2022年4月19日更新
コロナ禍でさらに深刻化…介護業界の人手不足を解消するためには?
監修者プロフィール/伊藤 亜記(いとう・あき)
株式会社ねこの手 代表取締役
短大卒業後、大手出版会社へ入社。祖父母二人の介護と看取りの経験を機に、社会人入学にて福祉の勉強を始める。98年、介護福祉士を取得し、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行を務める。
その後、大手介護関連会社の支店長を経て、介護コンサルタント「株式会社ねこの手」を設立。
現在、旅行介助サービスや国内外の介護施設見学ツアーの企画、介護相談、介護冊子制作、介護雑誌の監修や本の出筆、連載、セミナー講師、TVコメンテーター、介護事業所の運営・営業サポートなど、精力的に活躍中。現在、年間200回以上の全国での講演やセミナーをこなす。 特に介護記録の書き方や実地指導対策、介護業界の集客法、介護職のモチベーションアップ、介護職の人材育成、離職防止などの講義で全国的に高い人気を得ている。
2010年4月 子どもゆめ基金開発委員就任。医療・福祉法人の顧問や大手介護会社のコンサルタントも多数務める。
介護福祉士/社会福祉主事/レクリエーションインストラクター/学習療法士1級/シナプソロジーインストラクター
重労働や低賃金といった背景からもともと人手不足が深刻な介護業界。コロナ禍で技能実習生等の入国が止まっており、外国人材を雇えない状況が続いています。また、飲食業等の他業界からの求職者が増えているものの、まだまだ人材流入が不足しています。
そこで今回は伊藤亜記氏監修のもと、人手不足を解決するためにできることを「採用」「人材定着」「業務改善」の観点から紹介します。
加速する介護業界の人手不足
少子高齢化が進み介護施設の需要が高まる一方で、介護業界における人材不足の課題はますます深刻化の一途を辿っています。近年はさらに、コロナ禍により技能実習生等の入国が止まっており外国人材の雇用が難しい、介護施設でのコロナ感染の不安等により家族らからの反対もあって退職者が出るなどの状況があるようです。
外国人材の雇用が難しい
コロナ禍の水際対策として外国人の新規入国の停止・制限が行われ、技能実習生や特定技能の在留資格を持つ外国人材が来日できない状況が続いています。母国待機が続くと将来の見通しが立たず経済的に厳しい状況になり、内定辞退につながる恐れもあります。日本国内にいる外国人材に「特定技能」の資格を取得してもらい介護業界で活躍してもらう動きもありますが、心身的な業務負担のわりには給与が低いという理由から資格取得を目指す人はあまり多くないようです。
このような背景から、技能実習生や特定技能の外国人労働者を頼みの綱にしていた施設運営では人材確保の手段が限定され、人手不足の深刻化が懸念されます。
他業界からの求職者は期待できるが、依然厳しい状況
人手不足の解決策としてコロナ禍で職を失った他業界の人材流入を期待する声もあります。実際、飲食業等からの求職者が増えている状況はあるものの、依然として厳しい状況です。例えばリーマン・ショックの際は全産業がダメージを受けたため他業界からの人材流入がありましたが、コロナ禍では人気業界とそうでない業界との差が大きく、人材が流れてしまう傾向もあります。
介護業界はそもそもコロナ禍以前から他産業からの流入が活発ではなく、採用が難しい状況にありました。介護労働安定センターが事業所に対して行った調査(令和2年度介護労働実態調査)では、採用が難しい理由として「他産業に比べて、労働条件等が良くない」「同業他社との人材獲得競争が厳しい」といった意見が多く挙がっています。つまり介護業界への希望者が少なく、限られた人材を地域の施設や事業所同士で取り合わなければならない状況となっています。
人手不足を解消するために
人手不足を解消し、状況の悪化を防ぐためには今いるスタッフ様に末永く勤めていただく「人材定着の徹底」が欠かせません。その上で、新しいスタッフ様に戦力として入ってもらい、施設や職場内の業務分担化できる「採用の強化」が重要になります。また、同じ業務でもICTやIoTを活用することで短い時間や少しの労力で済み“人手が不足している状況”そのものを改善していける可能性があるため、「業務効率化の促進」も大切です。
人材定着の徹底
