介護現場でのリスク管理として書くことを求められる「ヒヤリ・ハット報告書」。報告書は事故を防ぐだけでなく、ケアの質の向上にもつながるものですが、日々の忙しさの中、書くことの意義を忘れがちです。報告書を書く意味とスキルアップにつながる書き方をあらためて確認していきましょう。
文/高野千春 イラスト/岡村奈穂美
監修/高橋好美
特別養護老人ホーム レジデンシャル常盤台施設長。看護職、メディカルソーシャルワーカーを経験した後、社会福祉士、介護支援専門員の資格を取得。大田区立特別養護老人ホームたまがわ特養第一課課長を経て、2009年より現職。
なぜ報告書を書くの?
ヒヤリ・ハット事例や事故の報告書を書くことには、重要な意味があります。利用者、介護者、事業所のために必要であることを、ここでしっかりと確認しておきましょう。
ヒヤリ・ハットを事故防止の入り口として考える
一般的に「ヒヤリ・ハット報告書」とは事故につながりかねなかった出来事を報告する書類をいいます。一方、「事故報告書」は事故の状況、原因、その後の対応を詳細に報告するものです(この特集で扱う事故報告書は行政へ提出する「介護保険事業者事故報告書」ではなく、施設内で用いる書類を指します)。 得てしてヒヤリ・ハット事例は当事者や周囲の受け止め方が軽微になりがち。しかし、ヒヤリ・ハット事例も事故防止の入り口として捉え、事故を防ぐという視点から検証することが必要です。報告書をしっかり書くためにも、まずは「書く意味」を改めて考えてみましょう。
【1】〝防げる事故〞を防ぐため
介護の現場では、利用者が自分らしく生活しようとすると、転倒などの事故はある程度避けられないものですが、それでも防げる事故と防げない事故があります。防げる事故は介護中のミスによることが多く、ほかにも同じような事故が起きている可能性があるので、同様の事故であっても、そのつど報告書を書くことが重要です。それらを集計・分析し、データに基づいて対策を立てることで、事故を防ぐことができます。
報告書の活用例
転倒や車いすからずり落ちたりする報告が増えるようになり、何らかの対策を講じる必要が生じました。
事故が起きた時間、場所、内容を集計し、その傾向を分析すると、食事前後の事故が多いことがわかりました。そして要因も推測できました。
食事前後は、配膳や下膳などで職員の目配りが不十分になることから、その時間帯にパート職員やボランティアを増員。利用者を見守る人が増え、事故は減少しました。
【2】ケアの質を上げるため
事例・事故の内容を、職員全員で共有するのはとても意味のあることです。どうして起こったのか、どうすればよかったのか、そのためには何が必要かを考え話し合うことは、職員自身の介護の見直しにもつながり、今後のケアの質を向上させます。
グループワークをしよう!
1つの事例を取り上げ、グループごとに話し合う「グループワーク」が効果的です。この場合、報告書での事例をそのままテーマにするのではなく、あくまでも「起こりがちな事例」として発生日時や利用者の情報は架空のものに。一般化し、提出者を特定しにくくすることで、職員が報告書の提出を躊躇することのないようにします。グループワークには、ケアを行う職員だけでなく、施設の運営に携わる全職員が参加すると、視点の異なる意見の中から気づくこともあります。
【3】〝もしもの時〞に介護職を守るため
重大な事故が起こってしまった場合、報告書は行政へ提出する「介護保険事業者事故報告書」のベースとなり、事業所として適切な対応が行われたかどうかの「証」となります。当事者や事業所はこれによって守られるというわけです。ですから、報告書には起きたことや対応を正確に書くことはもちろん、日々のケース記録や介護記録にも必ず記録する必要があることも覚えておきましょう。
報告書の活用例
自立の利用者を介助するため、排泄時にカーテンの外側で待っていたところ、下着を上げるため立ち上がろうとして転倒。便器の前で尻もちをついていました。
トイレ介助を嫌がる利用者に配慮していたこと、それまで排泄や下着の上げ下げは自力で行っていたことを報告書に明記。適切な対応がなされていたことが示されました。
【4】家族とのトラブルを避けるため
日常生活における事故の可能性は、高齢になるほど高まります。また、介護を必要とし、認知症を有するとなれば、そのリスクはさらに高まります。これをゼロにするのは不可能であることを日ごろから家族に理解してもらう必要があります。報告書によって家族と事故の内容を共有し、信頼・協力関係を築いていきましょう。
介護において記録を書くことはマスト!
ヒヤリ・ハット事例や事故の報告書に限らず、記録は大切な業務の一つです。記録は施設内の出来事や、その時の対応・ケアの事実を残すだけでなく、介護者同士の情報共有ツールになり、一人ひとりのケアの仕方の確認の機会になります。「 記録を書く時間をケアの時間に当てたい」と思う介護者もいるかもしれませんが、それは間違いです。記録を書くことは必ずやらなければならない専門職としての「マスト(Must)」の仕事だと認識することが大切です。
いい報告書を書く人はいい仕事をする!
ヒヤリ・ハット事例や事故の報告書を書く場合には、事例の状況を客観視し、整理して捉える必要があります。それを踏まえて適切な記録を行うことで、その要因についての気づきが生まれ、ケアの振り返りにもなり、いい記録=事故の防止につながっていきます。このようにしっかりと記録する習慣を身につけることは、介護者のケアスキルを成長させてくれます。つまり、いい報告書は「いい仕事ができる証」でもあるのです。
正しく伝えるための「3つのコツ」
①短い文章で書く
「いつ」「誰が」「どこで」「何を」「なぜ」「どうした」のうち、わかる部分だけでもいいので簡潔に記載します。内容を絞って短い文章にし、1文ごとに改行を。内容がわかりやすくなります。
例)
昼食後(いつ)、 ○○様(誰が)を車いすにのせ、××公園を(どこで)散歩中、車輪が小石につまづき(なぜ)、転倒しそうになった(どうした)。
急いでブレーキをかけたため、転倒せずに済んだ。
②客観的に書く
何かが生じた時、普通は「何があったんだろう」と推測します。しかし、報告書への記録の場合、主観は交えず、見たままの内容、聞いたままの言葉をそのまま書き留めるようにします。推測を入れる場合は、文章の最後に入れるようにします。
例)
夕食前、○○様が廊下にうつぶせで倒れていたのを見つけた(見たままを書く)。
かたわらに車いすがあった(見たままを書く)。
立ち上がろうとして車いすから落ちたものと思われる(推測を入れる場合は最後に)。
③専門用語・略語・施設独自の言葉は使わない
報告書は、職員だけでなく、利用者の家族など外部の人が見た場合にも理解できるように書かなければなりません。専門用語や略語、施設内でしか通用しない言葉は使わないようにします。
例)
訪室したら、○○様が便器の前でお尻を床につけた状態で座っていた。
ナースコール(✕Ns'c、NCなど)を押さずに、リハビリパンツ(✕リハパン)を上げようとしたと思われる。
書きやすい!伝わりやすい!報告書の例
以下は、文章の苦手な人でも書きやすく、しかも伝わりやすい報告書のフォーマットの例。
ヒヤリ・ハット事例や事故の情報を集積し、データとして分析しやすくするためには、フォーマットを整えることが大切になります。
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【事例1】タンスの引き出しの中のものを取ろうとして、転倒してしまった
【事例2】湯温を確かめずに浴槽に水を張ってしまった
本記事は世界⽂化社の提供により掲載しています。
[出典]レクリエ 2018 1・2⽉
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