2024年7月23日更新
【専門家が解説】令和6年度(2024年度)介護保険法改正、介護報酬改定のポイントまとめ
著者プロフィール/小濱 道博(こはま・みちひろ)
小濱介護経営事務所代表
C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会専務理事
日本各地で介護経営支援を手がける。全国で年間250件以上の介護事業経営セミナーの講師を務め、例年延べ2万人以上の集客実績をもつ。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。介護経営の支援実績は全国に多数あり。
著書:「実地指導はこれでOK!おさえておきたい算定要件シリーズ」第一法規、「これならわかる<スッキリ図解> 介護BCP」翔泳社、「これならわかる<スッキリ図解> LIFE」翔泳社、「これならわかる<スッキリ図解> 運営指導」翔泳社、「よくわかる実地指導への対応マニュアル」日本医療企画、「介護経営福祉士テキスト〜介護報酬編」日本医療企画、「これならわかる<スッキリ図解> 介護ビジネス」(共著) 翔泳社。
ソリマチ「会計王介護事業所スタイル」の監修を担当。
現実となった、多床室料の自己負担化
令和6年度(2024年度)の介護保険法改正の注目ポイントであった「多床室料の自己負担化」ですが、介護老人保健施設(老健)と介護医療院において、多床室料の自己負担化が現実となりました。
介護老人保健施設については、「その他型*1」「療養型*2」が、介護医療院は「Ⅱ型*3」が対象となります。対象となる入所者は月額で8,000円程度の負担増となります。従来、「その他型」「療養型」老健の多床室には介護保険が適用されており、利用者の自己負担額においては特別養護老人ホーム(特養)と実質的に差がない状態でした。しかし、本改正によって老健の長期滞在者は割安感の増した特養に移動するケースも考えられます。特養化した長期滞在型の老健の経営モデルが破綻する危険性が高まったと言えるのです。
介護老人保健施設に関わる注目ポイント
介護老人保健施設では、報酬区分が大きく分かれました。
在宅強化型の基本報酬が4.2%のプラスであるのに対して、在宅基本型の基本報酬は0.85%、その他の型が0.86%と大きく差が開きました。中間の区分である加算型は、特別養護老人ホーム並みの2.9%の改定率となっています。その他、注目すべきポイントは以下の通りです。
基本報酬ランクの評価指標
介護老人保健施設の基本報酬ランクを決める評価指標のハードルが上げられているのも注目すべき点です。入所前後訪問指導割合、退所前後訪問指導割合の指標が引き上げられ、支援相談員に社会福祉士の配置がない場合は点数が減額。認知症短期集中リハビリテーション実施加算では、入所者の居宅を訪問し、生活環境を把握する要件が追加されています。できない場合は、加算単位が半分に減額されます。
短期集中リハビリテーション実施加算
入所時および月1回以上ADL等の評価を行うことなどを要件とする上位区分が設けられています。また、ターミナルケア加算では、死亡日の前日および前々日、並びに死亡日のケアを重視する変更が行われました。つまり、介護老人保健施設にも看取り対応を求めるということと言えます。
ICT使用による緩和措置
全ての入所者について見守りセンサーを導入して夜勤職員全員がインカム等のICTを使用している場合、夜勤職員配置を2人以上から1.6人以上に緩和する措置が取られています。
特別養護老人ホームに関わる注目ポイント
特別養護老人ホーム単独で見た場合、大きな変更点はありませんが、基本報酬が総じて2.8%程度のプラスになっています。
また、社会問題化しつつある透析患者が施設に入所できない問題の解決策として、施設職員による透析患者の病院への送迎を評価する特別通院送迎加算が創設されています。月に12回以上の透析患者の送迎が要件となっており、往復で1回のカウントとする点は注意が必要です。
特養・老健共通で注目しておきたいポイント
業務継続計画未策定減算
令和6年4月より、BCP作成と高齢者虐待防止措置への未対応事業所には減算が適用されています。BCPは特例措置があり、多くの場合は令和7年4月からの減算適用となりますが、虐待防止措置は令和6年4月から適用されています。
注意すべきは、BCPの義務化は令和6年4月であることに変わりはないという事です。
減算とならなくても、運営指導では運営基準違反として指導の対象となるため、BCPの作成と高齢者虐待防止措置は完了していることが必要です。また、業務継続計画未策定減算の算定要件に、「当該業務継続計画に伴い必要な措置を講ずること」が示されている点も注意が必要です。
高齢者虐待防止措置未実施減算
高齢者虐待防止措置未実施減算は、以下の4つを実施していない場合に減算となり、令和6年4月から適用となりました(福祉用具関連は経過措置あり)。
