょう。
そこで今回は、化粧療法がご利用者様にもたらす効果や、介護の現場での化粧療法の役割などについて解説します。
化粧療法(メイクセラピー)とは
化粧療法(メイクセラピー)は、化粧によって生活を豊かにすることを目指す療法です。具体的には、次の3つの効果を意図的・計画的に活用して、対象者のQOLの向上を図ります。
化粧に関する心理的効果についての研究では、化粧を施すことで積極性の向上やリラクゼーション、安心などの効用があるとされています。
介護の現場における化粧療法は、健康寿命の延伸や認知症の予防・改善などを目的に、ご利用者様の尊厳の保持やリハビリテーションにも役立つとして広がりはじめています。
化粧療法と通常メイクの違い
通常のメイクは、外見をきれいにすることを目的として行います。一方、化粧療法では前述したように対象者を多面的にアセスメントし、ご利用者様のADLやQOLの向上などを目指します。
また、化粧療法におけるメイクには、美容の専門知識・技術だけでなく、医療や介護の知識が必要です。化粧療法の効果や、介護の現場における化粧療法の役割については次項より詳しく解説します。
期待できる効果
化粧療法には、主に次の5つの効果が期待できます。
1.前向きになり活力が出る
化粧によって心が明るく前向きになり、自己肯定感が上がり、やる気がわいてくるようになります。また、化粧のリラックス効果によるストレス解消も見込めます。
2.ADL(日常生活動作)の維持・向上
化粧により積極性が向上し、社交性も高まります。行動的になることで他者への関心も高まり、他者との交流が促進されます。また、化粧をする際には手指や腕を適度に動かすため、筋力の維持も期待できます。
3.QOL(生活の質)の維持・向上
化粧をすると周囲から声がかかりやすくなり、コミュニケーションの活性化や、手術痕やシミ・アザの補正が可能になるなどのことから社会生活の円滑化、QOLの向上が見込めます。
4.認知症の予防・改善
化粧の継続には認知機能の低下を抑制する効果が期待されます。化粧品を選び、手に取って使い、仕上がりを確認して化粧補助者(スタッフなど)とコミュニケーションをとることにより、認知症の症状が軽減するという研究もあります。
5.口腔外ケア
口腔ケアは全身の健康や生活の質(QOL)を維持する上で大切なケアの一つですが、認知症のある方の中には口腔ケアを拒否される方もいらっしゃいます。美容を入口としリラックスする環境を整え、口から遠い爪や指、腕から接触し、緊張をほぐし、徐々に口に近づくことが有効です。爪のケア、ハンドクリームなどを用いた手指のケアからはじめ、化粧(スキンケアやメイクアップ)により口周辺に触れられる抵抗感を軽減することで口腔ケアの拒否を防げます。
化粧を継続することにより、心や体によい影響が現れる可能性があるだけでなく、口腔ケアを拒否する状態を緩和するなど、よりよいケアにもつなげられる可能性があります。
介護現場で化粧療法を取り入れる際の注意点
介護の現場における化粧療法では、美容に関する専門知識と技術に加え、医療や介護に関する知識も求められます。
関係するスタッフ間でメイク道具の衛生管理や、ご利用者様に負担のかからない適切な姿勢保持の方法などについてあらためて確認し、認識を合わせたうえで実施することも大切です。これにより、ご利用者様に心身の負担をかけず、気持ちよくメイクを受け入れてもらえるようになります。
介護施設には、慢性疾患や複数の疾患を持つご利用者様が多くいます。ふとしたことで体調を崩してしまうこともあるため、施術側は医療スタッフやご家族との連携に加え、感染症対策やアレルギーへの理解が必要です。企画の段階で、アレルギー・疾患のある方が安全に化粧を受けられるよう化粧品の選定や実施の方法を考えなければなりません。
介護現場での化粧療法の活用例
実際の現場ではどのようにして化粧療法が用いられているのでしょうか。ここからは、介護の現場における化粧療法の活用事例をご紹介します。
化粧療法の専門家の手を借りながら実施すれば、スタッフ様への負担を軽減しながらご利用者様の自発性や感情機能の向上などさまざまな効果を得られます。
化粧療法をレクリエーションなどで取り入れたい、日常的に行いたい場合は、スタッフ様にも専門知識が必要です。介護スタッフとしてのスキルアップに取り組みたいスタッフ様は、美容に関する知識とスキルを身につけましょう。
レクリエーションの一環として導入する
前記したように化粧療法は、前向きになり活力が出る、ADLやQOLの維持・向上、そして認知症の予防・改善などへの効果が期待できます。ポジティブな心理的効果を得ることは、日々の暮らしにも活力をもたらすため、レクリエーションプログラムの一つとして注目されています。
化粧療法には、ハンドケアやハンドマッサージ、表情筋のストレッチなども含まれます。メイクを好まないご利用者様でも参加しやすいでしょう。
ご利用者様同士で楽しめる点も魅力です。次に紹介するように、コミュニケーションの活性化を目的とするレクリエーションとしても活用できます。
コミュニケーションの活性化を目的として導入する
化粧を利用者自身が行う「化粧教室」の実施で、コミュニケーションの活性化を図れます。
この場合、化粧行為そのものよりも「化粧行為を通じた他者とのコミュニケーション」に重点を置きます。スタッフ様とご利用者様のコミュニケーションはもとより、ご利用者様同士のコミュニケーションが活性化されるよう、参加者同士の交流の時間を加えるなど、プログラムを考える必要があります。
会話が難しい場合でも、施術側が声をかけながら実施をすることで、徐々に心を開いてリラックスしてくれるでしょう。
スタッフ様とご利用者様のコミュニケーションの活性化は、ケアの質の向上にもつながります。また、コミュニケーションを重ねることで、日常生活での様子が穏やかになるケースも見られるようです。
まとめ
化粧療法を実施するためには、スタッフ様にも化粧療法に関する知識や理解が必要です。また、専門家のサポートも欠かせません。
しかし、化粧療法には認知症の予防や緩和、ADL、QOLの向上などが期待できます。何より、ご利用者様がいきいきとした様子になり、笑顔を見せてくれるなど、さまざまなメリットのあるケアといえるでしょう。
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