現在働いているスタッフ様に末永く勤めていただくためには、安心して働いてもらえる仕組みづくりと、施設や事業所のコミュニケーションを良好に保つことが最も重要です。
無症状の陽性者も増えており、「自分がコロナに感染したらどうしよう」といった不安を抱えているスタッフ様も少なくないでしょう。安心して勤務し続けてもらうためにも、スタッフ様を守るための管理や感染対策の徹底が大切です。加えて、万が一感染してしまったときの補償や休める体制、他のスタッフが感染してしまった場合の人手不足の対策も重要になります。
また、令和2年度介護労働実態調査によると、介護関係の仕事をやめた理由として男女ともに多かったのは「職場の人間関係に問題があったため」でした。離職者全体のうち約6割が勤続3年未満であったことが同調査で分かっています。全産業の平均勤続年数11.9年に比べ、3年以内の離職は非常に問題であり、介護業界で人材が定着していないのは、この数字からも明らかです。
そのため、勤続年数の短いスタッフ様が「この施設で末永く働きたい」と思えるよう、以下のような工夫が必要になります。
業務改善ナビでは上記に関するコラムを掲載しています。以下で紹介していますので、現在施設で実施しようとしていたり、取り組み方に悩んでいたりするテーマがあればぜひご覧ください。
人材育成計画を策定し場当たり的な指導を防ぐ
場当たり的な指導は、スタッフ様の成長スピードやモチベーションを低下させる可能性があることから、人材定着の妨げになり得ます。そのため、介護スキルの標準化や効率的なスキルアップにつながる人材育成計画を策定することが大切です。計画の策定方法について詳しくは「場当たり的な人材育成から脱却!人材育成計画を策定するための4ステップ」をご覧ください。
スタッフ様が納得できる評価制度を整える
介護施設の管理者様にはスタッフ様の教育体制の整備が求められていますが、スタッフ様に必要な技術・知識は多岐にわたるため、ご利用者様に対するサービスの質の均一化・向上が図れるような教育を行うことは容易ではありません。そこで役立つのが、介護スタッフの専門知識と現場での実践力の両方を共通の基準で測ることができる「キャリア段位制度」です。詳しくは「介護スキルを評価する「ものさし」に!キャリア段位制度とは」をご覧ください。
サンクスカードで職場のコミュニケーションを促す
サンクスカードとはスタッフ様同士で感謝の気持ちをカードや付箋などに書いて伝える取り組みのことで、先輩と後輩の信頼関係構築に役立ちます。事例や実践方法について詳しくは「サンクスカードの活用が人間関係の改善につながる?【無料カード付き】」をご覧ください。
他職種とのコミュニケーション負担を解決する
施設運営には多職種連携が欠かせませんが、他の職種とのコミュニケーションは教育背景や専門性の違いから難しく、介護スタッフの精神的な負担になっている場合もあります。この場合は多職種連携を実践するために必要な能力を蓄えることが解決の鍵となるかもしれません。詳しくは「円滑な多職種連携に役立つ『多職種連携コンピテンシー』とは?【前編】」をご覧ください。
相談窓口等設置・周知でスタッフ様が悩みを一人で抱え込まない仕組みをつくる
悩みを抱えたときに相談できる場所として施設や事業所内に専用の窓口や担当者の設置をしたり、外部の相談窓口を研修等を通して周知しておくことも大切です。相談窓口がない職場はスタッフ様が悩みを抱えやすい傾向があります。相談窓口の重要性や外部窓口の例について詳しくは「介護スタッフ様の職場の悩み、抱え込まずに相談を」をご覧ください。
採用の強化
人手不足解消のためには、人材の定着に加えて採用の強化が必要不可欠です。新卒採用、中途採用、高齢者採用といった多様な人材の活用について、コロナ禍における採用活動のポイントを解説します。
新卒採用
新卒採用においては、応募者の母数を増やすことが鍵になります。介護・福祉系の学校・学科以外の学生にも介護業界に興味がある人材は一定数いるため、アプローチして応募者の裾野を広げましょう。また、勤務経験がない学生へは「就職した後に業務についていけるのか」という不安を解消できるよう、選考段階で教育体制や資格取得のサポート、研修制度などについて詳しく説明しましょう。
