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コラム

2023年12月19日更新

特養・老健に与える影響は?令和6年度(2024年度)介護保険法改正、介護報酬改定の注目ポイント~【後編】~

著者 小濱道博氏のプロフィール写真

著者プロフィール/小濱 道博(こはま・みちひろ)
小濱介護経営事務所代表
C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会専務理事
日本各地で介護経営支援を手がける。全国で年間250件以上の介護事業経営セミナーの講師を務め、例年延べ2万人以上の集客実績をもつ。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。介護経営の支援実績は全国に多数あり。
著書:「実地指導はこれでOK!おさえておきたい算定要件シリーズ」第一法規、「これならわかる<スッキリ図解> 介護BCP」翔泳社、「これならわかる<スッキリ図解> LIFE」翔泳社、「これならわかる<スッキリ図解> 運営指導」翔泳社、「よくわかる実地指導への対応マニュアル」日本医療企画、「介護経営福祉士テキスト〜介護報酬編」日本医療企画、「これならわかる<スッキリ図解> 介護ビジネス」(共著) 翔泳社。
ソリマチ「会計王介護事業所スタイル」の監修を担当。

令和6年度(2024年度)の介護保険法改正、介護報酬改定について、政府はさまざまな改善策を打ち出しています。
 
前編】では、日本各地で介護経営支援を行う小濱道博氏に改定の方向性や介護事業者が押さえるべきポイントについて解説いただきました。
【後編】となる今回は、介護報酬改定が介護事業者にもたらす影響について具体的な例を挙げながら解説いただきます。

  • 2023年9月時点の情報で記事を執筆しています。

LIFEフィードバック票の利活用

LIFEのフィードバックにおいては、令和5年度(2023年度)6月30日より事業所フィードバック、利用者フィードバックの提供がスタートしており、介護施設での活用が求められています。加えて、令和6年度からは居宅介護支援事業所においてもサービス担当者会議などで活用されることが期待されています。

令和3年(2021年)にLIFEが始まって以来、フィードバック票が暫定版であったことを理由に、介護事業所はLIFEにデータを提出するだけで、加算算定するケースが大部分でした。利用者別フィードバック票の提供が始まった今、ご利用者様の状態に応じたデータに基づく適切なケアを提供することが求められるでしょう。

成功報酬の拡大を視野に入れたLIFE活用

将来的な成功報酬の拡大も視野に入れる必要があります。LIFEフィードバック票を使うことで計画的にADL(日常生活動作)の点数を向上させる事もできます。アセスメントを一定の指針で実施して、ご利用者様の残された能力と改善可能な能力を把握し、そこに注力したリハビリを行うことでADL全体の点数改善が見込めます。

これによりADL維持等加算の確実な算定につながり、将来的に成功報酬が拡大することを見越した準備にもなります。LIFEの利用者別フィードバックの活用は急務で、事業者の負担は増えるかもしれませんが、結果的に介護施設全体のケアの質が改善されて、ご利用者様と職員の両方の満足度が向上するプラス効果が生まれます。

ICT化と介護助手制度による人員配置要件の緩和

厚生労働省では、介護保険施設の人員配置基準を、現在の3対1配置から、4対1配置に緩和する方向を示しています。その緩和要件として、「ICT化の推進」と「介護助手制度の導入」を検討しています。

ICT化の推進

厚生労働省は3年ごとに行われる介護保険制度改正の中で、介護職の業務改善、効率化策として、介護ロボット、見守りセンサー、インカム、介護記録ソフトの導入といったICT化の促進をしてきました。介護保険制度におけるICTの推進は国の施策として取り組まれています。
ICT化を推進することで業務を効率化し、働きやすい環境を整えることができます。結果として限られた人材を有効活用することにもつながります。

介護助手制度の導入

「介護助手制度」とは、地域の元気な高齢者、子育てが終わった主婦の方などを介護助手として雇用することです。介護施設で働く介護職は、入浴介助や排泄介助などの本来業務と共に、食事の配膳、清掃、シーツ交換、入浴後の髪へのドライヤー掛け、備品の補充など多くの間接的な業務も担当していることが多いです。これでは、介護職員が何人いても足りません。
このような間接的な業務を、介護助手が担当することで明確な役割分担が実現し、介護職員は本来の業務に集中でき、負担を減らすことができます。介護助手として雇用した職員の適性を見極めた上で、介護職員などにキャリアアップさせることもでき、職員確保の一つの方法となり得ます。