また、厚生労働省資料の介護報酬に関するQ&A*1において、委員会の開催や定期的な研修は、少人数の事業所も免れないとされました。1人ケアマネジャーの事業者や少人数の事業所は、他の事業所との共同開催などを模索することが求められます。
福祉・介護職員等処遇改善加算の見直し
令和6年6月からは、現行の介護職員処遇改善3加算(処遇改善・特定処遇改善・ベースアップ等支援)が廃止となり、新たに創設される「福祉・介護職員等処遇改善加算」に一本化されます。特例として、令和6年度末(令和7年3月)までは、区分Ⅴが設けられています。
▼新加算の算定要件
この新加算の算定率には、2年分の賃上げ分を含んでいます。そのため、6月に移行した段階で算定率は現行の3加算と2月からの支援補助金を合計した加算率より高く設定されています。この増加分は、令和6年度6月から前倒しで支給してもよいし、令和7年度に繰り延べて7年度に支給してもよいとされています。
繰り延べする際に注意すべきポイントの1つ目は、繰り延べて増額した部分の賃金相当分が令和8年度以降の加算で補填されないことです。つまり8年度以降は自腹となります。
2つ目は、繰り延べした部分の収益は令和6年度の収入となり、法人税の課税対象となることです。
それらを勘案すると、令和6年度6月から前倒しでの支給がベストの選択と言えるでしょう。ただし、例外として、毎年定期昇給を実施している場合は、繰り延べて増額した部分で定期昇給を補填する場合は有効です。8年度以降は、自腹は想定内で、少なくても令和7年度の昇給分を加算で補填できるメリットは大きいと言えます。
介護職員等処遇改善加算の算定要件である「職場環境等要件」では、生産性向上のための業務改善の取り組みを重点的に実施すべき内容に改められています。
▼業務改善の例
なお、職場環境等要件の見直しは令和7年度からの適用となるため、令和6年度中は経過措置期間となります。
介護施設全体に関わる変更点
居住費の引き上げ
2024年8月から介護施設の居住費の基準費用額が1日当たり60円引き上げられますが、焼け石に水と言えます。そうしたプラス要素より、介護施設の食費の引き上げが見送られたことの方が、マイナス要素として覚悟する必要があるかもしれません。
新興感染症対策の充実
介護施設系には、特に新興感染症対策が多く盛り込まれました。また、入所者の体調急変に備えて、緊急時対応の準備や、24時間体制で相談、診察、入院のできる医療機関との協力体制の義務化などが強化されています。
特別養護老人ホームの配置医師緊急時対応加算では、従来対象であった、夜間、深夜、早朝の対応に加えて、日中(配置医師の通常の勤務時間外)に駆けつけ、対応を行った場合の区分も創設されています。
問題は連携する協力医療機関との契約です。新たな高齢者施設等感染対策向上加算(Ⅰ)は、第二種協定指定医療機関との連携が要件ですが、該当する病院が全国的に限られていてかなりの狭き門です。
生産性向上への取り組みの強化
短期入所系、居住系、多機能系、施設系のサービスには、3年間の経過措置を設けた上で、生産性向上委員会の設置が義務化されました。同時に、ICT化に取り組み、その改善効果に関するデータを提出することを評価する「生産性向上推進体制加算」が創設されています。
この加算はアウトカム評価の加算で、1年程度、10単位の区分Ⅰを算定し、業務改善の結果が出ていると評価された場合は、区分Ⅱに移行できます。
区分Ⅱでは、入所者全員に見守りセンサーを導入し、出勤して配置すべき介護職員全員分のインカムを配置、介護記録ソフトを導入していることが算定要件となります。
令和6年度は見送りになった案もある
複合型サービスの創設
注目されていた複合型サービスの創設について、令和6年度の改定では見送られました。
新サービスは訪問と通所を組み合わせたものになる予定でしたが、「規制緩和でよいのでは?」「制度が複雑化する」などの指摘も多く、議論を深め、再検討が必要という結論に至っています。
自己負担2割の対象者拡大
サービス利用料の自己負担が2割となる対象者拡大案も令和6年度の改定では見送られました。
物価高が続く中、さらなる負担を求めることで生活に影響を来す恐れもあり、慎重に見極めるべきだという判断です。また、社会保障審議会でも「サービスの利用控えにつながる」「利用者の負担が過重にならないように十分な配慮と検討が必要」という意見もあり、再検討されることになりました。
まとめ
今回の改定で行われた生産性向上やBCP策定、新興感染症対策関連の変更は、これからの介護業務には不可欠な対応となるため、注目すべきポイントと言えます。介護報酬の改定自体は安定した事業運営、職員の処遇改善を目的にしています。魅力ある介護現場を実現するために上手に対応していきましょう。
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