2022年8月30日更新
科学的介護とは?データベース「LIFE」と科学的介護推進体制加算も解説
監修者プロフィール/竹下 康平(たけした・こうへい)
1975年青森県生まれ。
株式会社ビーブリッド 代表取締役、日本福祉教育専門学校 非常勤講師、(一社)日本ケアテック協会 専務理事/事務局長、(一社)介護離職防止対策促進機構 理事、(公社)かながわ福祉サービス振興会 LIFE推進委員会 副委員長。
プログラマーやSE等を経て、2007年より介護業界でのICT関連業務に従事し、2010年ビーブリッド創業。
現在は同社主力事業の介護・福祉事業者向けICT活用支援サービス『ほむさぽ』(homesapo.com)を軸に、介護業務でのICT利活用と促進に幅広く努めている。
介護・福祉事業者向けICT講演回数は全国トップクラスで、(令和3年は71回)が示すように、介護業界のICTご意見番として、行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。
「介護福祉の現場に即したICT活用推進が私の役割」
科学的介護とは?
科学的介護とは、自立支援等の効果が科学的に裏付けられた根拠にもとづいた介護を指します。政府は「未来投資戦略 2017(2017年6月公表)」にて、「介護予防や要介護状態からの悪化を防止・改善させるための先進的な取り組みが必要」として、科学的介護の実現に向けデータの収集・分析を行うためのデータベースを構築する方針を示しました。
国の構想どおり、2017年には訪問リハビリなどの効果を分析するためのデータベース「VISIT」、2020年には利用者の状態や実施したケア内容を集積するデータベース「CHASE」、2021年にはVISITとCHASEを一体化させた「LIFE」の運用がスタートしました。
科学的介護データベースから科学的介護情報システムへ
LIFEは「Long-term care Information system For Evidence」の略で、日本語にすると「科学的介護情報システム」という意味です。
介護分野でも、医療分野同様に根拠に基づくサービスの提供が求められています。LIFEの運用開始によって以前よりも多くのデータを収集・分析できるようになり、エビデンス(根拠)に基づいた、より質の高いケアの実現が可能となる下地が作られました。
事業所(施設)に求められるのはLIFEへのデータ入力
LIFEは、情報を収集・分析し、分析結果を介護事業所にフィードバックする仕組みです。LIFEからフィードバック情報を得るためには、利用者の情報や状態、実施したケアの内容をシステムに登録しなければなりません。
2022年6月現在、フィードバック機能については開発中となっていますが、全国の介護事業所が登録した情報の集計結果としてはフィードバックされています。将来的に、LIFEからのフィードバック情報には、利用者それぞれに個人が受けているケアの効果が十分であるかや適切なケアが何かという事が示されるようになる予定です。
LIFEへの取り組み状況と活用の実態
ここからは、厚生労働省が実施したLIFEを利用する介護事業所に行ったアンケート調査(※)をもとに、LIFEの活用状況を紹介します。
LIFE導入後の変化
LIFEの導入によって、利用者のアセスメントに変化があったと回答した事業所は50.1%にのぼりました。LIFE導入後にほとんどのアセスメント項目において実施割合が増加しており、とくにADL、行動・心理症状、意欲の項目で大幅な増加が見られました。
利用者のアセスメントに関するLIFE導入前後の変化
「定期的なアセスメントでケアに対する姿勢に変化が生じた」とする事業所もあり、LIFEがケアの質の向上に寄与していることがわかります。
LIFE活用の効果
実際にLIFEを活用することで、次のような変化・効果を得たと回答している介護事業所もありました。
LIFEによって利用者の状態が可視化された結果、目標設定が明確になったり、スタッフ同士の情報共有も容易になったりしていることが分かります。さらには、他施設の取り組み内容を参考にすることができるのもLIFE活用の利点です。
LIFEの導入で科学的介護推進体制加算の対象に
科学的介護の浸透やエビデンスの獲得、現場でのデータ活用などを目指し、令和3年度の介護報酬改定にて「科学的介護推進体制加算(LIFE加算)」が創設されました。また、他の加算についてもLIFEの活用等を要件に含むなど、LIFEに関連した見直しが行われています。
ここでは、新設された科学的介護推進体制加算について詳しく説明します。
科学的介護推進体制加算
科学的介護推進体制加算は、LIFEを通して利用者の情報を提出し、LIFEを活用してPDCAサイクルを推進することで受けられる加算のことです。この加算では、今回LIFEの活用が求められたほぼすべての介護サービスが加算対象となります。加算単位は、介護サービスの種類や提供する情報の内容によって異なります。
算定要件1. 厚生労働省への情報の提出
算定要件の1つ目はデータの提出です。利用者に関する次の情報を、LIFEを用いて厚生労働省に提出します。
また、これらの情報の提出には期限があります。初回のデータ提供は、算定開始日の翌月10日までに行い、2回目以降の情報提供は少なくとも6ヵ月ごとに行わなければなりません。
算定要件2. LIFEを活用したPDCAサイクルの推進
2つ目の要件が、LIFEからの情報をもとにしたPDCAサイクルの推進です。科学的介護推進体制加算におけるPDCAは以下の通りです。
Plan(計画)
利用者の状況や状態などの基本情報をもとにサービス計画を作成する
Do(実行)
サービス計画に基づき、利用者の自立支援・重度化防止を目指しケアを実施する
Check(評価)
LIFEに登録したデータやフィードバックをもとに、多職種が連携しながらサービス計画やケア内容などを検証する
Action(改善)
検証結果をもとにサービス計画を見直し、サービスの質の向上を目指す
LIFEを活用したPDCAの推進では、多職種が連携して積極的にサービスの質の向上に取り組まなければなりません。
まとめ
科学的介護は、将来にわたって少子高齢化が進むと見られる日本において今後さらに重要なキーワードと言えます。その上で不可欠なシステムであるLIFEを活用することで自施設内での情報活用はもちろん、他施設の取り組み内容も確認できるようになり、スタッフのスキル向上や生産性の向上、ケアの質の向上にもつながるでしょう。
参考:
・首相官邸 未来投資会議「未来投資戦略2017」を加工して作成
・厚生労働省 科学的裏付けに基づく介護に係る検討会「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会 取りまとめ」
・厚生労働省「(2)LIFEを活用した取組状況の把握及び 訪問系サービス・居宅介護支援事業所における LIFEの活用可能性の検証に関する調査研究事業 (結果概要)(案)」
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