自己負担2割の対象者拡大

令和6年度の介護保険法改正で、介護保険の自己負担が2割となる対象者が拡大する見込みです。2割負担の条件である年間所得金額の引下げが現実味を帯びてきました。
国は以前から、介護保険の自己負担を原則2割とする方針を掲げていますが、一気に2割負担には移行せず、段階的に拡大する方針です。

ニーズに寄りそった介護サービスが求められる

医療保険においては令和4年(2022年)10月から、年間所得が200万円以上の後期高齢者に対して自己負担2割が適用されています。これにより介護サービスにも影響が出始めています。
受給する年金額は同じですので、これまで買っていた物を買わなくなる、使っていたものを使わなくなるなど、年金受給者はやりくりに苦慮するでしょう。その対象は、介護保険サービスも例外ではありません。

コロナ禍による経済的な打撃、医療保険の自己負担増加に伴い、介護サービスをあえて使わないという認識が高まりつつあり、介護サービス業界は苦境に立たされています。特にデイサービス業界は、利用者数が戻らず、経営体力の弱い小規模事業所が倒産するケースも見られます。
令和6年からの介護保険の自己負担2割が確定した場合、介護サービス全体に大きな影響を与えることが予想されます。今後は今まで以上に、ご利用者様のニーズに合ったサービスを提供することが求められます。

介護老人保健施設の多床室料が全額自己負担に

介護保険の自己負担2割対象者の拡大と共に、結論が令和5年の年末まで先送りされた項目に「介護老人保健施設などの多床室料の全額自己負担化」があります。
介護老人保健施設(以下、老健)の介護報酬単価が、特別養護老人ホーム(以下、特養)より明らかに高いにも関わらず、長期滞在型の事業運営が維持できる理由は、多床室に介護保険が適用されているからです。そのため特養との実質的な支払金額の差が少なく、事業運営を維持できています。もし多床室料が全額自己負担になれば特養との月々の利用者負担額の差が大きくなり、老健の長期滞在者は、割安感の増した特養に移るケースが増えるかもしれません。現在の特養は待機者が少なく空床も生じているため、老健からの移動希望者が増えても十分に受け入れられると想定されます。そうなると確実に、長期滞在型の老健の経営を直撃するでしょう。

さらに財務省は財政制度分科会の提言において、長期滞在型の老健を特養に移管、もしくは特養並みの報酬への引下げも提案しています。基本報酬で「その他型」もしくは「基本型」を算定する老健には逆風が吹いていると言えます。該当する老健は、早期に長期滞在型から脱却して、基本報酬の最高位である超強化型を目指すことを視野に入れた方がよいでしょう。

介護報酬改定の変貌から見るこれからの特養、老健

令和5年(2023年)8月7日の社会保障審議会介護給付費分科会で、特養、老健の介護報酬改定における論点が次のように提示されています。

施設

論点

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)

  • 介護老人福祉施設について、今後も中重度の高齢者が増加することが見込まれる中、入所者のニーズに応え、 安定的にサービスを提供するために、どのような方策が考えられるか
  • 小規模介護福祉施設等の基本報酬に関し、通常の基本報酬との統合に向けて引き続き検討していくべきとされていることについて、どのように対応することが適切か


介護老人保健施設

  • 介護老人保健施設の在宅復帰・在宅療養支援機能の促進に向け、医療ニーズへの対応力の強化、看取りへの対応の充実、リハビリテーションの充実、適切な薬剤調整の推進等の観点からどのような方策が考えられるか


特養に関しては、重度者の増加に向けた医療的な対応の強化と医療・介護の連携による、医師や看護師の配置方法が問題となるでしょう。

老健に関しては、在宅復帰をさらに求める内容となっており、長期滞在型の施設に不利な報酬改定の方向性が見えています。また、医療面の充実とリハビリテーションの強化、かかりつけ医薬剤調整加算の見直しも論点となっています。

前項で紹介したように、介護給付費分科会と並行して、介護保険部会で行われている利用者自己負担2割の対象者拡大、多床室料の自己負担化の審議も注視しなければいけません。
仮に介護報酬がプラスになっても、この2点が実現すれば、稼働率に影響が出てきます。

介護施設経営は、長期的な視点で取り組む事が必要です。制度が大きく変貌し続ける中で、介護施設も変わることが求められていると言えます。「今までは」という既得権にとらわれず、未来志向で進まなければいけなくなるでしょう。

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