2023年1月31日更新
認知症と間違われやすい「老人性うつ」の特徴とは?介護施設におけるケアやコミュニケーションのコツも解説
監修者プロフィール/長谷川 洋(はせがわ・ひろし)
1995年聖マリアンナ医科大学卒業、同大学神経精神科入局。2003年より同大学東横病院精神科主任医長として勤務。2006年より長谷川診療所を開院。精神保健指定医、日本老年精神医学会専門医、日本精神神経学会専門医。聖マリアンナ医科大学非常勤講師、東京医療学院大学非常勤講師、神奈川県精神神経科診療所協会副会長。著書に「よくわかる高齢者の認知症とうつ病」(父、長谷川和夫氏と共著:中央法規)、「認知症のケアマネジメント」(石川進氏と共著:中央法規)がある。
老人性うつ(高齢者のうつ病)は、認知症と症状が似ていることで見過ごされやすい病気です。老人性うつは機能回復が難しい認知症とは異なり、早期に発見し適切に対処すれば改善する病気です。早い段階で対処するためには、身近にいるスタッフ様がご利用者様の言動などの変化に気付くことが重要です。
そこで今回は、老人性うつの特徴や認知症との違いとあわせ、ケアやコミュニケーション、対応のポイントを解説します。
老人性うつとは
老人性うつとは、正式な病名ではなく、一般的に65歳以上の方がうつ病を発症した際に用いられる言葉です。老人性うつは一般のうつ病と同じ病気ではあるものの、一般的なうつとは異なる次のような特徴があります。
高齢者のうつ病では、睡眠障害や思考力・集中力の低下などの典型的なうつ病の症状を示す方の割合が3分の1から4分の1程度といわれています。また、悲哀の訴えのような精神的な症状よりも、健康状態の悪化など身体的な症状が現れやすいのも特徴です。
これらのことから、高齢者のうつ病は老化現象と間違えられやすく、発見が遅れてしまうこともあるため注意が必要です。
老人性うつと認知症の違い
認知症は脳の病気や障がいなどを原因として発症するのに対し、老人性うつは配偶者との死別など大きなストレスのかかるできごとをきっかけに発症することが多いです。老人性うつと認知症には大きく異なる点がいくつかあります。
発症のきっかけ
◆老人性うつ
家族・ペットとの死別や病気などによる大きなストレス
◆認知症
脳の病気や障がいなどさまざま
初期症状
◆老人性うつ
睡眠障害や食欲低下、頭痛、吐き気など
◆認知症
これまでできていたことができなくなる、ぼーっとしていることが増える、性格が変わるなど
症状の改善
◆老人性うつ
適切な治療により改善する可能性がある
◆認知症
病気の進行を遅らせることはできるが改善はしない
病気の進行
◆老人性うつ
比較的短い期間にさまざまな症状がでる
◆認知症
徐々に記憶障害などが進行する
自覚の有無
◆老人性うつ
自身の認知機能の低下を自覚できる
◆認知症
自身の認知機能の低下に気付きづらい、進行度合いによっては気付かない
初期症状においては、老人性うつの場合は頭痛や吐き気を訴えるようになり、これまで興味のあったことへの関心を失うなどの特徴があります。認知症では、記憶力の低下からこれまでできていたことができなくなったり、性格が変わったりするなどの症状が現れます。
また、老人性うつでは適切な治療で症状が改善する可能性がありますが、認知症では病気の進行が止まることや、治癒することはありません。
ご利用者様の老人性うつに気付かずにいると、うつ病が悪化してしまう可能性があります。早期に適切な治療を受けてもらうためにも、老人性うつと認知症の違いを理解し、ご利用者様の変化に気付くことが重要です。
老人性うつを引き起こす原因
老人性うつの主な原因には、大きく分けて環境的要因と心理的要因の2つがあります。
環境的要因の例
心理的要因の例
高齢者は、家族や友人との死別や病気、身体機能の低下などさまざまな喪失体験をします。それらの出来事がきっかけとなる恐れがあるため、スタッフ様は注意して様子を確認する必要があります。
また、過去にうつ病を経験している方や、配偶者との死別・離婚を経験している方はうつ病のリスクが高いといわれています。既往症なども確認し、このような大きなストレスを抱えるご利用者様に対してはより注意深く変化を確認していきましょう。
老人性うつの予防法
老人性うつの予防には、ご利用者様に前向きな気持ちを持ってもらうことが重要です。
新しいことにチャレンジできる環境をつくる、積極的にコミュニケーションを取り会話を心がける、レクリエーションを企画してご利用者様同士のコミュニケーションを活発化させる機会をつくるなど、日常のケアの中で行える予防法はいくつかあります。
日常のケアでは、ご利用者様と雑談をするように心がけましょう。ご利用者様との雑談の方法について、詳しくは「高齢者の心をつかむ!雑談上手になる方法10か条」をご覧ください。
また、健康的な生活リズムが身につくように、睡眠の質を高めることも重要です。以下のことを意識しましょう。
なお、うつ病になると、「できないこと」に焦りを感じてしまいがちです。正しい生活習慣は大切ではあるものの、ご利用者様が頑張りすぎてしまわないよう配慮する必要もあります。
利用者が老人性うつかも?と思ったら
ご利用者様に老人性うつのような症状が見られる場合、スタッフ様はどのような対応をとればよいのでしょうか。
前提として老人性うつかどうかの判断はスタッフ様だけでは行えません。前述した初期症状が見られる場合は、なるべく早い段階で医療機関を受診するよう働きかけましょう。
老人性うつが疑われる場合は、ご利用者様だけでなくご家族にも状況を説明して医療機関への受診をすすめます。医療機関に情報を提供するためにも、睡眠、食欲、気分、疲労度合いなどについて確認し、介護記録に残しておきましょう。
介護記録を書く負担を減らし上手に書く方法は「介護記録を上手に書く方法!負担を軽減するポイントやシーン別例文も」にて詳しく紹介しています。併せてご確認ください。
老人性うつの利用者との関わり方
老人性うつが疑われるご利用者様に対する日常のケアでは、ご利用者様を否定しないこと、決めつけをしないことが大切です。加えて、話を聞く際はスタッフ様が感情移入しすぎないよう注意しましょう。これは、ご利用者様の不安感などをスタッフ様が自分事のように感じてしまうことによるストレスを防ぐために有効です。ご利用者様本人の気持ちは受け止め、事実関係などについては客観的な視点で話を聞くようにします。
そのほか、次の点に注意してコミュニケーションを図りましょう。
老人性うつを含め、うつ病患者は自分自身のことを責めてしまう傾向にあります。過度な励ましや心配はかえって不安につながることがあるため、なるべく自然にふるまうよう心がけます。また、重大な決定は大きなストレスになるため、先延ばしできるものは症状が落ち着いてから判断を求めるようにしましょう。
うつ病の方は疲労を感じやすいため、ゆっくり休ませ、リフレッシュできる時間を持たせることも重要です。加えて、医師から服薬の指示があった場合には、治療のために正しく服薬できるようサポートしましょう。
老人性うつへの理解で正しいケアを
老人性うつは認知症と間違われやすいため、違いをよく理解することが大切です。いつもの様子と違うと感じた場合は早めに医療機関で受診できるよう働きかけ、悪化する前に対処しましょう。
参考:
・厚生労働省「資料8-1 高齢者のうつについて」
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