コロナ禍において、対面だけでなくオンラインでの活動も重要です。オンラインツールを活用して説明会や面接、内覧会を実施すれば、感染対策にもつながり、今まで参加が難しかった遠方の求職者が応募・参加しやすくなります。説明会では、施設内を中継する内覧会で働くイメージを持ってもらったり、若手社員や子育て世代への質問コーナーも設けたりして、職場の雰囲気が伝わるよう心がけましょう。また、内定式や懇親会、面談などの内定者フォローもオンラインで実施可能です。内定期のフォローを怠ると、不安や不信感が募り内定辞退につながるケースもあります。対面で実施できないからと諦めず、オンラインを活用できないか検討してみてください。
中途採用
中途採用においては、働き方改革を基にした柔軟な働き方を実現すること、スタッフ様が働きやすい職場環境づくりに取り組んでいる点について伝えることが大切です。求職者は「こういう職場で働きたい」という条件がある程度決まっていることが多いため、例えば介護休暇取得実績、育休産休実績、残業時間削減実績などを開示して、施設や事業所を選んでもらうためのウリのアピールが重要です。
高齢者採用
リタイアした高齢の介護スタッフ様を掃除やシーツ交換等の周辺業務のスタッフとして雇用するなど多様な人材の採用によって、人手不足解消を目指せます。少しでも長く働き続けたいと考える高齢者の方や、定年などでリタイアした高齢者の方の中には、再就職を希望している方もおられます。このような方々を周辺業務スタッフとして採用することは、高齢者の雇用創出になるだけでなく、地域貢献につながります。また、雇用された高齢者にも、自身の介護予防と介護に関する知識の収集に役立ち、元気に前向きに生活できるメリットがあります。周辺業務スタッフを起用するメリットや実際に起用した施設様の声などは「元気な高齢者を起用する「介護助手」のメリットとは?」でご紹介していますので高齢者採用に関心のある方はご覧ください。
また採用対象に関わらず、コロナ禍においては、スタッフ様のための感染対策を徹底している点を伝えることも大切な取り組みの一つです。令和2年度介護労働実態調査では、感染症や怪我といった健康面の不安があると回答した人が20.5%と、前年に比べて2倍近くに増えています。そのため採用活動においては、どのような感染対策を実施しているのか事前に説明することが求職者の安心につながります。
業務改善の促進
少ない人材でも効率的に業務を行えるように、ICTやIoTの活用や・業務の工夫によって、人手不足という状況そのものが改善に向かう可能性があります。また、採用強化と合わせて業務改善にも取り組むことで、スタッフ様のライフワークバランスが取れるようになり、人材が定着して安定的な施設や事業所運営が実現できるようになります。
具体的な取り組みとしては、ICTツールや介護ロボットの活用などインフラ・システムの整備、ケアマニュアル作成といった業務のマニュアル化が挙げられます。マニュアル化は、介護ロボットの導入やインフラ整備と比較して低コストで始められる上に、属人化の防止や新人育成にも役立つため、積極的に取り入れると良いでしょう。ケアマニュアルを作る際のポイントや注意点については「介護施設のケアマニュアルを作る際のポイントと注意点」でご紹介していますので気になる方はご覧ください。
まとめ
高齢化社会で介護人材の需要は増えている一方で、介護業界の人手不足はコロナ禍も重なり、深刻化しています。問題を解決するためには、人材定着の徹底、採用の強化、業務改善の推進といった多方面からのアプローチが重要です。コロナ禍においては特に、これから介護業界で働くことを考えている方やすでに働いているスタッフ様の不安を少しでも軽減できるよう意識してください。取り組みやすいものから少しずつ実践していくことこそが大切ですので、優先順位を決めて実践しましょう。
参考文献:
・厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査の概況」
・外務省「水際対策強化に係る新たな措置について(オミクロン株に対する水際措置の強化)」
・公益財団法人介護労働安定センター「図表解説 介護労働の現状について」
・公益財団法人介護労働安定センター「令和2年度賃金構造基本統計調査の概況について」
・NHKニュース 「新型コロナ『特定技能』制度の介護職増えず 人手不足深刻化か」
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